蜂蜜果蜜
□蜜二十七滴
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毎日仕事、毎日書類整理、毎日虚討伐、毎日パッツンの相手。
こんな私の日常に最近新たなものが加わった。
それは私より小さくてとても可愛い男の子。
「桜ちゃんこれ失敗してもーたんやけど…どないしたらええ?」
『んー?…あ、いいよいいよそんくらい。良くできてる、ありがとう』
「ほんま?おおきに。桜ちゃんはやっぱ優しいなぁ」
…ほら見ろ、この可愛い笑顔を。悩殺もんだよコレ。何で同じ字が入ってて同じ銀髪なのに、こんなにあのマダオとは違うんだろう。まあ、銀さんと違ってギンはストレートのサラッサラヘアーだけど。
「桜ちゃんが五番隊の三席サンでほんま良かったわぁ」
『そんな可愛いことサラっと言わないの。タラシになっちゃうぞー』
「そんなんならんよ。ボクは素直なだけや」
『そこがまた小悪魔』
私はそう言いながらギンの頭を撫でた。するとギンは気持ち良さそうに細い目を更に細めた。
「ボク桜ちゃんのお手て好きや。優しぃー感じすんねん」
『ほらまたそうやって…でも可愛いから許す』
「あのー…そろそろイチャつくンの止めてもらえますかー?ムッショーに腹立つわ」
『私はあなたのその発言に腹が立ちます』
チッ…私の癒しタイムをぶっ壊しやがって…
私はギンの頭から手を引っ込めて、ソファーでだらけている平子隊長を睨み付けた。
ギンが五番隊に来てからずっとこの調子だ。めんどくさいったらありゃしない。
『あんな大人になっちゃ駄目だよ?』
「安心してや。絶対ならんから」
「失礼な奴がもう一匹増えたな…」
『そう言われたくなかったちゃんと仕事してください。何ですかその格好?ふざけてんですか』
私はそう言いながら平子隊長の目の前に立った。
「ふざけてへんて。ちゃーんと書類書いとるやん。あ、間違えた」
『それのどこがふざけてないと言える』
今現在の平子隊長の格好を教えよう。
ソファーに寝転がりながら頬杖をついて腕をだらんと伸ばしながら、テーブルの上にのった書類に筆を走らせている。そんなふざけた格好だ。
『ちゃんと起きて書いてください。てゆーかギンに変なもん見させないでください。悪影響だ』
「誰が変なモンや。書いてんやから別に問題ないやろ。ほれ、出来たで。ちょこっと失敗したけどえーやろ」
『駄目です。やり直してください』
「はっ?何でや。さっきギンの時はええて言うてたやんけ。差別や差別!」
『これのどこが…っ』
私は差し出された書類を奪い取ってテーブルに置いた。
バンッ!!!!
『差別だーっ!!何なんですかコレ!?読めないんですけど!!一文字たりとも読めないんですけど解読不能なんですけど!!しかも何でこんなにはみ出してんですか!!あんた書類仕事ナメてんですか!?一辺文字を習うとこからやり直してきたらどうですかこの駄目社会人!!!!』
「長っ!つーかひどっ!!ギンの時とえらい態度ちゃうやんけ!!」
『真面目に仕事しないやつに優しくする価値なし。今すぐやり直してください』
「出たで…鬼ババ」
『腹わたでも引きずり出しましょうか?』
「桜ちゃんそれは執務室が血だらけになるから、首絞めぐらいにしといた方がええと思うよ?」
『そうだね。ナイスアドバイス』
「いいんよ、これくらい」
「何がナイスアドバイスやねん!なんっもナイスやないわ!何でウチに来る連中みんな腹黒いねん!!」
んなの知るかよ。自分の心に聞いてみろ。
私は新しい紙をもう一枚出して隊長の目の前に座った。するとギンが私の方へ駆け寄ってきた。
「おやつの干し柿食べてもええ?」
『いいよー。お茶だそうか?』
「自分でやるからええよ。桜ちゃんと隊長さんのもいれてくるわ」
そう言ってギンは給湯室へ行ってしまった。私は給湯室の方を見たあと平子隊長を見た。
「…何やねん。その何か言いたげな目は」
『いやぁ…本当にこんな大人にはなってほしくないなと…あんな良い子』
「言っとくけどあれも男やぞ?いくら可愛くても兎の革被った狼や。油断しとるとパクーて食べられてまうぞ?」
『それあんたが言いますか』
「俺は狼くん剥き出しやけど?何や、食べてええんか?そんじゃあ遠慮なく…」
そう言いながら然り気無く立ち上がる隊長。
『誰もそんなこと言ってないですから。最近被害妄想激しいですよ。ちゃんと現実との区別ついてますか?』
「酷い断り方やな…」
隊長はいかにも残念そうに腰をソファーに沈め戻した。
「まぁ良い子の前では控えた方がええやろなァ。悪影響、なんやろ?」
『隊長の考え全てが悪影響です。このスケベロン毛』
「男なんてみーんなそんなもんやでェ。日々性欲との戦いや」
『ワケ分かんないです』
「分かんないでええ。つーか知らんでええ。その内俺が手取り足取り教えたるわ」
『そーゆー意味じゃねーよ変態。変態変態変態ムッツリスケベくたばれ』
「拒絶反応かい…まぁええわ」
そう言って隊長は新しく書類を書き出した。
何がいいだよ…こちとら何もよくないわ。隊長ってこんなスケベだったっけ?もしかしてリサさんの移った?…うわぁ……
私が勝手に考えを巡らせているとギンがオボンに湯飲みを三つ乗せて戻ってきた。
「おまちどーさん」
『ありがとう』
「ありがとさん」
「ちょっと濃くなったかもしれへん。堪忍な?」
そう言いながら申し訳なさそうな顔をする。そしてちょこんと私の横に座った。
『別に大丈夫だよ。そんなこと一々気にしないから』
「桜チャン大雑把やからなァ」
『黙れ変態』
「さっきの根にもっとるんか?そうなんやろ?でもな本当のことなんやで?世の中には狼がぎょうさんおってなー」
「狼って何の話や?」
『聞いたらダメ。耳が腐るよ。これからも清く生きたいなら耳を塞ぎなさい』
「隊長さん桜ちゃんに何言ったん?あかんよ、あんま苛めたら」
「うっさいわ。桜チャン苛めんのは俺の特権なんや。ギンにはやらんで」
そんな特権初耳なんですけど…
私は隊長の発言に対してゲッソリしていると、ギンが私の方を見上げてにこっと笑った。
「ボクは桜ちゃん苛めたりしーひんよ?」
『………可愛い』
ギュッ
「あっ…何してんねん!!」
『だって可愛いんですもん…何この最強に可愛い生き物…ギン可愛い』
「おおきに桜ちゃん」
『あぁ…もう……膝乗る?』
「ええんか?」
『いいよ。むしろおいで』
私がそう言って膝の上を空けるとギンはストンッと私の膝の上に乗った。そしてそれを見た隊長が…
「あかんあかんあかんあかん!!あかんって!!あかんってコレは!!!!」
『何もあかんくないですよ。何ギャーギャー騒いでんですか鬱陶しい』
「桜オマッ…男はみんな狼言うたやろ!!何で言ったそばから狼膝にのせとんねん!!それにギンお前ズッル!!ズルいで!?」
「子供の特権や。桜ちゃん干し柿とってもろてええ?」
『うん。はい、どうぞ』
「ありがとうさん。桜ちゃんも食べる?」
「無視すんなやギン!!俺かてまだ膝枕もされたとこないんやぞ!?四ヶ月かけてコツコツやってきてんのに…お前ズルすぎるで!!」
そう言って隊長は勢いよく立ち上がった。
「そんなこと言われてもボク知らんもん」
『何をコツコツやってきたんですか。てゆーかそんなに大声出さないでくださいよ。興奮しない、どーどー』
「あんま体に良くないんやないの?体大事にせなあかんで?」
『ギンの言う通り。てか仕事してくださいよ』
「なっ…何なんや!?この敗北感!俺の方が絶対かっこええのに!!」
『……どこからくるんだろうね、この自信』
「自信があることはええことやで」
いや……その自信はどうかと思うよ。人間として。
『出来ましたか?』
「でけへーん…何にも手につかへん…」
『いつまで凹んでんですかウザったい』
私がギンを膝に乗せてから一気に不機嫌になった平子隊長。ついでに言うと今ギンはいない。書類を届けに行った。だが、隊長の機嫌は一向によくならない。
ギンが外にいけば機嫌直ると思ったんだけどな…簡単すぎたか。でもこの書類は仕上げてもらわなきゃ困る。
『ほら起きてください。ウダウダ言ってる暇あるならちゃっちゃと仕事終わらす、はい』
「イヤや…もォ心折れた…立ち直れへん…」
『…………』
…めんどくさ。酷くめんどくっさ。何この男。己は一体何をしたいんだ。
私はイラっときた感情をおさえた。そして腑抜けた隊長に向かって“じゃあ”と言った。
『何をしたら機嫌なおるんですか?』
「…何でもしてくれるんか?」
『まぁ…私ができる範囲内でしたら』
そう言うと隊長は無言でむくっと起き上がった。そして次の瞬間膝に重みがかかった。
ドサッ…
『……隊長?』
「膝枕で勘弁したる…」
そう言うと隊長は私の膝に顔を埋めた。
…なーにが勘弁してやるだ。勘弁してやるのはこっちだっつーの…
私はそう思いながら膝の上に乗った隊長の頭を触った。
『まったく…随分大きいな狼さんですね』
「ほっとけ」