蜂蜜果蜜

□蜜十八滴
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…あれ…なんか……温かい…誰かに抱きしめられてる……

…近藤さん…?…いや…違う……でも…なんだか……とても似てる…

……優しくて…大きくて……温かい………落ち着く……

この人は……

『ん………』

あれ…ここどこ?暗くてよく見えない…って、なぜ動けない。

私は目が覚めて体を起こそうとすると体がうまく動けなかった。

いやいやいや…いやいやいやいやいやいや…おかしいだろ。何で体動かせないんだ。頭まで動かないぞ。金縛り?んなバカな…でもビッチリ何かに固定されてる…?それになんだかとても温かい気が……

私は固定されてる頭を少し強引に動かして上を向いた。すると明かりがさしこんできた。

『まぶし……って、…え?』

何で…朝起きたら平子隊長の顔のドアップがあるんだ。ちょっ…待てよ、思考回路が……

……あ。そういえば……昨日の夜嫌な夢みて…それで平子隊長が来てそのまま隊首室に連れてこられて…

……思い出さなきゃよかった。忘れよ、うん。それがいい。はい、忘れろー忘れろー忘れろー……

『………無理だな』

何これ。泣いていいかな。泣いていいかな?それか消えたいよ。跡形もなく消え去りたいよ。

つーかこの態勢どうにかなんないですかね。いい加減離してもらえないですかね。いや、私が悪いんですけど…全ての原因は私ですけれども。これだけは勘弁してもらえないだろうか。

私は布団から抜け出そうと手足を動かしてモゾモゾと動いた。だが逆に腕の力が強まった。

ギュッ

『ぐえっ…』

「色気のない声やなぁ。もうちょいエロい声出せへんのか?」

『…無茶言わないでください』

朝一発目から失礼な奴だなオイ…つーかくっつくなよ。

私は両手を隊長の胸板に当て、手を突っ張った。

グググッ…

「何や何や。今頃恥ずかしくなったんか?」

『違う。無意味にくっつかれんのが嫌なだけです。だから離してください』

「そらちゃうなァ。桜チャン俺がぎゅうてした途端眠りおったからな」

『覚えてません覚えてません。そんなの微塵も記憶にありません。ていうかもう仕事に行く時間なので離してください』

「まだ時間あるやん。それに桜チャン温かいから離したないねん。温いわァ〜」

そう言って私の手を取り自分の方へ寄せる平子隊長。そしてまた頭を撫でる。

『やめてくださいやめてくださいやめてくださいやめてください。ホントやめてください』

「どこまで嫌やねん」

『と言いつつ力を強めるな。いい加減にしないとこのまま腕伸ばしてアッパーかましますよ』

「朝っぱらからアッパーて…恐ろしいやっちゃな…」

『はい、五秒前ーよん、さん、にー「分かった分かった…しゃーないなァ…」どうも』

平子隊長はぶつぶつ文句を言いながら渋々私を離した。やっと自由になれた私は顔をあげた。すると隊長が妖しく笑っていた。

「おはようサン」

『…おはようございます…』

















なんか…精神的に色々と疲れた…

私はあのあと逃げるように自分の部屋へ戻って死覇装に着替えた。そして何もなかったかのように執務室へ行き、仕事をこなした。

平子隊長絡んでくると思ったけど…来なかったな。てっきり夜のことをネタにいじってくると思ったのに…まぁこっちの方が好都合だからいーんだけど。

『でも逆にそれが怪しい…』

「何が怪しいんだい?」

『わっ』

藍染さん、い…いつの間に背後に…

「ごめん。驚かせたかな?」

『いや…私が考え事してたせいなんで』

「考え事…?何かあった?そういえば顔色が悪いような…」

『大丈夫です、大丈夫。ただの寝不足ですから』

「そう…?無理は駄目だからね」

『はい』

藍染さんはそう言うと自分の席について書類仕事をはじめた。

嘘は言ってない…はず。理由はどうあれ寝不足は寝不足だし。でもあの人勘良いからな…気を付けよ。

てゆーか…集中力切れたな。お茶でもいれて休憩するかな。

そう思い席を立ったとき、ソファーでぐったり寝転んでいた平子隊長が右腕をあげた。

「桜チャーン、俺にも茶ァ」

『エスパーですか』

「桜チャンのことならなーんでも分かるでェー」

『藍染さーん、ここに変人がいまーす』

「そうだね。変なとこが移るとあれだから近づいちゃ駄目だよ」

「オーイ惣右介ェどつくぞコラァ」

…最近あれだよね藍染さん。隊長に対して厳しくなったよね。つーか黒いですよね。

ま…隊長は藍染さんに任せるとして…私はお茶いれてくっか。












結局今日はなにもしてこなかった隊長。怪しいけど…ラッキーと思っていいのか?

私は納得がいかないまま仕事を終え、今は月明かりが照らされる庭へ出て木の下で携帯を握りしめていた。

『…一応確認のため……』

私は携帯で電話帳を開きある人に電話をかけた。

夜十一時…まだ起きてるかな。

プルルルル…プルルルル…プルルルル…

ピッ

「もしもし?桜ちゃん?」

『あ、山崎さん。夜遅くにすみません…』

「別に大丈夫だよ。それより珍しいね。桜ちゃんが仕事以外で俺に電話してくるの…何かあった?」

『いや…別に大した用じゃないんですけど…』

「なに?」

私は一息ついたあと地面を見ながらゆっくりと口を開いた。

『……近藤さん…元気ですか?』

「え?局長?元気すぎるくらい元気だけど…局長がどうかした?」

そうか……元気か………よかった…

『いや元気ならいいんです…元気なら』

「そう?でも何でわざわざ俺に…?テレビ電話みたいなの出来るよね?」

『あー……顔みて話すと煩いんで…』

「あははっ確かにね!局長は桜ちゃんのことになると色々とスゴいからね。でも局長だけじゃなくて皆もスゴいよねぇ」

『過保護なんですよ皆……他の皆も元気ですか?誰か怪我したり…』

「怪我かぁ…小さな怪我とかはちょいちょいあったと思うけど大怪我した奴はいないよ。あ、でも副長はしょっちゅう沖田隊長にバズーカでボロボロにされてるけど…」

『……いつも通りでなによりです』

「おかげで屯所も副長ボロボロだよ…そのとばっちりが俺に…」

あぁ…うん。目に浮かぶよその様子。

『まぁ…地味の宿命です』

「地味は地味なりに頑張ってるのに…俺って損な役回りばっか……地味だから仕方ないけど!地味だから!」

『あんパンとカバディで乗りきってください。地味なりの方法で』

「……桜ちゃん酷くね!?」

『え、いつもより優しいと思うんですけど。てゆーか出きるだけ毒はかないようにしてたんですけど』

「それでも十分毒っけあったよ!!…でも…いつも通りの桜ちゃんで安心したよ」

『……それは喜んで良いのでしょうか』

「だって桜ちゃんなんか元気無かったみたいだし…でも平気みたいだったから良かった」

『…山崎さんも相変わらずの地味っぷりで良かったです』

「ひでぇっ!!」

山崎さんは電話越しに酷いと言いながら落ち込む。そんな声を聞いて私はクスッと笑った。

『それじゃあ…明日も仕事なんでもう切りますね。山崎さんも仕事頑張ってくださいね』

「うん、桜ちゃんも。また寂しくなったら電話してきていいからね」

『ウザ』

「ひでぇっ!!」

『はい、じゃーおやすみなさい』

それだけ言って私は電話を切った。そして空を見上げた。

みんな元気そうで良かった。近藤さんも……みーんなすぐケンカして怪我すっからなぁ。土方さんは相変わらず総悟の的になってるみたいだし。

「安心したか?」

『ナチュラルに覗き見すんのやめてください』

どっから出てきたのか、平子隊長は当たり前のように私の前に現れた。

「覗き見ちゃう。桜チャンの声したから陰から覗いてたんや」

『世間ではそれを覗き見と言います。日本語をもっと勉強しましょう』

「嫌味な言い方やなァ〜。せっかく心配して来てやったのに」

『もう大丈夫ですから。ある程度のことは一日たてば復活します』

「スゴッ。何やねんその能力。羨ましいわァ〜」

『じゃあそこで一生羨ましがっててください。私は部屋に戻ります』

そう言って私は平子隊長に背を向けた。そんな私の心情は…

めんどくさいの五割、ウザいの四割……嬉しいの一割。

なんだか胸が少しほわっと暖かくなったような気がした。

私はそれを隠すように急ぎ足で歩いてった。










「今日はもっとくっついて寝よなァ?」

『調子乗るなよ変態』
 

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