蜂蜜果蜜

□蜜二十三滴
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『すみませーん。誰かいませんかー?』

シーン…

…はい、いませんね。呼び出したくせにいい度胸してんじゃねーか浦原。

浦原さんに呼ばれて技術開発局まで来た私。転送装置が完成に近づいてきたらしく、一度確認しに来てくださいとかなんとか言われて来たのだ。でも技局の研究室には誰も居なかった。

呼んだくせにいないとか何なんスか。研究室にいるっつったくせに人っ子一人いねーじゃんかよ。私そんな待ってられるほど優しい人間じゃないんで…

『帰る』

そう言って私は研究室を出ようとした。その時、ある物が目に入った。

それはテーブルの上に置かれたおしゃれな小瓶だった。技局とおしゃれな小瓶、いかにもデスマッチで目に入ってしまった。

なんだろ…コレ。研究材料とは思えないしな。誰かの香水とか…コロンとか?

…いや、技局の連中が香水つけてても変だな。しかも何?この“開けるな”って貼り紙は。

『…絶対ヤバイやつだ』

これは絶対開けてはいけないような気がする。絶対ヤバイような気がする。絶対ロクなことにならないような気がする。

だってあの浦原さんが局長やってる研究室だよ。あの変な顔した涅マユリが副局長やってる研究室だよ。

『ぜってーヤバイ』

よし、見なかったことにしよう。忘れよう。記憶からスッキリサッパリ忘れよう。うん、それがいい。帰ろ帰ろ。

私は早くこの場から立ち去ろうと思いっきりUターンした。その時死覇装の袖が小瓶に当たった。

カチャンッ

『あっヤバ!!』

私は振り返って小瓶をみた。

って…あれ?中身がこぼれてない?

中身がテーブルにこぼれた様子を想像していた私は唖然とした。そしてとりあえず小瓶に蓋をして元の通りに直した。

『中身なかったのか?まぁ助かったけど…』

私は数秒小瓶を見つめたあと“…逃げよう”と呟き出口へ向かおうとした。その時ふわっと甘い香りがした。そして私はまた立ち止まった。

『…いい香り……』

何の香りだろ?…香水みたいなキツい香りじゃないしな…

私は辺りを見回した。

変な機械しかないな…え、じゃあこの小瓶?やっぱ何か入ってた…?

そう思い私はもう一度テーブルの上に視線を戻した。しかし小瓶はそこになかった。というかテーブル自体がなかった。

…え、テーブルどこに消えた。

私は内心驚きながら冷静に辺りを見回した。すると驚く光景が私の目に入ってきた。

…何で…周りの家具がでっかくなってんだ?

研究室にある全ての家具や機械がどんどん大きくなっていく。

『……えぇー』

…さぁて…何が起こっているのだろうか。これは驚き騒ぐべきか否か…それともただの成長期と思うべきか…

私はどんどん大きくなっていく部屋をぼーっとして見ながら、これはどうしたものか…と考えた。すると大きくなっていた物がピタッと止まった。

あれ、止まった。成長期終わった?…ったく…一体何だったんだ……これ以上面倒事に巻き込まれたくない、早いと帰ろう。

そう思い急いで研究室を出ようと足を一歩踏み出した。

ズルッ…

…ずる?

足が何かに突っかかり歩けなかった。足元を見てみると黒い布があった。というか死覇装だった。

もう、嫌な予感しかしなかった。

私は恐る恐る足元から上へ目線をずらしていった。

嘘だろ……?

『からだが…ちぃちゃくなってりゅ…』

………なんですとォォォォォ!?

周りの家具が大きくなってんじゃなくて私が縮んでいたらしい。私は何度も自分の体を見た。

縮んでる…これ確実に縮んでるよ。いつも以上にチビになってる。つーか口がうまくまわらない。何だよ、なってりゅって……

誰がこんなふざけたこと……

『浦原…いや……涅マユリか…』

あの二人のどっちかだな………ふざけやがって…ぶっとばす。

っと…その前に…

『この体じゃ何もできない…』

私は小さくなった自分の手のひらを見ながら言った。死覇装はダボダボ。髪をまとめていた結い紐も取れて野放し状態。

こんな格好じゃ外歩けねー…つーか歩けたとしても嫌だ。でもせめて着物くらいかえなきゃ…色々と…その…ヤバイよな。さらしも緩んで胸丸出しだし。無い胸がもっと無くなった……絶壁じゃん。

私は平たくなった胸を見ながらため息をついた。

とりあえず…ここから出よう……。死覇装手でおさえながら瞬歩使えば…いけるかな…というかそれしか選択肢はないな。

そう思った私はダボダボの死覇装を両手で抱えた。そしてキョロキョロと廊下を見て外へ出た。

『どーか…だれにもみつかりませんよぉに……』
















悩んだ末…ここへ来てしまった。

私は馴れない体で瞬歩をつかい、五番隊の執務室の前まできた。

一応仕事中だから部屋に帰るわけにはいかないし……ずっと隠れてたら平子隊長捜しにくるだろうし…

『はぁ……どうちよ…』

…うぇっ、話し方気持ち悪っ。こんな話し方…てゆーか姿見られたくない…特に平子隊長には。奴だけには見られたくない。ぜっっっったい遊ばれる。

私は隊長にこの姿を見られたときのことを想像した。そして少し考えたあと、うんと頷いた。

…部屋に帰ろう。隊長には何がなんでも絶対バレたくない。それだけは死んでも嫌だ。

そう思って私はここから立ち去ろうとした。その時…

スーッ

「それでは書類を届けるついでに月ノ瀬君の様子見てきます」

『わっ!!』

「ん?」

あ…藍染さん…

タイミングが良いのか悪いのか、藍染さんが執務室から出てきた。私は不意をつかれてドテっとその場に尻餅をついた。

「え…子供?…大丈夫かい?」

『あ…えっと……だいじょーぶです…』

藍染さんは一瞬悩んだような顔をしたあと私に手を差しのべきた。私はその手をとって立ち上がった。

「どこの子かな?どこから来たの?」

『……………』

あの…五番隊の子です。

「それは…サイズあってないみたいだけど死覇装だね。どこの隊の子?」

『えっと…うんと………』

だから五番隊の子です。そこの第三席月ノ瀬桜です。

「ん?どうしたの?迷子なら連れていってあげるよ」

『…あの……えっと…そのぉ……』

別に迷子じゃないですけどね。ここが私の仕事場ですからね。家みたいなもんですからね。

私は“えっと…”と繰り返し言いながら言葉につまっていると、藍染さんが不思議そうに私を見てきた。

「君…どこかで会ったことある?」

『えっ』

……何て勘の鋭い人なんだ。恐るべし藍染惣右介。

「急にごめんね…でもどこかで見たことあるような…」

『ないないないない。ないです。ぜったいにゃい!』

「そうかな?……」

私は両手を前に出して振りながら全否定した。すると執務室の奥から奴の声が聞こえた。

「何してんねん惣右介。さっさと行ってこいや」

………月ノ瀬桜人生最大のピンチ。

いつまで執務室の前で止まっている藍染さんを不思議に思った平子隊長が廊下へ顔を出した。

「平子隊長、それが…」

「ん?誰やその子」

はい、みつかったー。私の人生グッバイ。

私は苦笑いを浮かべたまま固まった。そんな私をお構いなしに平子隊長は私の目線に会わせてしゃがんできた。

「どこから来たのか分からないんです。死覇装を着ているので何処か他の隊から来て迷子になったのじゃないかと…」

「ほぉ〜。何処から来たんや?お前一人か?」

こうなったら…逃げられない。逃げるなんて不可能だ……

『あの…たいちょ……じつは…』

「……………」

『……たいちょー?』

「……………」

『…もちもち…?』

平子隊長はじーっと私を見たまま固まってしまった。

……何だコイツ。人の顔じっと見やがって。つーか顔ちかっ。

平子隊長は暫く私の顔を見つめたあと、ぼそっと呟いた。

「……かわええな」

『………ん?』

「カワエーなこの子。そう思わへんか惣右介?」

「確かに可愛いですね。三歳…か四歳くらいですかね」

「ちっこいのォ〜」

ナデナデナデ

『わっ……』

「何処から来たんや〜?うりうり」

うりうりって何だよ。なに?あんた子供相手だとこんななの?

「迷子だと思うんですけど…こんな小さな子いましたっけ?」

「そうやなァー俺も見たことない子やわ。誰かの妹か?」

「そうかもしれませんね…だから何処かで見た覚えがあるのか…」

「そーいやどっかで見たような顔やな……誰かに似とるよーなァ」

『だかりゃ…あのぉ…』

いつまでも記憶を探っている二人を見て、私は自分の名を名乗ろうとした。その時とんでもないことを言い出した。

「とりあえず僕はこの子のこと上に確認してきます」

『え?』

「おう、頼んだで。そんじゃーその間俺と一緒にいよな〜」

グイッ

『っ!!』

そう言って平子隊長は私を抱き上げた。

何しとんじゃ己はァァァァァ!!!!

『おろちてっ!おろちてくだしゃい!!』

「コラ、暴れんな。大丈夫やから大人しくしとけや」

なんっにも大丈夫じゃない。何一つ大丈夫じゃない。問題だらけだよ…っ!!

「じゃあそちらはお任せしますね」

待て待て待て!あなたに見捨てられたら私はどうすればいい!!餌食になってか?平子隊長の餌食になれってかコノヤロー!

ここで藍染さんを逃すわけにはいくまい。そう思った私は手足をじたばたさせた。

ジタバタジタバタッ!!

『はなせぇ〜っ!!』

「コラッ!!暴れたら危ないやろが!!」

『あ、あいぜんしゃん!まって!!いっちゃやだぁっ!!』

「何や。俺より惣右介の方がええんか……何で俺子供に好かれへんのや?」

「顔じゃないですか?」

「お前はオブラートに包んで言えっちゅーの。失礼なやっちゃなァ」

いや、藍染さんの言ってることは正論だろ。子供の目線になってみて分かったけど…あんた子供からしたら少し怖いよ。爽やかイケメンとパッツン変人とだったら爽やかイケメンの方がいいに決まってる。

「えーからお前ははよ行ってこいや。桜チャンはその内戻ってくんやろ」

もう戻ってきてるっつーの。

「そうですね…じゃあ行ってきます。泣かせたりしないでくださいよ?」

「アホか。ガキ泣かせて何が楽しいねん。俺そこまで性格歪んでへんぞ」

……子供の姿で…コイツに遊ばれる………死んでも嫌だ!!!!!!

『やだっ!!やだやだやだ!!はなちて〜っ!!』

「往生際の悪いガキやなァ…大人しくせい」

ギュウッ

いやぁぁああぁああぁぁああああ!!!!!!やめてエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!

暴れる私を腕をまわしてぎゅっとおさえつけた。その瞬間、隊長は“ん?”と言った。

な、何っ?

「惣右介ェ…この子から桜チャンの匂いするんやけど……」

………はい?

「……何でそんなこと分かるんですか。気持ち悪いですよ?」

「やかましいわ。しゃーないやろ、するんやから。何や、この子桜チャンの妹サンか?」

「そう言えば…彼女に似てますね」

そう言って二人揃って私の顔を覗き込んできた。

『…………』

「「……似てる」」

……だって本人ですから。でも…今更言えねー…

「なァお前おねーチャンおるか?」

『…………』

「ん?どーした?言えへんのか?」

…言えへんのですよ……

「隊長…無理に聞くのも…それに上に確認すれば分かることですから」

「そーやな」

藍染さんの言葉に納得したのか、隊長はああ言って私を抱き直した。その時私の帯から何かが落ちた。

パサッ…

「あれ…?何か落ちましたよ」

「何やこれ……紐か?」

………しまった…

それは私がさっきまで身に付けていた結い紐だった。藍染さんはしゃがんでそれを拾った。

「これ確か…」

「桜チャンの髪どめとちゃうか?いつもコレつけとるし今朝もつけとったで」

「それが何でこの子が…?」

「…何でやろなァ…」

『……………』

二人は同時に私を見てきた。

…もう…逃げ場は…ないらしいです…
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