蜂蜜果蜜
□蜜二十五滴
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「ポッキシだね…」
「真っ二つやな」
『脆いもんですね』
「お前のせいやろ」
昼間の執務室で話し合う三人の人影。その中央には真っ二つに折れた刀が一本。
そうです。私がやりました。私がやらかしました。
昨日の夜虚の討伐命令が下り現場へ向かった私。その時ポッキシ折れてしまったのだ。その事を二人に話したらこの通り、私が悪いらしい。
『私のせいじゃないですよ。虚に斬りかかったらパキンっつって折れちゃったんです』
「ウソこけ、んな簡単に刀が折れるか。まーた無茶な戦い方したんやろ?しゃーからちゃんとした剣術習え言うてんやんけ」
『嫌ですよ、めんどくさい。ていうか何回も言ってんじゃないですか。これ私の刀じゃないって』
私は折れた刀を見ながらそう言った。
そう、これは私の刀じゃない。私の本当の刀はここへトリップする前に…まぁ……ボロボロにしまして…それで鉄子に取り上げられた。つまり修理中です。それで代わりに渡された刀が、今目の前で無惨な姿となっている刀だ。
「そうは言っても刀が半分に折れるなんてあまり無いことだよ?隊長の言った通りちゃんと剣術を習うべきだ」
「ほれ、惣右介にも言われたら逃げ場ないで。それに雑な扱いばっかしとったら使われる刀が可哀想やんけ」
そう言いながら折れた刀を手に取る平子隊長。
雑な扱いってなんだよ。あんたがやる書類仕事よりよっぽど丁寧に扱ってるわ。
私はイラっとした顔で隊長から刀を奪った。そして自分の机の上へおいた。
『雑で悪かったですね。はい、この話はもうお仕舞い。仕事仕事』
「話ふったの桜チャンやろ」
『隊長が昨日の虚討伐どうだったって聞いてくるからです。私はそれに答えたまで』
「相変わらず捻くれとんなァー」
『捻くれ者世界代表の隊長に言われたくないですね』
「俺も捻くれ者宇宙代表の桜チャンに言われたないわー」
『なら私は捻くれ者銀河代表の隊長なんかに「はい、そこまで」
軽く言い合いが勃発しそうな雰囲気なったとき、愛染さんが間に入ってきた。
「言い合いをする暇があるなら二人とも仕事をしてください。特に隊長は」
「何で俺だけ別やねん」
「あなたは普段から仕事をしないでしょう。月ノ瀬君はちゃんとやる子ですから」
「俺かてやればできる子やで?」
『いい年した大人がなに言ってんだか』
「やればできるなら今すぐやってください。昨日やらなかった仕事もまとめて」
「それは桜チャンがー『やりません』そこをなんとか『やらない』アメちゃんやるで?『やらねーっつってんだろハゲ』口悪っ」
知るか。しつけーんだよお前は。しかもアメって……ケンカ売ってんのか。そのパッツン燃やすぞ。
私は殺意をおさえながら自分の机の椅子に座った。隊長は不満そうな顔をしている。
「そんなケチケチしとるとモテへんで?」
『別にモテたくないのでご心配なく』
「可愛くなっ」
『知ってます』
「…惣右介ェー今日の桜チャンつまらんわー。いつもならもーちょい突っ掛かってくんやけどな」
「見限られましたね。おめでとうございます」
「何がおめでとうやねん。何もめでたないわ。惣右介最近アレやで、腹黒いでお前」
『それはそれは、藍染さんおめでとうございます。こちら側へようこそ』
「ありがとう月ノ瀬君」
「しゃーからなんっもめでたないわ!何やねんこちら側て!!」
こちら側はこちら側。腹黒の世界、つまりサドスティック星の領域に足を踏み入れたということだ。やったね総悟、住民が一人増えたよ。
私と藍染さんは黒い笑みを浮かべながら互いにニコニコする。それを間で見ている隊長はギャーギャーと煩く吠える。
するとその時、廊下からある人の霊圧を感じた。私たち三人はバッと廊下の方を一斉に向いた。そして執務室の襖が開いた。そこには皆の総隊長、山じいマンがいた。
…すんません、ふざけました。
気を取り直して…山じいこと山本元柳斎重國総隊長がいた。
「流石じゃな。よく気づいた」
何が流石だ。霊圧漏らしてたくせに。嫌なじーさんだ。
私が嫌な顔をしていると、平子隊長がソファーにぐだーっとしたまま山じいに話しかけた。
「総隊長サンがわざわざ来るなんて珍しいなァ。何の用ですかー?」
「隊長!起き上がってください!!」
「良い良いそのままで。用があるのは桜だけじゃ」
…私?
『この前のお饅頭は食べたの私じゃなくて京楽さんだよ?』
「饅頭の話ではない。じゃが春水には後で話を聞こう」
あ、やっぱ大事にとっといたのね。こりゃ血の雨降るぞ。頑張れ京楽さん。バラしたの私だけど。
私はそう思いながら席をたとうとした。山じいは続けて話し出す。
「桜、お主に来客じゃ」
『来客?』
私に?つーか何でそれを山じいが?誰かにパシられた?いじめられた?
まぁ…とりあえずさっさと行った方がいいよね。ひとまず誰かにパシられたっつーことで置いておこう。
『じゃあ今から行く。場所どこ?』
「わざわざ出迎えにいかんでも良い。すでにここにいる」
『…はい?』
そう言うと、山じいの後ろから人影が出てきた。私はその人を見て、目がドライアイになるんじゃないかというほど開けた。
その人影とは…
「久しぶり桜ちゃん」
『………え』
そこにはあのお妙さんが当たり前のように立っていた。
そこで私は最初に思った疑問をぶつけてみた。
『お妙さん…いつ死んだんですか?』
グワシッ
「うふふ、桜ちゃんったらいつの間に冗談が言えるようになったの?簀巻きにして川に棄てるわよ」
『ご…ごめんなさ……あの…念のため確認を…』
「心配してくれたの?優しいわね桜ちゃん。でも配慮が足りないわよ?そんなんじゃあどこぞのイカれたゴリラみたいになっちゃうわ。そんなの私嫌よ?」
ミシミシミシミシッ!!
『私も顔の骨を粉々にされるのは嫌です…なのでこの顔面を鷲掴みにしている手をどけてもらえると…嬉しいです』
「あらやだごめんなさい。つい嬉しくって」
何で嬉しくてアイアンクローすんだよ。どんな意思表示だ。
お妙さんはパッと手を離した。
うん、顔が二、三ミリ細くなった気がする。
私が手で顔をさすっていると山じいは何か満足したような顔をした。
「それでは邪魔者は退散するかの。お妙とやら、ゆっくりしていくが良い」
『ちょっ待て。説明を――』
ヒュンッ
『…………』
…あんのクソジジィ…瞬歩つかいやがった……
訳が分からない状況で残された私。そして私以上に訳が分からない状況な藍染さんと平子隊長。二人は唖然としてお妙さんを見ている。
私に笑顔でアイアンクローをかますこの素敵な女性が気になっているようですね。
「あの…月ノ瀬君……この女性は…」
『…説明するんで…お妙さん座ってください。そこのだらけてる人は起きて』
「…驚いて体動かへんやけど」
『私の顔面も驚いてピクリともしませんよ』
「あら大変。私がなおしましょ『いえ、お構い無く』
両手を構えるお妙さんに私は即答で断った。
これ以上顔面を破壊されるのは御免だ。私は整形外科にはお世話になりなくないんだよ。
私は“遠慮しなくていいのに”と言うお妙さんを無理矢理ソファーに座らせる。そして固まったまま動かない隊長を起き上がらせる。
そして最後に私が座った。
『えー…この人は…いつも近藤さんがお世話(ストーカー)になっている志村妙さんで私の友達です』
「はじめまして、志村妙です。今日は急に来てしまってすみません」
そう言って軽く会釈をした。それにつられて隊長たちも会釈をする。
「そんなん別にええねん。桜チャンのお友達なら大歓迎やで。俺は平子真子言います。よろしゅうな」
「僕は藍染惣右介です。よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」
……なんだこの絵面は。性格悪い奴等が互いに自己紹介してるよ。何か不吉だな。
そう思っているとお妙さんがこっちを向いてニコっと笑った。
「桜ちゃん本当に久しぶりね。最後に会ってからもう半年もたつのよ?」
『あー…そんなになりますか。元気でしたか?』
「それはもう、毎日ゴリラを叩きのめしながら元気に過ごしてるわよ」
『あ、ならいつも通りですね。良かった良かった』
そう言うと隣に座っている平子隊長に肩をとんとんと叩かれた。そして小声でこう言われた。
「……勲サンか?」
『近藤勲という名のゴリラです。近藤さんお妙さんのこと大好きすぎてストーカーしてるんです』
「それケーサツがやってええんか?」
『駄目に決まってんじゃないですか。大体ヤクザ面の奴が警察のトップに就いている時点で全て終わってんですよ。江戸の町に未来はありません』
「…世も末やなァ」
『ホントですよ』
つーか…まだ懲りずにストーカーやってんのかあのゴリラ。どんだけボコボコにされても諦めないよな。その内死ぬぞ?いやマジで。この人ならやりかねない。
「近藤さんから聞かされたわよ。こっちでも警察みたいな仕事してるんですって?」
『聞かされたのか……警察とはまた違うんですけど…まあ似たようなもんですかね。生きた人間相手にしない分こっちの世界の方が楽っちゃ楽ですけど。……じゃなくて。どうやってこっちに来たんですか?』
私は忘れていた本題に話を無理矢理戻した。
「源外さんにあの機械で送ってもらったのよ。たまにならちゃんと人も転送できるって聞いたものだから」
「そーいや喜助も言うとったな」
『あー…それ聞いたかも』
てゆーかこの前ちっちゃくなった時に聞いたな。結局行かなかったけど。つーかマユリに仕返しすんので頭一杯で忘れてた。
『だったら先に言ってくれたら良かったのに…』
「驚かせたかったのよ」
『そりゃー驚きましたけど』
あなたのアイアンクローで。
「そう?なら作戦成功ね」
そう言ってふふっと笑うお妙さん。
可愛いですけどねお妙さん。私顔バッキバキですからね。口角あげようとするとミシミシいいますからね。
私はお妙さんに苦笑いを返すと、平子隊長が口を開いた。
「今日はお妙チャン一人で来たんか?」
あ、それ私も気になってた。
普段なら真っ先に近藤さんか神楽ちゃんが来るはずだ。なのに居ない。二人とも都合が悪くても見知らぬ土地にお妙さん一人で来させるはずがない。てゆーか近藤が許さないだろう。
平子隊長がそう聞くと思い出したようにお妙さんは声を出した。
「いけない、忘れてたわ。その事で桜ちゃんに言わなきゃいけないことがあるの」
…なんか…この流れは……あまりよろしくないような気が…
「実は―」
スパーンッ!!
そう言いかけたとき勢いよく執務室の襖が開いた。そこには焦った表情の隊士が一人。
「隊長!!旅禍です!!旅禍が瀞霊廷内に侵入しました!!!!至急五番隊担当地区へ来てください!!!!」
それだけ言うと隊士は走って行ってしまった。
「「『・・・・・・・』」」
「……隊長…」
「…桜チャン」
『…藍染さん』
「月ノ瀬君」
『……隊長』
「桜チャン」
………嘘だろオイ…
『…………あれか』
「流石が桜ちゃんね。多分今のじゃないかしら?」
………………誰か嘘だと言ってくれ……