蜂蜜果蜜
□蜜十六滴
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『平和ですねー』
「そうだね」
「そうや『近寄るなァァァ!!』……」
「…一部を除いては平和ですね」
どうも。初っぱなから大声を出した月ノ瀬桜です。
皆さん、覚えているでしょうか?私が一週間ほど前にどっかの変態野郎にセクシャルハラスメントを受けたことを。
私は忘れませんよ、一生。一生根にもって恨んで私が死ぬまでに呪い殺してやるんだから。
「桜チャン…いつまで怒っとんのや?もう一週間たつんですけど」
『別に怒ってませんよ。ただ呪い殺したいだけです。それから半径3000メートル以内に入らないでくださいね』
「バリバリ怒っとるやんけ」
『あとそれから話しかけないでください。はい今から、よーいスタート』
「惣右介ェー桜チャンが俺んンこと苛めてくるー。なんとか言ったれ惣右介」
「それは無理です。見てる限り隊長が原因みたいですから。いい機会なので色々なことについて反省してください」
「…俺の部下はサドばっかか」
お前が上司だったら性格歪んでサドにもなるっつーの。しかも反省のいろ無いし。なんなのコイツ、スッゲー腹立つんだけど。
私はイライラ全快で、出来るだけ平子隊長に近付かないように大回りで執務室の襖に手をかけた。
「どこ行くんや?」
『……………』
「隊士達に稽古をつけにいくんだよね?確か十二番隊の副隊長と」
『そーです。じゃ藍染さん行ってきますね』
「はい、行ってらっしゃい」
「……ムカつくやっちゃなァ…」
私は隊長の言葉に心の中で“うるせーよパッツンくたばれ”と、言いながら執務室の襖を閉めた。
「そんで三回連続で勝ったら外に抜けてええで。そんかわり終わるまでは絶対その線から出たらアカンで。もしも出たら桜がシバきに来るから気ィ付けろやー」
『別にシバかねーよ……。制限時間は特にありません。けど、最後まで残った人は丸一日私とひよ里のパシリという罰ゲームがあるので本気でやってください。それから最終確認ですが、相手の木刀を落としたらその人の勝ちです。では不正のないようにやってください』
「ええか!!ふざけたマネやりおったらペナルティやからなペナルティ!その場でソッコーシバき倒すからな!!」
『そこまでしねーよ…じゃー始めてください』
横で拳を前につき出すひよ里にビクビクしながら各々準備をする隊士達。私はひよ里を放っといて少し離れた場所へ移動した。するとそれに気が付いたのかひよ里が私のあとを追ってくる。
今日は五番隊と十二番隊の合同練習。と言っても強制ではない。来たい奴だけ来ればいいと言ったら何だかんだで二十人ほど集まっただけだ。
「それにしても変な稽古やなァ。どこで思い付いたんやこんなモン?向こうでやってたんか?」
『たまーにやってたよ。これは私がサボれるように編み出した稽古の仕方』
「確かに監督役は楽やな。ええな、コレ今度やるわ」
そーなんだよ。コレめっちゃ楽なんだよ。向こうで総悟とこれやってサボってたわ。
これだったら疲れないし楽だし、自分がわざわざ稽古つけなくていいし。なんて素晴らしい稽古法なんだろう。
私は自画自賛しながら隊士達の練習風景を眺めた。連続三回勝たなければならないから難しいらしく、なかなか上がってくる者がいない。
またこれもいいとこだ。時間稼ぎにはもってこい。
そう思っているとひよ里が話しかけてきた。ヤツの話題で。
「お前まだ真子とケンカしとんのか?」
『だからケンカじゃないって。私が一方的に平子隊長を避けて避けて避けまくってるだけ』
「似たようなもんやろ。もう一週間やで?えー加減理由くらい教えてくれてもいーんとちゃうか?」
『やめといた方がいい。聞くと耳が腐るよ』
「どんな理由や!どーやったら耳が腐るゆーねん!!」
『あるんだよ。耳が腐敗するような理由が。そのうち脳まで侵食されて奴を殺すことしか頭にない状態になる』
「一体何を言われたんや!?それともされたか!?何かされたんか!?」
『それはー…』
カプッチュッ
“しゃーから…暴れると痛いで”
“ごちそうサン。なかなか美味しかったで?”
『…………』
「どないした?」
私は静かに歩き出し壁際まで行った。そして拳をつくり前へ突き出した。
ドゴッ!!ビシビシビシィッ!!
『あんのオカッパ野郎がァァァア!!何さらしてくれてんだボケェェェェェェ!!ニヤニヤニヤニヤしやがって気持ちわりィィんだよオオオオオオオオ!!!!』
「何しとんねん桜っ!?」
『大体何なの?私が何かやる度お仕置きお仕置きお仕置き…テメーはどんだけお仕置き好きなんだよ。部下に自分のふざけた趣味をさらけ出してんじゃねーよカスが。ガキみたいな性格しやがって…一回死んで人生やり直してこいよ駄目隊長』
ゴツッゴッゴツッ
「ハゲシンジの奴桜に何したんや!?怒るの度ォ過ぎとるぞコレ!!!!つーかもう殴んのやめんかいっ!弁償すんのお前やぞ!!」
『じゃあ刀で…』
「やめろっちゅーんが聞こえんのか!!!!」
バシッ
『いたっ』
私が殴るだけじゃ飽きたらず、刀でストレス発散しようとしたらひよ里に叩かれて止められた。私は渋々抜きかけた刀を鞘に戻した。
『痛いんだけど』
「知るか!あんなァ…何があったか知らんけどなァ当たるなら真子に当たれや!あんなことされたらうち被害食うわ!!」
『はぁ?何で私が平子隊長に当たんなきゃなんないの。ヤダよ、あんな奴に近づくの。吐き気がする』
「…普段蹴り飛ばしとるうちが言うのもなんやけど……気の毒やな真子」
『気の毒なのは私の方だ』
あれから耳を見たり触ったり、耳って単語を聞いただけであの時の感触がよみがえってきて…
だァァァッ!思い出しただけでイライラする!!つーか気持ち悪い!!
何なんだよアイツ!?人の耳噛んだり舐めたり好き勝手やりやがって!!それでいつまで怒ってんの?って…ふざけてんのか。土方さんだってもっとまともな冗談言えるぞ。
確かに…約束破ったのは私ですけど?でもそれは、近藤さんから私の恥ずかしい過去話をきいて皆に言いふらすってやつじゃなかったの?破った罰はそれじゃなかったっけ?
おかしいじゃん。何勝手に罰かえてんだよ。何勝手にセクハラにかえてんだよコラ。お前だってウソついてんじゃねーかよ。
それなのに私だけ酷い目に遭うって…
『……いかない…』
「は?」
『納得いきません先生。ヤツを廊下に立たせて教室から強制退場させてください』
「誰が先生や!」
『裁判長、犯人はヤツです。ヤツがやりました。どうかヤツに裁きの鉄槌を』
「コロコロコロコロかえんなや!ツッコみにくいやろーが!!」
『兎に角殺せ』
「シンプルすぎんやろ!!」
『分かりやすいじゃん』
「お前の腹黒さもな!!」
そう言ってひよ里はもう一度私の頭を叩く。
いったー……ツッコみにくいって言うから分かりやすく殺れっつっただけなのに。私は悪くないよ、何も。悪いのは全て平子隊長だ。
「はぁ…今の桜の状態見てめっちゃ怒っとるのはよォ分かった」
『それはありがとうひよ里さん』
「でもなァ…どっちか謝らんかったら終わりないでコレ。ここは精神年齢大人な桜が一歩下がって頭下げればええんやないか?」
『………は?』
私があのバカに頭を下げるだと………?
「なんならうちがついてってハゲシンジにも頭下げさせてやるで!!」
『…なんで……』
「何やて?」
『どうして……』
私が謝らなきゃなんねーんだよっ!!!!!!!!
私は腰に刺してある刀を抜いて、隊士達が稽古をしているとこまで一直線に歩いてった。
「オイ!ちょっ待て!!なにする気や!!」
何する気って…そりゃあ……
私はひよ里の言葉に答えるように、刀を自分の肩にかけた。
『私も混ぜてくださーい……命を懸けた鬼ごっこなんてどうですか?』
「「「「「ぎゃアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」」」」」
「止めろやドアホオオオオオオオオオオオオオオオ」
ドタドタドッスパーンッ
「オイッハゲシンジ!!お前桜に何したんや!!!!」
「何やねんいきなり」
「何でもえーから謝れや!!謝んのやったら、ボコボコにシバかれた隊士二十人どォー落とし前つけてくれんねん!!!!!!!!」
「……何があった?」