蜂蜜果蜜

□蜜二十四滴
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「いー天気やなァ」

『怠けてないで仕事してください』

今日はポカポカした暖かい日だった。その影響でいつも以上にだらけている平子隊長。

だらけたくなるのも分からなくないけどさ、すんげー仕事したくないけどさ、アンタがやんなきゃ終わらないんだよ永遠と。

「別にええやんか。ちょこーっと休んでるだけやし」

『隊長のちょこっとは二時間のことを言うんですか。早く起きないとあなたの顔面で刀研ぎしますよ』

「グロッ!つーかエグッ!俺の顔面血まみれになるわ!!流石にそれはあかんで!!」

『大丈夫ですよ、小説ですから。どんなグロいシーンだって絵になって見えませんから』

「小説とか言うな!見えへんからって何でもやっていいわけちゃうぞ!」

『なら、仕事やってくれますよね』

私はソファーに仰向けに寝転がっている隊長を上からのぞいた。隊長は“やられた…”といような表情をしていた。

「…それとこれとは話が別…やろ?」

『別じゃありません』

「いや…別や『やれ』…命令系かい」

そうブツブツ言いながら起き上がる。私は待ってましたと言わんばかりに大量の書類をテーブルに置いた。

ドサッ

『はい、これ今日中にチェックお願いします』

「…何やて?」

『だから、ここにある書類、今日中に、全部、チェックしてください』

「全部!?」

そう言って目を丸くする。私は目をそらさせないために、山積みになっている書類の上から一枚とって隊長の目の前に差し出した。

『何驚いてるんですか?これ全部、隊長がサボった分の書類ですよ』

「お〜…これまた見事な書類の山やなァ」

『感心してる場合か。しっかりやってくださいよ?今日中に』

「わかっとるちゅーの…あ〜…めんどいなァ」

『黙ってやれや』

「厳しィーやっちゃな…」

『全部あんたのせいだろが。自業自得です』

私はそう言いながら墨と筆を隊長に渡した。隊長は嫌々受け取った。

今日という今日は逃がさない。これ以上残業を増やされてたまるか。自分の分は自分で片付けやがれ駄目社会人が。

私は隊長を見張るために向かい側のソファーに座った。そして先程六番隊から届いた書類をとり目を通し始めた。

書類に目を通しながらチラッと前を見てみると、めんどくさそうに筆を走らせる平子隊長の姿が見えた。

…よし、今日はちゃんとやりそうだな。

私はそう確認したあと書類に目を戻そうとした。その時、下を向きながら隊長が口を開いた。

「桜チャン、ちょっと頼まれ事されてくれんか」

『頼まれ事?言っておきますけど全部終わるまでここから出しませんよ』

「ちゃうわ。お布団取り込んできてくれへんか、お布団」

『…布団?』

隊長は“そうや、お布団”と言いながら顔をあげる。

何故に布団?てか何で私が?

「隊首室の前の中庭に干しとるから頼むわ。夜遅く帰って干しっぱなしの冷たなった布団に寝たないねん」

『残業する前提なんですね』

「残業せんで終わるわけないやろ。サボらんから行ってきてくれへんか?」

『んー……』

サボらないねぇ……んまぁ…今日は真面目にやるっぽいし、これでへそ曲げられて仕事途中放棄されても困るし……布団取り込むくらい、いっか。

私は立ち上がりながら口を開いた。

『分かりました…いいですよ』

「ホンマか?そんじゃあ頼むわ」















『よいしょっと…』

おぉ…あったかい…

私は両腕で布団を抱えた。長い時間太陽に当たっていた布団はほどよく温かくなっていた。

腕から伝わる温かさを感じながら、足元が見えない不安定な状態で布団を縁側に置こうとした。その時足先に何かが当たった。

ガツッ

『わっ!!』

ドサッ!!

私はそのまま布団を台にして縁側に勢い良く倒れた。

………コケた。…誰も見てないよね…?

私は布団に埋まった顔をあげて左右を確認した。見る限り誰もいなかった。どうやらラッキーだったようだ。

セーフ……誰もいなかった。それに布団があってよかった…じゃなかったら顔面で床とこんにちはしてたところだよ。…いや、布団さえ取り込みにこなきゃこんなこと起こらなかったのか。つまり平子真子のせいだな。

…引き受けたの私ですけど。はい、ごめんなさい…私のせいですね。んなの分かってるっつーの。

私はぶつけた足をさすりながら体を起き上がらそうとした。だが、起き上がるその途中で体が止まった。

干したてだから…すごいふかふかしててあったかい……

『…………』

ポスッ…

私は再び布団へ身を預けた。

お日様の匂いがする…それにふかふかであったかい……

それに……

『隊長の……匂いがする…』

私は鼻から伝わってくる香りに、自然と身体中の力が抜けていった。

甘い匂いでも……香水の匂いでも……石鹸の匂いでもない………何の匂いだろ…

……分からないけど…

『すごく………落ち着く…香り…』

私は脱力しきった体で小さく呟いた。そして頬を布団にすり寄せた。

左頬から伝わる温かさ。

何で…隊長の香りなんかで………でも…すごく…心地いい…

『……なんか悔しい…』

私は右手でぎゅっと布団を掴んだ。そして数秒たったあと手の力を抜いた。

駄目だ……この香りといい布団のふかふか加減といい……寝不足の私には最大最強の敵だ…

私は閉じそうになるまぶたを必死に開けようとする。だが徐々に閉じていく。

ダメ…だ……まだ掛け布団…運んでな……それに…仕事が……ま…だ…っダメだダメだ…っ平子隊長にサボるな言ったのに…!

ゴシゴシゴシッ

私は手で目を擦った。だがそれは逆効果で、目がボンヤリとして余計眠気を誘った。

あ……やっぱ……むり……

やはり睡魔には勝てないらしく、私は戦うことを諦め体の力を抜いた。

『少し……すこし…だけ………だか…ら……』













―――平子side―――

「俺が真面目に仕事しとるっちゅーのに…何してんねんアイツ」

もう一時間たつんですけど桜チャン。どーやったら布団取り込むンに一時間もかかんねん。どんだけノロいっちゅー話やな。

平子はいつまでたっても戻ってこない桜を迎えに向かっている最中だ。

俺にサボるな言うたくせに自分はガッツリサボっとんやないか。不公平やでこれ。こらァ見つけたらお仕置きやな。

「何したろかなァ〜」

そんなこと言いながら平子は隊首室前までやって来た。するとそこには驚くべき光景があった。平子はそれを見た瞬間目を見開いた。

…何やねん…ホンマ……

平子はそれ見つめながらその場にしゃがんだ。そして目の前には気持ち良さそうに平子の布団の上で眠る桜がいた。

『スー……スー……』

「……無防備すぎんで」

そう言いながら彼女の頬を人差し指で優しくさすった。

『んっ……スー……スー……』

「…かわええなァ」

肌すべすべやん。それにふにふにしとって気持ちえーわ。リサの言っとった通りやな。

平子はふっと笑ったあと頬から指を離した。そして嬉しそうに桜を見つめた。

それにしても何でこんな場所で寝とんのや?掛け布団もまだ取り込んでないやんけ。

…途中で寝こけンなんて珍しいな。それに…

「こんな気持ち良さそォな顔しおって…」

でもなァ…こんな道のど真ん中で寝たらあかんで?危機感なさすぎにもほどあるわ。桜チャン誰がとー見てもカワエエんやからそこら辺自覚持たなアカンわ。それにな、

そう思いながら桜のポニーテールに指を通し、体を傾ける平子。

サラサラ…

「俺しかまだ桜チャンの寝顔見てへんねんぞ。他の奴に見られたらどーするつもりや…?」

『…ん〜……スー……スー……』

「俺…結構本気なんやぞ……分かっとんのか?」

…なんてな、答えるわけないな。グッスリ寝とるみたいやしな。

そう思いながら平子は彼女の髪を離そうとした。その時微かに桜の唇が揺れた。

『ん……たぃちょお……』

「っ!!」

平子はバッと手を引っ込め自分の顔に当てた。

くっそォ〜!!…不意打ちやで……ズルいわ……

でも……

「よーやく俺のこと呼んでくれるようなったな…遅いねん」

平子は愛おしそうに桜を見つめた。

この事に免じで今日は見逃し足るわ。でもこのままここにホッポッとくンのもなァー……かと言ってわざわざ起こすンのもカワイソーやしな…

「………ええこと思い付いた」

平子は何か閃いたようで、自分が羽織っていた羽織を脱いだ。そして大きく広げた。

フサァ…

「これでええやろ」

平子は満足そうに言った。“五”と書かれた羽織をかけられた桜を見つめながら。

これで誰も手ェ出さへんやろ。…もしもこの状態で手ェ出した奴おったら…ケンカ売られた思てええよな。

ま、そんなアホおらんか。

平子は桜を起こさないように静かに立ち上がった。そして彼女の方を見ながらニヤっと笑った。











「ええ夢見ろや…桜」
 

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