蜂蜜果蜜
□蜜十一滴
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「おぬしが新人隊士で五番隊三席の座についた娘か」
『正しくはつかされた、ですけどね』
どっかの金髪ロン毛パッツン野郎のせいでな。
どうも。聞いての通りこの間三席に昇進した桜です。そう、アイツです。あのバカが私を昇進させたんです、あのバカが。絶対こっちでは面倒な役回りはしないって決めてたのにコンチクショー。
てゆーか…
『聞くことと行動と順番逆じゃないですか?』
私の腕を引っ張りながらズンズン進んでいくのは、二番隊隊長の四楓院夜一さん。どこかで例の話を耳にしたようで私に会いに来たらしい。
「別に良いではないか!」
『いや、駄目だと思います』
だっていきなり現れて腕つかまれてどこか連れてこうとする途中で私の事を確認するって、どう考えてもおかしいでしょ。
『あの…四楓院隊長、いったい何処へ…』
「堅苦しいのう。夜一で良い」
『…夜一さんは一体全体私を何処へ拉致ろうとしているんですか』
「拉致とは聞き捨てならんな。ちぃと儂と遊びにいくだけじゃ」
『だから、何処へですか。それに私仕事中なんですけど。平子隊長に怒られる…』
つーかネチネチ嫌み言われる…。
「何も心配はいらんぞ。平子にはあとで儂から口添えしておこう」
尚更ネチネチ言われるっつーの。
私はそう思いながら夜一さんに引っ張られるまま歩く。すると夜一さんはいきなり止まった。私は前に突っ込まないように足で踏ん張って止まった。
「着いたぞ、ここじゃ」
『ここ?』
…って、えぇー……。
目的の場所に着いたと言い張る夜一さんの言葉に顔をあげると、それはそれは立派なお屋敷があった。見た目からして貴族の家だと一発でわかるような。
『……帰ります』
ガシッ
「何でじゃ?ここは楽しいぞ」
『いや、そんな友達の家感覚で行けません。敷居が高すぎます』
「そんな事気にせんでもよい。グズグスせんと入るぞ」
『心底グズグスしたいですよ』
そう言いながら私は夜一さんに引きずられるようにして屋敷の門をくぐった。中に入るとますます立派で、
…こんなところに何しに来たんだこの人は。あ…遊びに来たんだっけ?…………全力で帰りたい。
私は緊張と早く帰りたい気持ちでいっぱいいっぱいになっていると、夜一さんは何かを見つけたらしく、私の腕をつかんでいた手を離して上にあげた。
「久しぶりじゃのう!白哉坊!!」
びゃくやぼう?
私は聞きなれない名前に顔をあげた。するとそこには私と同じ年くらいに見える木刀を持った男の子がいた。
その男の子は私たちに気づくと嫌そうな顔をした。
「出たな化け猫」
「化け猫とは御挨拶じゃな!!今日はちゃんと門から入ってきたぞ!!」
今日はって…あんたいつもどこから侵入してんだよ。ほら、男の子だって呆れた顔してるよ。
私も男の子と同じように呆れた顔をすると、男の子と目があった。
あ、イケメン。
「…四楓院夜一、貴様の隣にいる娘は誰だ」
「お、興味があるのか?そうじゃろうなぁ〜桜はなかなか可愛い顔しとるからなぁ〜」
「なっ…そんなわけ無いだろう!!」
「そう照れるでない!隠してもその赤い顔でバレバレじゃぞ!!」
「黙れっ!!誰がそのような子供に好意などもつか!!!!」
あのー…勝手に変なこと言ってマイナス印象与えないでください。なんか初っぱなから嫌われるパターンじゃん。てか既に嫌われてる。
『……………』
「おーおー可哀想に。おぬしの冷たい一言で桜が傷ついてしまったわ」
「なにっ…べ、別に私はその様なつもりで言ったのでは!!」
『あの…別に傷ついてませんから』
「っ!!おのれ!四楓院夜一!!この私に嘘を言ったな!!」
私がそう言うと、男の子は明らかに青筋をたてて夜一さんに向かって木刀を振りかざした。それを難なくかわす夜一さん。
「ふははははははは!!!騙される方が悪いのじゃ!!まだまだ修行が足りんようじゃなあ白哉坊!!」
『煽るな…』
「なんだと!?待て化け猫!!今日こそ貴様をっ…!!」
『お前も乗るな…』
白哉と呼ばれる男の子は夜一さんの挑発に乗り木刀をぶんぶん振り回す。そしてそれをまたもや難なく避ける夜一さん。
そんな彼等を観察すること数十分――
『あのー…そろそろ帰ってもいいですかー?』
完全に放置された私。
あのさ、これ私いる必要なくね?完璧空気じゃん、見えてないじゃん。遊びに来たって夜一さんが遊びたかっただけなんじゃ?
私が帰りたいオーラを出していると、ようやくそれに気づいた夜一さんが戻ってきた。
スタッ
「すまんすまん!すっかり忘れとったわ」
『そのようで……もう帰っていいですか?』
「それは駄目「待て!!四楓院夜一!!!!」」
スタッ
すると彼が息を上がらせて戻ってきた。余程疲れたようだ。
「やっと戻ってきおったか。紹介する。彼女はこの間五番隊平隊士から三席まで昇進した月ノ瀬桜だ。ホレ挨拶せい」
ここで自己紹介かい…
『桜です…どうも』
「ホレ!お前もじゃ!!」
「何故私が!!「はよせぬか!」っ……朽木…白哉だ」
夜一さんに急かされて嫌々名前を言う白哉。
うん、知ってるよ。数十分あんたらのこと見てたからね。名前くらいかなり前に分かってたよ。
でも…朽木ってどっかで聞いた名だな…。
私は悩むように彼の顔を見ていると夜一さんが付け足してくれた。
「おぬしも知っての通りあの四代貴族のひとつ朽木家、朽木銀嶺隊長の孫だ」
『………』
何ですと?
え、朽木銀嶺ってあの?白髭で長髪でちょい怖そうなあの朽木隊長のお孫さん?………ウソだろ…
「おぬしと年が近いと思ってな、会わせてみたんじゃ」
いやいや、会わせてみたんじゃ、じゃなくて。これからどうしろと?これと友達にでもなれと?
「白哉坊も年の近い遊べる友達がおった方がいいじゃろう?」
「次期当主たる私に遊びなどふようだ!」
「友達は否定せんのか?」
「ーっ友もだ!!」
そう言って不満そうな顔をする白哉。
白哉君や…あんたは簡単に口車にのせられすぎだよ。完全に夜一さんにからかわれてるよ。
「そうかそうか!!よかったのう友達ができて!!」
「だから友など不要だと言っているだろう!!」
「それでは存分に楽しめ!!」
「話を聞け!!!!」
そう言って夜一さんは屋敷の塀に登り帰ろうとする。
え、ちょっと待てよ。勝手に連れてきておいておいてけぼり?
『あの夜一さ「桜も暗くならんうちに帰るのじゃぞ!!」人の話聞けって』
夜一さんは私の言葉を無視し、瞬歩で消えてしまった。
「二度と来るな化け猫め…」
『…………』
これから…どうしろと?夜一さん、無責任にもほどがあるんじゃない?こんなの気まずくなる一方なんですけど。
「……………」
『……………』
「……………」
『…………………』
ホラなホラな。見てみろよこの無言。この気まずい空気。完璧白哉怒ってるよ。イラついてるよ。
私はこれ以上彼のご機嫌を損なわせないように静かに口を開いた。
『あの……帰ります』
そう言って立ち去ろうとすると、意外な返答が返ってきた。
「待て…客人はもてなす。来い」
『…命令口調?』
あのまま白哉のあとについていった私は客間に通された。そして白哉はどこかへ消えてしまった。
それにしても…緊張する。何なんだこの豪華さは。チリひとつ落ちてないよこの部屋。飾ってあるもの全部高そうだし、つーか綺麗だし。どんな黒いことやったらこんな金持ちになれるわけ?
てか…ここ朽木隊長の家だよね?私が居座ってていいのだろうか…。
そう思いながら周りの家具を眺めていると襖が開き、白哉が戻ってきた。
「待たせた」
待ってないッス。全然待ってないッス。むしろ一生来てくれない方が気が楽。
白哉は稽古着から着替えたようで、さっきよりも綺麗な着物になっていた。
白哉はそのまま歩いてき、私の向かい側に座った。
さて……
「…………」
『…………』
この重い空気をどうやって回避するか。
会話ってこんな緊張するもんだっけ?こんな難しかったっけ?もっとスムーズに楽にできるもんじゃなかったっけ?
「…………………」
『…………………』
ほら…どんどん重くなってくよ。空気に潰されそうだよ私。どうにかしてよこの空気。
そしてしばらく無言が続いた。しかし、白哉が不意に口を開いた。
「桜と…言ったな」
『はい…そーですけど…』
おぉ…喋った。
「桜は四楓院夜一と仲がいいのか?」
『夜一さんと?…彼女とはここに来る前に初めて会いましたよ』
そして拉致られました。
と、言いそうになったが、何かツッコまれそうだから止めとこう。
「では何故ここへ来たのだ…あの化け猫め。何を考えているんだ…」
コラコラ…次期当主がそう簡単に青筋たてなさんな。
白哉はよっぽど夜一さんがウザいらしく、物凄い嫌そうな顔をした。
「巻き添えをくらったようだな」
『全くもってその通り…ったく…こっちの身にもなれっての………あ、』
私は咄嗟に口を手で押さえた。
ヤバ……つい本音が……。それもお貴族様に向かってとんでもない言葉を……
私は恐る恐る白哉の方を見た。すると彼は目を丸くしていた。
やって…しまった……
『あ…あのー…』
「驚いた…そんな話し方もするのだな」
『そんな驚きます…?』
「ああ。見た目とのギャップがな」
…あんたも人のこと言えないでしょうが。夜一さんと鬼ごっこしてたときのあの熱くなりっぷりは。
心の中で反論していると、白哉がちょっと照れくさそうにこう言った。
「は…話しやすければそれでいい。無理に敬語を遣わなくても…」
『………?』
ん?それって、敬語じゃなくて気軽にタメ口で話せってこと?
…可愛いとこあんじゃんか。
『…じゃ、遠慮なく』
それから私達をとり囲っていた重い空気はどこかへ行き、楽しくお喋りすることができた。
そして迎えが来たということで私は帰ることにした。玄関まで行くと夜一さんが立っていた。
「随分盛り上がったようじゃな」
「煩いぞ」
『一々突っかかんなよ…』
もう、この二人は会うたびこうなのか。
私はそう思いながら足袋をはいた。それを確認すると夜一さんは玄関を開けた。
「また遊びにくるから楽しみに待っとれよ白哉坊!!」
「誰が貴様など待つか」
「照れんでもよい。それじゃあ帰るとするかのう桜」
『はい。またね白哉』
私は夜一さんのあとを追うように玄関を出た。そして玄関の戸を閉めようとしたその瞬間、白哉が声を出した。何かと思い見てみると、白哉が少しうつむいて呟いた。
「ま…また、話してやらんことも…ない。私が丁度暇だったならな!」
うわー……見事なツンデレ。素直じゃないやつ。
私は戸を閉め終わる前に手をふった。
『また遊びに来る』
「桜チャーン。今日お仕事サボって二番隊隊長サンと何処行ってたん?」
『どこだっていいじゃないですか』
「反抗期かっ。もしや俺に言われへんようなとこちゃうやろな」
『違いますよ…しつこいな』
遊びにいったなんて言ったら…怒るだろうな。
それも、初めてこっちでできた男友達の家だなんて。
「ほォ〜俺に隠し事できるんと思てるんか?」
『やってみますか?』