蜂蜜果蜜

□蜜二十九滴
2ページ/2ページ


『あー……ここどこ?』

数分前に甘味屋での買い物を終えた私はひよ里の待つさっきの調味料の店へ行こうとした。

だが何故か今私がいるのは花畑。

さて、何が起こったのだろうか。

『違いますね、そうですね、私が迷っただけですね、分かってますよ』

あの甘味屋あるとこら辺あんま来たことなかったからな…人いないなーとは思ってたけど、まさか迷うとは。

どうしよ。来た道戻った方がいいのか。それともここでひよ里が迎えに来るのを大人しく待った方がいいのか。いや、来た道覚えてないから選択肢は一つだな。

ここで大人しく待つことにした私は大きな桜の木の根元に座った。もうそろそろ三月に入るせいか桜の木には小さなつぼみがいくつかついていた。

それを見て春だなーっと思っていると、どこからか啜り泣きのような声が聞こえてきた。

…何だ?

私は甘味が入った風呂敷を手にとって声が聞こえる方へ足を進めた。そして私は花畑の中心で立ち止まった。

そこにはうずくまって泣いている小さな男の子が一人。

『……………』

えぇーっと…これはどうするべきか。…とりあえず声かけてみるか…

私はしゃがんで声をかけてみることにした。

『大丈夫?どうしたの?』

「うっ…ひっく………だぁっ…」

『ん?何?』

「こっ…ころっ…んだぁ……」

『………………』

男の子の足元を見てみると近くに切り株があって、地面には花がつぶれて土が少しすり減っていた。

……単純に転んだのね。

『足見せてごらん。立てる?』

「うっ…いたぁい……」

『立てない?んじゃあ持ち上げるよ。よい…っしょっと』

ストンッ

私は男の子の脇の下を持ち上げ地面に立たせた。すると膝から血が出ていた。所々に擦り傷もできていた。

「ひっ…うぁっ……」

『そんな泣かなくてもいいよ。今手当てするから』

んー…鬼道使うか…?いやでもそっち系の鬼道苦手だしな…失敗したらアレだし…

私は少し悩んでから甘味が包んである風呂敷をとって細く裂いた。

ビリビリビリッ

そして男の子の足に巻き付けた。

『これで我慢してね』

「ひっく…っうあ゛ぃ…」

『だから泣くなって……はい、終わり。どう?歩ける?』

そう聞くと男の子はその場でぎこちなく足踏みした。

「あるっ…けるっ」

涙はだだ漏れだけどね。……あ、そうだ。

私は泣き止む気配がない男の子に、さっきまで風呂敷の中に入っていた大量の焼き菓子を差し出した。

『手じゃ運べないから半分あげる、はい』

「あ…ありがっ…とう」

『どういたしまして』

男の子は私から焼き菓子を受け取った。そしてようやく涙が引っ込み始めた。とは言ってもまだひくひくいってる。

泣き虫だなーっと思っていると、遠くからお馴染みの怒鳴り声が聞こえてきた。

「桜ーっ!お前何迷子になってんねん!!張っ倒すぞコルァァ!!」

『ひよ里。つーか声デカ』

ひよ里は数メートル先で手をブンブンふりながら騒いでいる。私は立ち上がり着物についた土をはらった。

『もう行くね』

「うっ、うん」

『だから泣くなって、男の子じゃん。あ、そーいや名前は?』

私がそう聞くと、男の子は涙を手で拭いながら口を開いた。

「ひ…檜佐木…修兵…」

『檜佐木修兵ってめっちゃカッコいい名前じゃん』

世の中には平子真子っていう名前の四文字中の半分が子っていうカッコいいのカの字もない残念な人がいるんだよ。

私はそんなことを思いながら修兵の頭の上にポンっと手をおいた。

『カッコいい名前に負けないようにカッコ良く且つ強くなれよ』

「う…っうん!」

『よし、じゃあどっかで会えたらまたね』

私はそう言ってひよ里が待つ方へ歩き出した。

あ…やっぱ風呂敷なきゃ運びずらいな。ひよ里に半分持ってもらお。

腕からこぼれそうになる焼き菓子たちを落ちないようにバランスをとって運んでいると、今度は後ろから声が聞こえてきた。

「おねーちゃん!」

修兵だ。私は焼き菓子を落とさないようにゆっくりと振り返った。

「おねーちゃん何で刀持ってるの?死神さんなのっ?」

修兵はさっきまで流していた涙を引っ込めて力強く声を張り上げていた。私はそんな修兵の言葉を聞いて自分の腰に視線を向けた。

…半分正解で半分不正解だな。

私は修兵のとこまでよく聞こえるように声を張り上げた。

『今度会ったら教えてあげる』

私はそれだけ言って小走りでひよ里の元へ向かった。するとひよ里はイラついた表情で口を開いた。

「何迷子になってんねん!その歳で迷子てアホか!!うちがどんだけ探し回ったと思てんねん!!」

『ごめん、ここら辺来たことなかったから』

「ったく!せっかくの休みなのにごっつ疲れたわ!!さっさと帰んで!!」

『うん、帰るけどコレ運ぶの手伝ってよ』

そう言って私は腕いっぱい抱えたものを見せた。

「は?何やそれ。風呂敷どうした?」

『破った』

「破った!?何で破る必要あんねん!!お前うちのいない数分の間に何があった!?」

『人には色々あんだよ。いーから手伝ってよ』

「どーやったら風呂敷ビリビリに引き裂く事態になんねん!!色々ありすぎやろ!!」

『それが人生』

「知るかっ!!」

スパンッ!!

『いって…!』

ちょっとふざけただけなのにひよ里に殴られた。この場合はどつかれたと言った方がいいのか。

ひよ里は激しいツッコミをかましながらも私から半分焼き菓子を受け取った。

『餡蜜は別に持ってるから』

「そんならええけど…それよりさっきのガキ誰やねん。知り合いか?」

『うん、名前に負けてる将来イケメンになりそうな男の子と今さっき知り合った』

「何やそれ」


















『平子隊長ーお饅頭買ってきたんですけど食べますか?』

「おー食べる食べる。あーんしてや」

『いいですよ。口開けてください、はいあーん』

「何や、えらい素直やな。そんなら遠慮なく」

パクッ…ジャリッガリガリバリッ!!!!

「―――っ!!!!?????」

『ひよ里と私からのプレゼントです。味わって食えやコノヤロー』

それから四日間、平子隊長はお腹を壊したそうです。

「まったく……あの人はどこで拾い食いしてきたのだか…」

『拾ってはないかもですよ藍染さん』

「………何したの?」
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ