蜂蜜果蜜
□蜜二十二滴
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私の一日は朝八時から始まる。
障子越しに部屋に入り込んでくる朝日で私は目覚める。起きたくない気持ちを押さえ込んで布団から出る。そしてボーッと外の方を見る。
ここで注意。私は性格が根本からひん曲がってる人間なので、“あぁ…爽やかな朝だ”など“小鳥の囀りが聞こえる…”など、そんな清いことは一切思いません。
私はいつも“くっそ…また日が昇ったよ……仕事したくな…”という陰気臭い気持ちで朝一発目をむかえます。そして、
『……ダル』
…と言いながら朝御飯の準備をする。
…作んのめんどくさ。つーかおかずない。買わなきゃな………卵かけご飯でいいか。神楽ちゃん曰く卵かけご飯さえあれば生きていけるらしいから。
いつもこんな言い訳をしながら手抜きの朝食を作る。
まぁ…昼も夜もまともなのつくんねーけど…てか最近はよく夜に平子隊長に拉致られるから自分ではほぼ作ってないや。
そして軽く朝食を食べてから洗面所へ行き、顔を洗い、歯を磨き、髪をとかす。それから死覇装に着替え髪を結ぶ。
以上のことをノロノロやっていると仕事の時間になる。
私はスイッチを切り替え五分前に執務室につくように部屋を出る。執務室につくと必ず藍染さんはいる。
「お早う、月ノ瀬君」
『おはようございます』
わぁ…今日も爽やかな笑顔ですね。捻くれ者の私は溶かされてしまいそうですよ…
私は藍染さんと挨拶を交わし自分の席へ行こうとする。そしてそのタイミングで奴がやってくる。
ポンッ
「おはようさん。今日もちっこいなァ〜」
……うざ。
最近隊長は朝私に会うと“ちっこいな〜”とか“あ〜和むわぁ〜”とか言いながら頭を撫でてくる。
私はそれがたまらなくウザい。
『朝っぱらから絡まないで下さい』
「ええやんか別に」
『その考えはどこからくんですか』
このように、毎朝絡んでくる平子隊長を冷たくあしらい仕事を開始する。
私は大抵一日中書類仕事をしているので執務室からはあまり出ない。途中途中、藍染さんとダラダラしてる隊長にお茶をいれる。
何で仕事しないでダラダラしてる奴にお茶やんなきゃなんないんだよ…
そしてあっという間にお昼になる。
昼休憩は隊長が私を拉致る前に別の奴が拉致っていく。その正体は皆がよく知っている人物だ。
バンッ
「桜!昼飯行くで!!」
『だから…静かに開けろっていつも言ってんじゃん』
「そんなん別にええやろ。いーから行くで!うちめっちゃ腹へってんねん!!」
よくないから言ってんですけどね。
『……お昼休憩いってきまーす』
と…このような感じでいつも昼休憩にはいる。そしていつもの店へ行き、雑談しながらご飯を食べる。
『浦原さんとうまくやってんの?』
「やってるわけないやろ!!この前蛆虫の巣に連れてかれたんやぞ!!アイツ頭おかしいんとちゃうか!?」
『へぇー…面白いことすんねあの人』
「なんっっっもおもろない!!!!だだのアホやろアホ!!」
『隊長なんだからアホ連発すんのはやめろ』
いつも愚痴とは限らないが、最近は浦原さんが十二番隊長になってからひよ里はこんな調子だ。
まぁ分からなくもないが…どことなく平子隊長とにてるし……お互い苦労すんな。
こんな雑談をしながら一時間の休憩を終える。
昼食を済ませ執務室へ戻ると、ソファーにぐでぇーっとなったままの平子隊長がいる。というか寝てる。
……無気力。
週に三、四日はこんな感じだ。その度に私が起こす。
『隊長、お昼ご飯食べないんですか?あとでお腹すきますよ』
「ん…ぁ〜…昼飯ィ…?」
『そうです。ちゃんと食べないともっとひょろひょろになりますよ』
「…大きなお世話や…」
『言われたくなかったら食べてくださいよ。ほら起きて』
「チューしてくれたら起きてやってもええで?」
ゲシッ
「いでっ!!」
『寝言は夢の中でどうぞ』
「…フツー蹴るか?」
セクラハラ上司は蹴ってもいいという私の中の法律があるんです。
こんなやり取りをしながら平子隊長にテキトーな食べ物を与える。テキトーな物と言ってもちゃんと食べれるものだ。
私がいくら隊長を嫌っていて絡んでくるのがウザくても、そこらへんはちゃんとしている。
…前にひよ里と唐辛子入りの饅頭あげたことあるけど……そーいや土方さんにも総悟と色々やったな……マヨの中身をカスタードにかえたり。
「桜チャーンお茶ァ〜」
『私はお茶じゃないです』
そして暫くすると藍染さんが戻ってくる。執務室に入って平子隊長の姿を確認するなり“またあなたは…執務室で食べてたんですか…”と呆れた声で言う。
それからまた書類仕事が始まる。午後になると他の隊へ届ける書類が出来上がり配りに行く。
今日は二番隊だ。
『五番隊の月ノ瀬です。書類を届けに来ました』
「おー桜か。入れ入れ」
『失礼します』
スーッ
『はい、これどうぞ』
「いつもいつも大変じゃなぁ。どうじゃ、たまには儂と息抜きせんか?これから白哉坊のとこに行くじゃが」
『また白哉のとこに行くんですか……行きたいですけどまだ仕事中なんで、今日は遠慮しときます』
「そうか?残念じゃなー」
『また今度で。あまり白哉からかって遊んじゃ駄目ですよ?楽しいですけど』
「楽しいことはやめられん!」
…なんてイキイキした顔なんだ。白哉、ごめん。私にはこの人を止める術はない。
心の中で白哉に謝りながら二番隊舎をあとにする。今日は珍しく二番隊にしか届ける書類はないので私は真っ直ぐ五番隊へ帰る。
執務室へ戻ると藍染さんの姿はなく、やはり平子隊長がソファーに寝そべっていた。
この時間帯だと…隊士に稽古をつけにいってるのかな…隊長と違って働き者ですね。
時間は午後三時すぎ。そして今日は火曜日。あの人が来る日だ。
スーッ…
「やぁ、おはよう桜、平子隊長」
『浮竹さん』
「おはよーさん」
そう、火曜日の午後三時は浮竹さんが来る日。お菓子を片手に。
「今日は桜の好きな焼き菓子だぞ!」
『え、ホントですか?』
「毎度毎度よく持ってきよるなァ。なんか悪いわ」
「いいんだよ別に、好きでやってるんだ。それにこれくらいしか桜に会える機会がないからね」
「アンタも物好きやなー」
『いつも通り浮竹さんも一緒に食べますよね?お茶いれてきます』
「ああ、ありがとう」
火曜日の三時はいつもこの三人でおやつを食べる。たまに藍染さんも一緒に。
いつも浮竹さんが持ってくるお菓子は美味しくてペロリと食べてしまう。そして軽くお喋りをしてから浮竹さんは“また来るよ”と言って自分の隊舎へ帰っていく。
甘いものを食べてお腹一杯になるのか、隊長は眠気に誘われていつの間にかソファーに寝転がって静かに寝息をたてている。
『だから…いつも何か上にかけろって言ってんのに……風邪引く』
そう言いながら私は自分の大きめの膝掛けを取り出し、平子隊長の体にかける。
お昼寝しないと最後までもたないところ…どっかのサド王子にそっくりだ。
ま、起きたら仕事ガッツリやってもらうけど。
隊長が昼寝を始めると執務室は静になり私の仕事も進む。二時間半ほどたつと藍染さんが戻ってくる。これがアラームのかわり。
「平子隊長、そろそろ起きて仕事してください」
「…だぁ〜……うるさいわ…」
「うるさいじゃないです。もう夕方ですよ?いつまで寝ている気ですか」
「ええやんけ…別に」
「よくありません。残業したくないので起きてください」
「めんどくさいやっちゃなァ…」
このやり取りはいつものこと。本格的に起こすときは藍染さんが担当。
なんか私が起こすより藍染さんが起こす方が隊長はとても気分を害すらしいので、嫌々ながら目を覚ますらしい。
『はい、これ今日中にチェックいれてくださいね』
ドサッ
「……ぐー…ぐー…」
『……寝たフリやめてください。まだ眠いんですかあなたは』
「だってコレ桜チャンのええ匂いしてどーも眠くなってまうんやもん」
『もんとか遣っても可愛くないですから。つーか嗅ぐな変態』
「嗅いでへんて。自然と香ってくるんや。そらァ…一、二度は嗅いだことあるけど」
『確信犯じゃねーかよ』
「駄目ですよ隊長、女性の物の匂いを嗅いでは。デリカシー無さすぎにもほどがあります」
「仕方ないやろ。ええ匂いすんやから。惣右介は桜チャンの匂い嗅いだことないからそんな事言えんねん。つーことでもうちょっと寝るわ」
『…この人はもう駄目かもしれない』
「駄目かもしれないじゃなくてもう駄目なんだよ。手遅れだ」
このような感じで藍染さんの毒舌が日々ヒートアップしていく。そんな藍染さんと一緒に仕事を進める。
虚討伐の仕事が入ってこなければ暫く執務室で書類仕事をする。そして夜七時。お腹が空いてくる頃、
『駄目だ…エネルギー切れた…』
私の体力…というか精神力はかなり低下する。つまり集中力がブッツリ切れる。
「いつもみたいに外の空気吸ってきて構わないよ。疲れただろう?」
『あざーっす……』
そ私はいつものように執務室を出て廊下へ行く。そして手すりにもたれて盛大に息を吐く。
これをやると頭の中がリセットされ少しやる気が出るのだ。そして一分くらいですぐ執務室へ戻る。
ラスト二時間頑張るか…
それから私は隊長を叩き起こし、最後の仕事に取りかかる。そして黙々とやること二時間…
『お…終わった…』
「お疲れさま…月ノ瀬君……」
『お疲れさまです…』
終わる頃には私と藍染さんは精神的にボロボロになっている。今日は特に隊長が仕事をしなかったので余計にボロッボロだ。
「お疲れさん。そんじゃー飯行くで桜チャン。惣右介も来るか?」
「いえ…僕は遠慮しておきます。お疲れ様でした」
「そうか?なら桜チャンさっさと行くでー。もう腹へって腹へってペコペコやねん」
『何で私は選択肢ないんですか』
「ないもんはない」
『最近強引ですよね。いい迷惑だ』
こんな調子で隊長と夕食を食べに行く。今日は隊長が酒が飲みたいということで、よく行く居酒屋へ。
未成年を居酒屋へ連れていくのはいささか問題があると思うのだが。てゆーか未成年警察がこれはまずくね?
「酒飲むか?」
『飲みません。未成年だって言ってるじゃないですか』
「ええやんけ別に。減るもんやないやろ」
『隊長は駄目な大人の代名詞ですね』
「それ褒めてんのか?」
『もちろん貶してます。お望みならばもっとキツめにできますけど』
「隠れSやなァ…」
こんな感じで夜ご飯を食べます。食べ終わり少しのんびりしたあと各自の部屋へ戻る。そして風呂に入り、歯を磨き、布団を敷いて眠りにつく。
これが私の一日。
見ての通り、平子隊長の絡みで始まり平子隊長の絡みで終わる。そんなのが今の私の日常です。
―――次の日―――
ガバッ
『ヤバッ寝坊したっ!!!!!!』
……まぁこんな日もあるが。