蜂蜜果蜜

□蜜二十八滴
1ページ/1ページ


「それでですね!いつまでたっても返事がこないんスよ!!」

『へーそれは大変だー』

どうもこんにちは。あ、おはようだった?それともこんばんは?おばんです〜だった?

まぁ間をとってこんにちはで。

さて、今何をしているかと言うと…

「どう思いますか!?」

『知らねーよ』

私にも分かりません。

一体全体私は何をしているのだろう。

私は目の前で必死になって話す五番隊の平隊士(新田)を鬱陶しいそうに見る。

「知らないって…酷いっスよ月ノ瀬さん!!俺がこんなに悩んでるのに!!」

『だから知らねーって』

「そんなァ!!それはないっスよ!!」

『仕事中に邪魔してくるあんたの方が有り得ないですからね』

そもそも何故この男、新田さんがわざわざ仕事中の私のところへ来たかと言うと…それはそれは下らない理由で、

「だって告白して一週間立つんスよ!?丸々一週間音沙汰なしって…俺脈なしってことっスか!?諦めた方がいいってことっスか!?」

『だから私に恋愛のこと聞かれても知らないですってば』

悩み相談でした。

何故こんなことに…

事の始まりは三日前。珍しく一人で夕飯を食べに行った私はたまたま五番隊の隊士達と店で一緒になった。隊士達は酒が入っていて日頃の愚痴や悩みをベラベラ話し出した。それをテキトーに受け流していた私だが…

話したら気が楽になったとか、良いアドバイスをもらったとかで、次の日になったら身に覚えのない噂が瀞霊廷内に広まっていた。そして休憩中だろうと仕事中だろうとこうして悩みを抱えた人達が私を訪れてくるようになった。

…何故こうなるんだ。私はただ酔ったオヤジ共にあれ以上絡まれないように毒吐かずに軽く流してただけなのに…おかしくね?コレ。

「そこをなんとかぁぁぁ!!俺もうっ…返事が気になって気になって仕事も手につかないんスよ!!!!励ましの言葉だけでも…っ!」

『あー…じゃあ返事もらいに行ったらいいじゃないですか。めんどくさい』

「じっ自分からっスか!?……そうっスよね…男なら自分から行くべきっスよね!」

そういう風に解釈したんならもうそれでいいよ。

『そうだー男気をみせろー。新田さんならできるさー(棒読み)』

「ですよね!!俺っ!今から行ってくるっス!!悩み聞いてもらってありがとうございました月ノ瀬さん!!!!」

そう言って新田さんは立ち上がると“やるぞォォォォ”と叫びながら執務室を出ていった。

『フラれてもしーらね』

そう言いながら私は興味無さげに書類を束ねた。そしてテーブルに出しっぱなしになっている硯と筆を片付けに立ち上がった。

また投げ出したな隊長。途中で投げ出すくらいなら最初からやるなっつーのめんどくさい。つーか片付けてけよ。私か藍染さんがやると思って最近全然後片付けしないんだあの人。

『しかも書類も中途半端。なんだ、最近のマイブームは途中放棄か』

私はブツブツ文句を言いながら硯に残った墨を片付けた。

あ、ヤベ。墨ついた。

洗わなきゃ洗わなきゃ、と急いで硯と筆を片付けると水道のある給湯室へ向かおうとした。その時控えめの声が廊下から聞こえてきた。

「す、すみませんっ…月ノ瀬三席はいらっしゃいますか…?僕十三番隊の杉村と申します!その…話を聞いてもらえると聞いてっ…」

…ここはいつからお悩み相談室になったんだ?












「あざっした桜さん!!」

パタンッ

本日五人目の相談終了。

『あ゛ー…仕事になんねェ』

私は倒れるようにソファーに寝転がった。

もう何なのさ…皆して何なのさ…そんなに私に仕事をさせたくないのか。そんなに私に残業をさせたいのか。良かったですね、皆さんの思い通り私は今日残業ですよコノヤロー。

つーか…相談されてもどーしていーかわかんねぇーし。ただただ聞いて流しての繰り返し。そして最終的にメンドーになって棒読み状態でテキトーに意見言って。

はてさて…これはお悩み相談になってるのでしょうかね。いや、そもそもお悩み相談室なんか開いてねーし。

もうぜんっぜん仕事してないよ。

『今日に限って会議長いし…藍染さーん…早く帰ってきてー…』

つーかギンどこ行った…今日見てねーぞ。……あ、休みか。くっそ…こんな日に限ってギンもいないって…運悪すぎだろ私。

だァ……完璧やる気失せた。

味方が一人もいないことに気づいた私はうつ伏せになってピクリともしなくなった。その時、今度は陽気な声が廊下から聞こえてきた。

「桜サーン、浦原ですけど入っていいっスか?」

『Uターンして帰ってください。今凹み中なんです』

「そうですか〜それはお可哀想に〜」

スーッ

「おや、本当に凹んでますね」

『話聞け』

浦原さんは私の言葉をスルーして執務室に入ってきて私の向かい側のソファーへ腰かけた。私は嫌々体を起こした。

『あれ…隊首会終わったんですか?』

「今さっき終わりましたよ。平子サン達は総隊長に呼ばれて居残りっス」

『そうですか…て、浦原さんは何故ここに?今ちょっと心が弱ってるんで簡潔にお願いします』

そう言うと浦原さんは困った顔をした。

「何かあったんスか?都合が悪いならまた今度にしますが……彼女のことで少し悩みがあったんスけど『今なんて?』はい?」

コイツ今何て言った?彼女っつったよね。カ・ノ・ジョって。

えぇぇぇ…彼女いたのか浦原さん。意外。まぁ顔はいいとして性格にかなり難有りの浦原さんが…彼女ねぇ。

…おもしろい。

やる気のない目が一気に煌めいた私。

『悩みですね。聞きます聞きますつーか聞かせてください。なんならアドバイスもしちゃいますよ』

「本当ですか?でも…いいんスか?さっき凹み中だとか心が弱ってるとかおっしゃってましたけど」

『いーんです。私の心なんてどうでもいいんです。大抵のことは一日で復活しますから。それよりも今は浦原さんの彼女の話が大事です』

「そうっスか?それじゃあお言葉に甘えさせてもらいますね」

そう言うと照れくさそうに話し出した。

「彼女のことなんスけどねぇ…最近構ってあげられなかっもんで拗ねちゃったんスよ。それでなかなか機嫌をなおしてもらえなくて」

『待った。もうちょい彼女について詳しく聞かせてもらえませんか?出会いは?いつ?』

「そうっスねぇー…もう長いこと付き合ってますねぇ。大体ボクが死神になった頃からっスかね」

『…長っ』

意外と一途なのか…?

『どんな娘ですか?』

「んー…気難しいっスかね。でもそれなりに腕は立つっスよ。相棒みたいなモンですから」

相棒ね…そんじゃー相手は死神?どこの隊の人だろ…

『それでその彼女が拗ねちゃって困ってると』

「そうなんスよぉ〜。全く口聞いてくれなくて」

『女ってメンドーですね』

「桜サンも女の子っスよ?」

『そんな乙女じゃないんで。構われなくなったくらいで拗ねませんよめんどくさい』

「サバサバしてていーっスね。平子サンはそんなところが気に入ってるんでしょうね」

別に気に入られたくねーよ。つーかそのために五番隊に入ったんじゃないし。…いや、強制入隊だったけども。

「それでどうしたもんスかね…?」

『んー…何か下手に動くと逆効果かもですね。怒りを買いそう』

「そうなんですよ…ボクが何言っても駄目で。……そうだ!桜サンが彼女と話してみてはくれませんかね?」

『…はっ?私が?』

浦原さんはパッと顔を明るくさせ自信満々にそう言った。

いやいやいや…私が浦原さんの彼女とお話しするのは何か違うでしょ。てかおかしいでしょ。余計に怒りを買いそうだよ。嫌だよ私。“ちょっと!この女誰よ!?”とか言われんの。

私はあからさまに嫌そうな顔をすると浦原さんはニコニコとしたまま言葉を続けた。

「大丈夫っスよ。桜サンなら親しみやすいですし五番隊の女性隊士の皆さんとも仲がよろしいじゃないっスか。少し話してみちゃあくれませんかね?」

『別に親しみやすくないですし特別仲が言い訳じゃないですからね。てゆーか同性の人からはケッコー嫌われるし』

「そうっスか?…そうは見えないっスけどねぇ。とりあえず今から彼女連れてきますね」

『オイ待て待て待て。あんたは人の話をスルーするな』

私は慌てて止めるが、浦原さんは一向に立ち上がろうとしない。代わりに一本の刀を前に出した。

……え

「ここ最近研究ばっかで技局にこもってたもんで拗ねちゃったんスよ。どうにかなりませんかね?」

『ちょっ…待った待った。彼女ってもしかして…』

「見ての通り紅姫っスけど?」

『…………』

…………何ですと?

とてつもなく大きな勘違いをしていたらしい私はその場でフリーズした。そんな私を見た浦原さんは笑いながら指差してきた。

「おやァ?もしかして何か勘違いをしていたんですか〜?やっだなァ桜サン、ボクに人の彼女がいるわけ『帰れ』えぇっ!!」




月ノ瀬お悩み相談室、これにて終了。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ