蜂蜜果蜜
□蜜十三滴
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ドサッ
『…何なんだこの始末書の数はァァァ!!』
私の目の前に積み重なるのは、始末書、始末書、始末書。始末書の山。
「ちょっ…桜副隊長落ち着いてくださいッス!!」
『この状況でどう落ち着けってんだよ神山ァ』
私は画面の向こうにいる神山に怒鳴り散らす。神山は青い顔をしながら弁解をする。
「あれッスよあれ!こぉーヒッヒッフー…ヒッヒッフー…ってやつッスよ!!」
『バカに付き合ってる暇ねーんだよ。この始末書の量はなんだって聞いてんだ。十五文字以内で説明しろ』
「じゅ、十五文字!?あーっえーっとォー!!そ、それは沖田隊長が『はい、アウトー』えぇっ!?そんな無茶ッスよ!!」
『無茶なのはこの始末書の量だろーがよ。なに?どんなヤンチャしたらこーなるわけ?』
私は始末書の束をバシバシ叩きながら神山を攻め立てる。するとその時平子隊長が執務室に入ってきた。
「お話し中か?」
『はい。すぐ始末するんで少し待ってください』
「何を始末する気なんや」
そう言いながら隊長はソファーにドサッと座った。私はそれを確認したあとまた画面へと向き直った。
『で、どう責任とってくれるわけ神山君?』
「じっ自分切腹するッス!!!!」
『お前が腹切ったってなんの解決にもなんねーんだよバカ。部屋が血みどろになるだけだろ』
「いや切腹するッス!!それで桜副隊長が助かるなら自分腹くくるッス!!!!」
『だからお前が腹切っても意味ねェっつってんだろ?お前話聞いてた?もしかして寝てた?寝てたの?』
「寝てないです!!バッチリ起きてました!!俺が桜副隊長の声を聞き逃すなんてこと有り得ないッス!!!!」
『気持ち悪い』
「桜副隊長に思われるなら本望です!!!!」
『もう駄目だコイツ』
私はイラつきながら、隊長が座る向かい側のソファーに座った。
もうなんなのアイツ…救いようのない馬鹿だよ。馬鹿と天才は紙一重って言うけどアイツはただの馬鹿だよ。
「えらい厳しいなァ」
『この状況の方が厳しいんですけど……ったく…ちゃんとあのドS見張っとけっつったろ神山。お前はこの
四ヶ月の間何をしてたんだ』
「自分!精一杯沖田隊長を見張ってたッス!!バズーカで吹っ飛ばされながらも精一杯沖田隊長を見守ってたッス!!」
そう言いながらグルグル眼鏡の間から涙を流す神山。
『結局なにもしてねーじゃん。見張ると見守る全然違うだろ。もっと日本語勉強しろ』
「ラジャァァァァァ!!」
『声でかい、うるさい、黙れ、死ね』
「死ねェェェ!?『だからうるさい』副隊長ォォォォォ!!!!」
そう言って私の名前を連呼する神山。そんな様子をみて平子隊長は引いたような顔をする。
「うるさいやっちゃなァ…あれ桜チャンの部下か?」
『…言っときますけど、アレが慕っているのは隊長ですから。私がどーこー吹き込んだって訳じゃないですから』
「桜チャンも十分慕われてるやんけ」
『いい迷惑ですけどね』
「そーやろな」
私は平子隊長の言葉にため息をついた。この始末書の山をどうするか、そう思っていたとき画面の向こうからお馴染みの声が聞こえてきた。
「そこら辺にしてやれ桜」
「副長ォォォォォォォ!!」
副長殿の登場だ。
土方さんは相変わらずで瞳孔全開でタバコを吸いながら現れた。
「神山、お前は仕事に戻れ」
「りょっ了解です!!」
土方さんにそう言われ立ち上がり仕事へ戻ろうとする。私は神山が部屋から出てきいそうになったとき声をかけた。
『神山ー』
「はい!!何んスか?」
『次、ヘマしたらその眼鏡かち割るから』
「はっはい!!胸に刻んでおきます!!!!」
そう言い残して神山は早足で部屋を出ていった。そして今度は土方さんが画面の目の前に座った。
「副長サン久しぶりやなァー」
「あぁ…最近忙しくてな」
『それの理由はコレですか』
そう言って私は大量の始末書を指差した。そして土方さんは疲れきった顔で頷いた。
『だからって何でこっちに送ってくるんですか。てかどーやって送ってきた』
「それはあのカラクリのじーさんが、物だけは時たまに転送できるようになったからっつーからそれで試したんだよ」
『それにしても…もっと他にあるでしょうが。よりによって何で、総悟の始末書なんですか。しかもご丁寧に下書きと本紙わけてあるし』
これは私がやれってか。あの野郎の仕事を私が代わりにやれってか。わざわざここまで送ってきてやらせる気か。
「しょーがねェだろ。まともに書類仕事できるのお前か俺くらいなんだ。それなのにアイツは…!」
『四ヶ月でこの量って…何やってんだあのバカ!!私らを過労死させる気か!!』
「つー訳だ。もうこっちはいっぱいいっぱいだからそっちで頼む」
『はぁ……徹夜だ』
「お疲れサン」
『そう思うならアンタも真面目に仕事してください』
私はそう言いながら隊長を睨み付けた。
「そんな睨んでも怖ないでェー」
『気休めにはなります。土方さん、終わり次第こっちから送り返しますから』
「何を送り返すんでィ」
『何をって…どっかの誰かさんがやらかした始末書―』
って………
「総悟、お前巡回のはずだろ。ここで何やってんだよ」
「見ての通りサボりでさァ」
「何堂々と言ってんだオメーは!!」
はい、初登場ですね。総悟ですね。今回の問題の源ですね。
「あれー桜じゃねーか。相変わらずのチビでなによりでさァ」
『誰がチビだクソガキ』
私はソファーから立ち上がって画面の目の前に立った。
『総悟さ、私がいない間何やらかしてんだよ。四ヶ月でこの始末書の量はおかしいでしょーが。何コレ、店丸ごと一軒爆破とか。何をどーやったら店が一軒ぶっとぶわけ?』
「そんなことも分からねーとは、副隊長失格だなー」
『一般市民に迷惑かけてる隊長に言われたくないね。大体ねぇー「そこら辺にしとけや桜チャン」
私が溜まりにたまった怒りを総悟にぶつけようとしたとき間に平子隊長が入ってきた。
「オメーもさっさと仕事行ってこい。いい加減減給すっぞ」
「土方さんもいい加減副長の座譲らねーと暗殺しやすぜ」
「上等だコルァァァ剣を抜けエエエエ!!!!」
『屯所で刀を抜くな。それでも副長か』
「そんなちぃせー乳して本当にお前は女か桜ー」
『んだとコラァァァ!!今日こそそのふざけた面叩っ斬ってやらァァァァァ!!!!』
チャキッ
「オイコラ!!こんな場所で刀抜くんやない!!!!」
刀を抜いて今にも画面に襲いかかりそうになる私を平子隊長が押さえる。そーこーしているうちに総悟は土方さんに追いかけられながら部屋を出ていった。
「待てコラ総悟ォォォォ!!」
「えーからお前は落ち着け!!!!」
『だって!!あいつムカつくんですもん!!!!ろくに仕事もしないで人に押し付けやがってっ…!!』
「もうよォー分かったから落ち着けや。ほら、刀しまいィ」
『〜っ!!』
私はなだめる平子隊長に免じてふてくされながらも刀をしまった。
「ん、聞き分けええ子は嫌いやないで」
『私は仕事をしない奴は嫌いですけどね』
そう言いながら私は自分の机に始末書を運び、椅子に座った。
「何や、文句いいながらもやるんかい」
『やんなきゃ終わらないでしょうが。向こうに帰ったら総悟シメるんでいいです』
「コラ、自分とこの隊長サン大事にせなアカンで。それにしても…えらい若い隊長サンやったなァ。戦闘部隊とか言うからもっとゴツイ男やと思てたわ」
『総悟は私の一個上ですよ。見ての通り生意気なクソガキですよ』
「クソガキて、桜チャンも人のこと言えな『あ゛ぁ?』ナンデモナイデスゥー…」
誰があんな奴と一緒だ。死んでもそんなこと嫌だね。
私は心が晴れないまま筆をとり、始末書に手をつけた。
あ、そー言えば…
『隊長』
「何やァー?」
『昨日渡した書類、終わりましたよね?今日提出なんですけど―「ちょーっとそこら辺見回りしてくるわァ〜」は?』
そう言うと平子隊長はそそくさと執務室を出ていってしまった。
隊長の机の上に置かれっぱなしの書類。そして私の机の上に山積みにされた総悟の始末書。
『結局オメーも総悟と一緒じゃねェェェかァァァァァ!!!!この腐れオカッパアアアアアアアアアアアアアアア』