蜂蜜果蜜

□蜜二十九滴
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『辛いの、酸っぱいの、甘いの、苦いの、不味いの。さーどれを饅頭にまぜるか』

「そらァクッソ不味いのに決まっとるやろ!!」

『吐くレベルの?』

「あったり前や!朝食ったモン全部ぶちまけるよーなやつ作るで!!」

とても生き生きしていますね、ひよ里さん。と、思いつつ私もかなり生き生きしています。

私達はありとあらゆる調味料が揃った店の前で不似合いな会話をしていた。

一体何を企んでいるのかと言うと、事は一時間前に遡る。



―――一時間前―――

「あァァァァァァ!!!!」

「うっさいわボケ。騒ぐなやボケ。黙っとけやボケ」

「ボケボケ言うなボケハゲシンジッ!!」

「ボケハゲシンジて何やねん。俺そんな横文字の名前ちゃうけど。つーかボケでもハゲでもないわボケ」

「なんやとゴルァァ!!」

『うるっせーよ。オメーら二人とも黙れ。つーか息止めろ、言葉を発するな、二酸化炭素を放出するな』

私の目の前で平子隊長の胸ぐらを掴む勢いで騒いでいるひよ里。その理由はテーブルの上のお菓子の食べカスが全て物語っている。

今日、私とひよ里は非番で今朝一緒に出掛けてきた。そして今人気の和菓子屋の餡蜜を買って来たのだか、

どーも…ひよ里がトイレに行っている間に平子隊長に食べられちゃったらしい。因みに私は帰ってきてソッコーで食べた。こんなことになりたくなかったので。

「せやかて桜!コイツうちの餡蜜勝手に食べよったんやぞ!?ごっつ楽しみにしとったのに!!ごっつ食いたかったのに!!って伝えろ桜!」

『…だそうですけど?』

「知るか。そんなんココに置いとくんが悪いんやろ。こんなん食ってください〜言うてるのと同じやんけ」

『いや、それは違うと思いますけど。自分のじゃないって分かってるなら食べるなよ』

「そんなら名前書いとけや。マッキーペンでデカデカと“ひよ里”て書いとけや。って伝えくれ桜チャン」

『……だそーだけど?』

「勝手に人のモン食ったくせに何をほざいてんねや!!何で一々マッキーで名前書かなアカンねん!!お前の頭ン中に“人のモン勝手に食うな”って単語叩き込んだろかっ!?って伝えたれ桜!!」

『……あのさ、目の前に本人いるんだから直接喋ってくんない?』

「ほんなら食べられても文句言えへんやんけ!大体何でお前が五番隊おんねん!!自分トコの隊舎さっさと帰れや!喜助ントコ帰れや!!って伝えろ桜チャン!!」

「はァァァ?何でうちが休みの日まで喜助ンとこ行かなアカンねん!!ふざけたこと抜かすのも大概にせェよ!?って伝えたれ桜!」

『もう直接喋ってんじゃねーかよ』

必要なくね?私いらなくね?語尾に伝えろってつけんの要らなくね?

そう思いながら目の前の二人のやり取りをスルーしていると、藍染さんが遠くで無表情になっているのを見てしまった。

目に光が宿っていなかった。

無になっていた。

明日どころか一分後も見えていないようだった。

これは…ヤバイ。

そう思った私は平子隊長とひよ里を引き離そうとした。

『ひよ里、もう諦めろ。胃の中に消えたものはリバースしてこない限り戻ってこない。隊長も悪い事したんだから謝ってさっさと仕事再開してください。じゃないと藍染さんが灰となって消えますよ』

「そうや!謝れ謝れ!!」

『お前は煽るな』

拳をあげ殴りかかろうとするひよ里。私はそれを襟首をつかんで止める。だが平子隊長はそれをバカにするかのように変顔する。

「誰が謝るかアホ〜」

「何やとっ!?」

『わかった。もう謝らなくていーからお前らお互いに近づくな。拉致あかねーよ』

ほら見ろよ。藍染さんもう灰になりそうだよ。つーか陰だよ。陰と一体化しそうなほど暗くなってるよ。

陰になっていく藍染さんを見て、私はひよ里を無理矢理外へ連れていこうとした。

『ほら、もう一回買いに行こ』

「何でうちがもう一回金払って買わなアカンねん!!イヤや!!」

『しょーがないでしょ。無いもんは無いんだから。奢ってあげるから行こ』

「……しゃァないなァ」

顔に不満を出しながらも納得したひよ里。

ようやく納得したかと一安心していると、そこにバカが余計な一言を放った。

「そんなもんばっか食っとるから腹に肉溜まんねん。桜チャンも最近フヨフヨしてきたんとちゃうか?気ィつけなアカンでェ〜」

ここで私とひよ里の中の何かがキレた。

ドカバキッドゴドカァッ!!!!

ここから先は効果音だけで想像してほしい。



―――現在―――

…と、いうことがあり仕返しをしようという訳だ。

うん、普段はね。太った?って言われたくらいで怒りませんよ。精々口で文句言うくらいですよ。でもなぁ私…

五番隊に来てから痩せたからな。

誰かさんのせいで仕事量ガッツリ増えてガチで四、五キロ痩せたからな。それなのに…だぁ〜れがフヨフヨしてるって?

はっ、ぶち殺すぞ。

『あの言葉言ったこと…後悔させてやる』

「おう!!その為にもクッソ不味いもん作るで!!」

『吐くレベルのな』

女の子に禁句をいったあの隊長。…いや、ボケハゲ隊長野郎の腹ん中からグロテスクになった餡蜜引きずり出してやらァ。

「おっ、これなんかどうや?よォ分からんけど色紫やし不味そうやないか?」

『うわ、色キモ。じゃーそれ決定ね。あとどれにする?』

「つーかテキトーなモンまぜたらえーんとちゃうか?大抵不味くなんやろ」

『それもそーだね。そんじゃあテキトーに買っとくか。あとはそこら辺に生えてる雑草とか土とか入れときゃいーだろ』

「おっ!それええな!!そんじゃーコレ買ってくるわ!!」

そう言うと小走りでお会計をしに行った。

『いってら。私その間にさっきの甘味屋行ってくる。餡蜜以外に欲しいのある?』

「焼き菓子食いたい!!あるだけ買ってこい!!!!」

『人の金だと思って…』

でも平子隊長に餡蜜食べられちゃったからな…

私は仕方ないと思い、財布の中身を確認しながら甘味屋へ向かった。
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