蜂蜜果蜜

□蜜七滴
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ピッ

スイッチを入れたが、何故か近藤さんはいなかった。

あれ?いない?どーせまた顔から出るモン全部出して画面に張り付いているものだと…

「誰もおらんやんけ」

『いませんね』

「もしかして壊れたんじゃ…」

「そうやったら映らんやろ。背景映ってんやから壊れてはないと思うで」

『……ん?何か聞こえませんか?』

何か声が…

そう言って私は画面に耳をすませた。二人も私と同じように画面に耳を傾けた。すると聞き覚えのある声がした。

「ぐすっ……どうせ俺なんか…父親…失格だ……ぐすっ…」

数秒間耳をすませたあと、二人にジーっと見られた。

え、これ私の…

「桜ぢゃぁん……」

せいですね、はい。

私はため息をついてから、静かな声でゆっくり話した。

「近藤さん…怒ってないですから出てきてください。私が悪かったですから」

「本当っ!?」

ズザザッ!!

私がそう言うとすぐに出てきた。心底単純だと思った。

うわぁ…顔きたな………とか言うとまたいじけちゃうから黙っとこ。

そう思っていると、近藤さんは心配そうな顔で質問をぶっこんできた。

「桜ちゃん元気だった!?風邪とか引いてない!?熱とか出してない!?てゆーか移隊したんだって!?大丈夫!?苛められたりしてない!?怪我は!?ご飯はちゃんと食べてる!?桜ちゃんよく朝ごはん食べないで仕事するでしょ!!!!ちゃんと3食食べなきゃ駄目だからね!!!!それから!ちゃんと寝てる!?また連続で徹夜とかしてないよね!?大丈夫だよね!?」

『あー…えっと…全部ひっくるめて大丈夫ですよ』

てゆーか後半から質問覚えてない。

「ホントッ!?ホントだね!?いやぁ……俺はてっきり桜ちゃんに何かあったんだとばかり…」

『大丈夫ですよ。ですからそろそろ顔拭いてください。流石にドアップで見るの辛い』

「おぉ!すまんすまん」

そう言って近藤さんは近くにあったティッシュで顔をふく。

あ、平子隊長たち紹介しなきゃ。できるならしたくなかったけどな…

『あの、近藤さん。えーっと…私の右にいるロン毛パッツンさんが平子隊長で、左にいる眼鏡のイケメンさんが藍染さんです。今お世話になっている五番隊の隊長と副隊長です』

「どうもー始めましてェ。平子真子言いますー。よろしくですわ」

「始めまして。藍染惣右介です」

「おお!!君達が!」

近藤さんは鼻をかみおわると、パァッと表情が明るくなった。

「真子君に惣右介君だね!俺は真選組局長の近藤勲だ。桜ちゃんが世話になっているようで…すみませんなぁ〜」

「ええねんええねん、そんなこと。優秀な子ォで助かっとりますわァ」

「うちの中でも彼女は特に優秀ですからなー!ガハハハハ!!」

……恥ずかしいからやめてよ…

「それにええ子やしなァー。書類整理はできるし掃除はやってくれるしで、こないええ子どこで貰ってきたんや?」

「それがうちの隊士の一人がふらーっと連れてきてですね〜。そのまま流れで真選組に〜みたいな?」

「ほォ〜」

『はい、そこまで。過去の話はしなくていいです』

「ええやんか別に。俺も桜チャンの過去知りたい〜」

『は?』

「俺も桜ちゃんの昔話し〜た〜い〜」

『あ゛?』

「濁点つけたって怖ないでー。それじゃーまず桜チャンの一番恥ずかしい出来事話してもらえますかなー勲サン」

「一番恥ずかしい出来事なぁ……おお!あったあった!!あれは確か〜」

『ちょっと待った!!何を言う気だ!!』

「ちょっ…黙っとれ。これから勲サンとたのし〜話すんねんから」

『私にとっては嬉しくない!!』

私が話を中断させようと画面と平子隊長の間に入って邪魔をすると、肩にぽんっと手をおかれた。

『藍染さん…』

「ああなった隊長は誰にもとめられない」

『……………はい』



















「ハハハハハッ!!それホンマか!!」

「ホンマホンマ〜!!あのいじけた桜ちゃんは最高に可愛かったァァ!!」

あれから二時間。二人のマシンガントークは終わりを見せず、今正にテンションMAX状態です。

それを二時間、黙って一人で書類整理をしている私。因みに藍染さんは隊士たちに稽古をつけにいってしまいました。そうです。見捨てられました。

こんな状況で永遠と私の昔話…

『もう…殺して……』

もうこんなの生殺しだよ。いっそのこと殺してくれ。一思いに殺ってくれ。精神はもうズタボロなんだ。留目を刺すぐらい誰でもできるでしょう。

もう私の心は見ての通りズタズタで、私は筆を持ったまま机につっぷした。

その時、救いの女神があらわれた。

「仕事もしねーで何やってんだよ近藤さん」

「お、トシ」

土方さんだと!?

ガバッ

私は机につっぷした体を一気に起き上がらせた。

銀魂で数少ない常識人土方十四郎!!今の私の味方はもう土方さんしかいない!!

私は全速力で画面の前まで行った。

「今な桜ちゃんがお世話になっている隊長さんとお喋りしていてなぁー!!」

「桜?…いねーじゃねーか『土方さん!!』うおっ」

「いきなり出てくんじゃねーよ…久しぶりだな。ちゃんとそっちでやってんのか?」

『やってるやってる、やってますから近藤さん退場させてください。仕事にならん…』

「そのつもりだ。オイ近藤さん、いい加減仕事に戻ってくれ。いつまでたっても書類が片付かねェ」

「すまんすまん!!つい真子君と話すのが楽しくてなぁ。それじゃあまた話そう!!」

「いつでも連絡くれやァー」

「桜ちゃんもまたな!!」

『いいからはよ行け』

そう言うと近藤さんはニコニコ笑いながら部屋を出ていった。

『はぁ……魔の時間だった…』

「珍しくゲッソリしてるじゃねーか」

『近藤さんのせいです。あ、こちらパッツ……平子隊長です』

「パツ?え?何て?」

「桜チャーン?なんべんも言うとるやろー。人の名前間違えたらあかんて」

「ああ゛?お前隊長の名前間違えてんじゃねーよ。近藤さんはともかくよ」

……ダブル説教…つーか近藤さんはいいのかよ。

『……ごめんなさいー』

「伸ばすな」

『チッ…ボソッ)一々うるせーんだよ土方は…』

「オイ今何つった?」

『うるせーんだよ土方は』

「よし、分かった。腹切れ」

『は?今私、護廷十三隊の隊士なんですけど。局中法度関係ないんですけど。もしかして馬鹿なんですか?うましかですか?』

「んだとコラァァァァァ上等だコノヤロー!!!!」

『はい、この瞳孔が365日かっぴらいててキレやすいのが鬼の副長こと土方十四郎です』

「どのタイミングで紹介してんだオメーは!!」

『いや、素のままの土方さん紹介しといた方がいいかなと思って』

「どんな理由だよ!」

『は?だから今説明したじゃないですか。人の話聞いてくださいよ』

「お前なァ…!!」

こんなやり取りを見ていた平子隊長は私の横で軽く笑った。と言うか笑われた。

「えらい仲ええなぁ」

『どこ見て判断してんですか』

「変なとこ見せてすまねぇ……真選組副長の土方十四郎だ。よろしく頼む」

「そんな固くならんでええねんて。俺は五番隊隊長の平子真子や。よろしくなァ」

私は互いに自己紹介する二人を見て思った。

なんか…合わないな。この二人。

そう思ってると平子隊長が話しかけてきた。

「鬼の副長言うからどんなゴッツイ男やと思ったらえらいイケメンさんやなぁ」

『え、コレが?』

「オイ、コレってなんだ」

え、え、だって。瞳孔ひらいてんだよ?いつだって怒ってんだよ?それに犬のエサ食べんだよ?どこがイケメンよ。

「今俺の悪口言っただろ」

『言いましたけど。なに?土方さんも妖怪サトリ?それ平子隊長とキャラかぶりするから駄目ですよ』

「誰もそんなポジション狙ってねーよ。お前意外と顔にでてんだよ」

うわーマジか。意外な発見。そんな顔に出てる?

私が無言で過去を振り返っていると隊長が何かを渡してきた。

「桜チャン、お話の途中で悪いんやけどコレ八番隊に届けてくれへん?頼むわ」

『あ、はい。わかりました…って。これ昨日渡すはずの書類じゃないですか』

「そこツッコむなや。えーから早よ行き」

『はいはい…じゃ土方さんまた。次会うときはマヨネーズの食べ過ぎで死んでいるときがいいですね』

「一言余計だ。いいからさっさと仕事しろ」

『相変わらず厳しいですね土方ママ』

「誰がママだァァァ!!」

ママという単語が気に食わなかったらしく、追い出されるようにして私は執務室を後にした。

一体二人で何を話すのやら…


―――土方side―――

行ったか…

「で、俺に何の用だ?」

「ちょーっと桜チャンについて聞きたいことあってなァー」

「何だ?」

「あの子何者なん?」

何者?そんなの俺が聞きてーよ。

あいつが真選組に来てからはある程度知っているつもりだ。だがあいつが真選組来るまでの過去は知らない。

「何者って…見ての通りただのクソ生意気なガキだよ」

「それは俺も知っとるわ。ただなァ…桜チャンたまーにえらい悲しそうな顔すんねん。仲間に会えなくてとかそーゆーんじゃなくてな」

「桜が?」

「桜チャンまだ俺に懐いてくれなくてなァ。聞くにも聞けへんねん。最初あんたやなくて勲サンに聞こうと思たんやけどな、あれ以上心配事増えたら死んでまうやろ?」

「ふっ…違いねェな」

近藤さんをはじめ、隊士の半数以上があいつのこと心配してたからな。最初の一月は仕事も手につかなくて大変だったなありゃ。

「そんで副隊長サンなら分かるかな思てな。そーゆーの得意やろ?」

「まぁ…桜は特に色々とやらかしてくれたからな。嫌っていうほどアイツの行動はわかってる」

「桜チャン大人しそーな顔しておてんばサンやからなー」

おてんばなんて生ぬるい。そんな可愛らしい呼ばれかたのやつが普通屯所でバズーカぶっぱなすか?街で暴れるか?俺が後始末にどんだけ苦労したことか…

俺は総悟と一緒になって屯所を滅茶苦茶にされたときのことを思い出しながらタバコに火をつけた。そして一回タバコを吸ってから口を開いた。

「桜がそっちに行ってから人、斬ってるか?」

「人ォ?斬ってへんで。虚はここに来る前に何匹か斬ったらしいけど、そんな話聞いてへんで」

やっぱりな……

「…なら、多分アイツは自分の存在意義を探してんだろーよ」

「存在意義…?」

「馬鹿だからどーせ、“人を斬れるから真選組にいる”とか“人を斬れない自分は必要ない”とか思ってんだろうな。実際問題桜がうちの隊士としていれてるのは人を斬れるから、だが、近藤さんや俺はそうは思ってねェ。アイツが人を斬れなくなっても俺は真選組で面倒見るつもりだ。だけどなぁ…それが桜には伝わんねーらしい。人一倍負けず嫌いで頑固で遠慮深くて、だけど泣き虫で。そんなくせして戦場に立ったら誰よりも強ェ侍だ。…今、多分アイツは“このまま人を斬れなくなったら真選組から追い出される”って考えてんだろうな。ったく…ほっとくとロクなこと考えねェ」

「……何や、桜チャンのこと分かりすぎて悔しいわァ」

「アイツとって俺は母親代わりみたいなもんだからな。目ェ光らせてねーとすぐ一人で思い込みやがる。だからよ、桜から目ェ離さないでやってくれよ。ああ見えて案外脆いんだ」

「…分かった。あんたらが見えないときは俺が見る。しゃーから心配せんでええで」

「ああ…悪ィな」

「ほな、また何かあったら連絡するわ。勲サンにも伝えといてやー」

「わかった。…よろしく頼む」

「しゃーから固い言うてんねん。もっと肩の力抜きィ。心配せんでもあんたらの宝モン、俺が守ったるわ」

そう言うと、平子と名乗った男はニヤッと笑った。そして静かにスイッチを切った。

プツッ―――

「あれ?副長、誰と話してたんですか?」

「山崎か。……ただの家で娘とだよ」

「あ!もしかして桜ちゃんですか?いいなぁー俺も話したかった…」

「やめとけ。隠れSの的にされるぞ」

「と言いつつ、顔緩んでますよ副ちょ「山崎ィィィィィィィィィイイイ」俺嘘言ってねーっ!!!!」














『ただいま戻りましたー』

「おーお帰りィ」

ナデナデ…

『………これは何ですか』

「いやァなぁ?桜チャン病んでるんやないかと思てな。慰めや」

『は?やめてくださいよ気色悪い』

「……副長サン、あれ間違いとちゃう?」
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