蜂蜜果蜜
□蜜八滴
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『…ん……?』
あれ……ここ…どこだ………?
起きたらそこは自分の部屋じゃなかった。と言うか、景色が歪んで見えた。
…なんか…頭……ふらふらする……
私はダルい体を起こそうと手を敷き布団につけたとき後ろから頭を誰かにつかまれて、私は再び布団へと戻された。その正体は…
「コラァ。大人しく寝とけや」
『平子…たいちょ……』
何で……平子隊長が…?てゆーか…
『……しごと…行かなきゃ…』
「アホか。そんな調子で仕事できるわけないやろが。桜チャン熱出とんの分かっとんのか?」
熱……?
『…誰が……?』
「お前以外に誰がおんねん。そーとーキトるな」
『………あぁ……だからダルい…』
「頭まわっとらんな」
そう言うと平子隊長は私のオデコに手を当てた。
『ん…』
「全然下がっとらんな」
そして少し困ったような顔をして私の顔を覗き込む隊長。
隊長の手……冷たくて…きもちい………
「辛そうやな…今日はここで休み」
『でも仕事……』
「ええから休んどけ。治るモンも治らんぞ。分かったな?」
『……はい…』
「よし、ええ子や」
そう言って平子隊長は手をオデコから頬に動かし優しくさすった。
人にベタベタ触られるの…好きじゃないけど…………これは嫌いじゃない…かも…
「俺と惣右介は隣の執務室で仕事しとるから何かあったら呼びや」
『はーい……』
そう言って平子隊長は私の頬から手を離し、部屋を出ていった。
『はぁー………』
ねつ、かぁ……そろそろくると思ったよコンチクショー。住む環境変わると熱でる体質…どーにかしなきゃなぁ……
私は風邪はひきにくいみたいだが、このように住む環境が変わったりなんだりすると熱がでやすい体質らしい。実は真選組に来た一ヶ月後熱がてたりした。そして山崎さんに一日中看病された。
今回は出ないと思ったんだけどなぁ……油断した…
私は悔しさ紛れに布団を頭までかぶってくるまった。
あー…頭痛い……ズキズキする……てゆーか…体がふわふわする……
『うぅ〜……だりぃ〜よぉ……』
水分ほしいし………でも隣まで行くのすらだるい……あー、山崎さん欲しいー…便利アイテム山崎が欲しいー…
山崎さんだったら一日中看病してくれんのに………
『なんか……寂し』
私は布団をぎゅっと握りしめ、静かにまぶたを閉じた。
『ん………ぁ……』
「ん?起きたんか?」
『…ひ…ぁ……たぃ…ちょ……』
あれ…声が……
「あーあー、喋んなくてええから。何か欲しいモンあるか?」
『……みず…』
「水な」
カスカスの声で水を求めると、平子隊長はコップに水を入れて持ってきてくれた。
「起きれるか?」
いや…起きないと私の喉が乾燥して死ぬ…
私は力なく頷いて隊長に支えられながら起き上がった。私が寝ている間にのせたのかオデコから湿ったおしぼりが落ちてきた。
「ほれ」
『どうも……』
ゴクゴクゴクッ…
あー……喉が潤される……そーいや朝から何にも食べてないや…今何時だ?
そう聞こうと思ったとき、部屋に藍染が入ってきた。
「失礼します。月ノ瀬君…大丈夫かい?」
『……藍染さんが二人見えますが大丈夫です…』
「それ大丈夫って言わないよ……隊長、そろそろ隊首会のお時間です」
「そーか。そんじゃあ桜チャンのこと頼むわァ。ええ子にしとるんやぞ」
だから子供扱いやめろって…
『隊長も…隊首会ではおとなしくしてるんですよ…』
「…熱だしても一言余計やな」
そう言って平子隊長は出ていった。部屋に残ったのは私と藍染さんの二人だけ。
藍染さんはいつものあの穏やかな笑顔で私の隣まで来て手拭いを濡らして絞った。
「はい、手拭いのせるから寝てね」
『それ…嫌いです…』
なんかオデコにのせられる感じがやだ…冷えピタとか大っ嫌いだし……あの眉毛と前髪の生え際が冷えピタでくっつく感じが……気持ち悪い…
「我儘言わない。熱下がらないよ?」
『……ほっとけば下がります』
ガバッ
「あっ、こら!」
私は藍染さんの言葉を流してそのまま布団に倒れこみ、また布団を頭までかぶった。そして布団の外からは藍染さんの困ったような声がした。
「ほっといて熱が下がるわけないでしょう。ほら、顔だして」
『嫌です…』
「桜君、隊長にいい子にしてるように言われたよね?手拭いのせるだけだから、ね?」
『……………』
「はぁ…隊長に怒られても知らないよ…」
どうやら諦めたようだ。そしてしばらくカサゴソと音がしていたが段々静かになってきた。
私は布団の隙間から外をのぞいた。すると藍染さんは私からちょっと距離をとったところで本を読んでいた。
これじゃー……顔出した瞬間に手拭い…
「…ん?手拭いのせる気になったかい?」
『いえ……』
のせられる…な…
そう思った私は布団を頭までかぶったまんま眠りにつくことにした。
つーか……暑い……
「……か………りが…な…」
あれ………誰か……声…が………
私はゆっくりと目を開けた。そこは真っ暗で、最初どこだ?と思ったがボーッとしていると布団を被っていることを徐々に思い出してきた。
そう言えば……藍染さん…は…?てゆーか……さっきよりも…だるい…気が……
私は頭を布団から出した。そこにはいつものあの穏やかな笑顔をしている藍染さんの姿はなく、代わりに少し怒った顔をした平子隊長がいた。
私が起きたことに気がつくと平子隊長は手拭いを持ってきた。
「コラ。惣右介の言うこときかんかったらしィーな。ええ子にしてろ言うたやろが」
『…………して……ました』
「ウソこけ。手拭いのせへんかったから熱上がっとるやんけ。こォーんな赤い顔しおってからに」
『……………』
「手拭いのせるで」
『……やだ』
ガバッ!!
そうしてまた私は布団をかぶった。でもそれを許してくれる隊長ではなかった。
「ヤダじゃない。オデコ冷やさないつまでたっても熱下がらんぞ。我儘言うなや」
そう言って無理矢理布団をめくろうとする隊長。私はそれを拒むべく、ぎゅうっと掛け布団を握る。だが、病人の力では勝てることはできず、顔がひょっこり出てしまった。
見えたのは手拭いをのせようとする平子隊長の姿。私は熱のせいで意識が朦朧とし、目には涙がたまってきた。
そして最後の抵抗をしようとめくられた布団の端を手でぎゅっと抱き締めた。
『やだぁっ…!』
「……そんなかわえー顔しても駄目や」
そう言って手拭いをオデコにのせられた。
その瞬間、オデコがひんやりとした。またそれと同時に眉と前髪が湿るイヤーな感じがした。
『ーっヤダってば!!』
「オイ暴れるな暴れるな…どんだけ嫌なんや?」
『やだっつってんだろ!!』
「あっ!取ろうとすんな!!」
私は手拭いを取ろうとするが平子隊長がそれを止めてくる。
「大人しくしとけや。暴れたら熱あがるで?」
『それでもいいっ!』
ペシッ
そう言って手拭いを床へ投げつけた。それを見た平子隊長は疲れきったようにため息をついた。
「はぁ…ええ加減にせんと本気で怒るで、桜」
『っ………』
そう言った隊長の顔は今まで見てきた中で一番怖かった。
隊長が……怒ってる…
私は始めてみた隊長の本気で怒った顔が怖くて何も言えなくなってしまい、私は布団で顔を隠した。
そんな私を見た平子隊長はまたため息をつき、そして私の頭を撫でた。
「…そんな怯えんな。怖い顔して悪かった」
『……別にっ…怖、くない…です…』
「声震えとるやつがよく言う…よーしよし。もう泣き止めや」
…泣いてないっつーの。どさくさに紛れて泣かせんな。
「でもオデコ冷やさんと熱下がらへんねん。辛い思いすんの桜チャンなんねんぞ?苦しいの、嫌やろ?」
『……別にい「嫌やろ?」…はい』
「せやから今少し我慢せなアカン。分かるな?」
『…分からな「分かるな?」…いや、分から「分かるな?」……わかりますー…』
これ…強制……
「ええ子や。じゃー少し我慢しぃや」
そう言うと平子隊長は水の入った桶にちゃぷん、と手を入れた。
あーあ…嫌だな………前熱だしたとき近藤さんには勝ったけど山崎さんには負けたんだよね…今の平子隊長みたいに。そーいやあんときの山崎さんも怖かったな……オカンみたいで。
それで容赦なくオデコに冷えピタをはられた。あのときの気持ち悪さは今でも忘れない。ジミーのくせして…
私はあの時のことを思い出しながら今から来る、あの嫌な感触を待った。
そして私の額にヒヤッとしたものが触れた。でも、それは手拭いなんかじゃなくて…
「これでええやろ?」
平子隊長の手だった。
隊長は自らの手で私のオデコを冷やしてくれたのだ。一回拭き取ったようだがある程度湿っていて、私の嫌いな感覚だった。
でも……
『嫌いじゃない…かもですね』
「生意気やなァ」
あなたに触れられるのは、
悪い気はしない。