蜂蜜果蜜

□蜜七滴
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『ただいまでーす……って、誰もいな』

お昼休みから帰ってくると執務室には誰もいなかった。

まだ休憩してんのかな?

そう思った私は、二人がいないうちに部屋の掃除をしようと掃除用具入れ手をかけた。そしてホウキを一本取り出して床をはきはじめようとしたその時、あるものが目に入った。

『ん?何だこれ』

それは殴り書きされた紙切れだった。内容はこう。

“つけろ言われたからつけたで ひよ里”

あの…ひよ里さん。何が何だかさっぱりです。

つけろ言われたからつけた?え、何を?つーか誰に言われた?隊長か?あ、なら私の机にわざわざ置かないか。

『……ま、いっか』

そう言い、私は紙を引き出しにしまった。

あとで聞けば分かることだしね。どーせくだらないことだろうし。それより掃除掃除。隊長いると邪魔してきて滅多にできないからさっさとやっちゃお。

そう思った私は部屋のすみに行きホウキで床をはこうと、ホウキを地面につけたその瞬間、テレビのスイッチが入ったような音がした。

そして反射的に音がしたほうを向くと、大きなテレビ画面に…

「あーっ!!いたァァァア!!桜ちゃあぁあぁぁあぁんんんんんん」

ゴリラがいた。

って、……

『えぇー…』

私はホウキを持ったままその場に立ちすくした。そして泣き叫ぶ近藤さんを静かに…いや、呆れた目で見つめた。

何で近藤さんが………あ!ひよ里が言ってたの、もしかしてコレか?そーいや山じいとこにも似たようなのがあったな。

って…今はそれどころじゃなくて…

「桜ぢゃぁぁぁぁん!!何で連絡くれなかったのオオオオオオ!?お父さん心配で心配でっ…!!」

『誰がお父さんだ誰が』

私はホウキを持ったままテレビ画面に近づいた。

「パパ心配のし過ぎで夜もろくに眠れなかったんだよォォォォ!?だから遅くなるときは連絡寄越しなさいっていったでしょォォがァァァ!!!!」

『呼び方変えればいいって問題じゃねーよ。てゆーか近藤さんうるさいから連絡したくなかったんですよ』

「まっ!まさか反抗期!?だからケータイ着信拒否してたの!?山本さんとこでもテレビ電話出てくれなかったよね!?」

『着信拒否じゃなくて電源切ってるんですよ』

実は結構前に近藤さんたちと連絡がついていたりする。前に松平さんと話したあのテレビ画面で。そして何故かケータイも繋がっちゃってたりする。

『それに近藤さんしつこいんですもん。仕事にならない』

「え!?どこ!!俺のどこがしつこいの!?」

『どこって…』

私は机の引き出し入れておいたケータイを取り出して電源を入れた。そして着信履歴を見せた。

『1日に電話を100件以上入れてくる所がしつこいです。あとメールも』

「だってだってだってぇぇええええ!!!!桜ちゃん全然電話出てくれないんだもーん!!」

『もーん…とか使っても可愛くないですから。つーかうるさい、声でかい、黙れ』

「またそんな口悪くなってえええええ!!!!トシィィィ!桜ちゃんがァァァァァァ!!」

そう言って土方さんを呼ぼうとする近藤さん。

いや、ホントもう黙れ。

画面の向こう側で一生懸命土方さんを呼んでいる近藤さん。だが一向に土方さんは来てくれない。その時、廊下から平子隊長と藍染副隊長の霊圧を感じた。

そして私はもう一度近藤さんをみた。

……隊長たちにコレを見せるわけには…

絶対に会わせるまいと思った私は画面の電源を探した。

ヤバイヤバイ…近づいてきてる…。お、リモコン発見!

「トシィィィィィィうちの娘がァァァ―プツッ―――」

私はリモコンで画面を消した。そして調度二人が執務室に戻ってきた。私はホウキを握り直し平然とした顔をつくった。

「ん?今誰かおらんかったか?」

『いえ、私一人ですよ』

「でも今男の声が…」

『聞き間違いですよ、聞き間違い』

「そうかい?」

私は二人をうまく言いくるめて席につかせた。

あっぶねー。あの二人勘いいからな…。つーか結局近藤さんのせいで掃除できなかった。あんのゴリラが…

私は苛立ちをおさえながらホウキを掃除用具入れに戻した。

「桜チャーン、お茶頼むわァー」

あんた今ご飯いったばっかりでしょ…

そう思いながら私は返事した。そして給湯室へ向かおうと二人へ背を向けたとき、また、あの音がした。

ピッ

ま、まさか…

気づいた頃には遅く、画面にデカデカと近藤さんの顔が映った。

「桜ぢゃぁぁぁぁんんんんんん!何で途中で切っちゃったのオオオオオオ―プツッ――」

私はマッハで画面のスイッチを切った。

「…今何か映らんかったか?」

『さぁ?』

「いやでも確かに声が…」

『そうでしたか?私はなーんにも聞こえませんでしたよ』

「つーかそれ何やねん。確か総隊長サンとこにもあったな」

『ありましたねありましたよ。でもそれは関係ないと思いますよ。ですよね?藍染さん』

「え、いや…そうなのかな…?」

『そうです』

ピッ

「だから何で切るのオオオオオオオオオオオオ!?そんなに俺のこと嫌いィィィ―プツッ――」

『……………』

「…オイ」

『何ですか?』

「今確かに見た『は?何言ってるんですか?隊長目が腐ってんじゃないですか?いい眼科紹介しましょうか?』腐ってないわアホ」

「でも僕も今確かに…」

ピッ

「だがらぁあぁあああ!!なんでぎるのぉぉおおぉおお!?」

ボフッ!!

私はソファーに置いてあったクッションを画面に投げつけて、その衝撃で消した。

「クッション投げんなや…。何や、向こうの人か?」

『違います』

「ほんなら挨拶せんとなァー」

『やめてください。それから違いますから。赤の他人ですから』

プルルルルルル…プルルルルルル…プルルルルルル…

その時ケータイが鳴った。

もう、嫌な予感しかしなかった。

私は恐る恐るケータイのディスプレイを見た。そして、

ガッシャァァァンッ!!

ケータイを床へ投げつけた。

「月ノ瀬君!?」

「お前は一体何をしてんねん…」

『別に何も。至って普通の行動ですよ』

「どこがやねん。お前ンとこの世界では床に物を叩きつけるのがフツーの行動なんか?」

『ええ、それはもう。日常茶飯事ですよ』

「ウソつけ」

『はい、嘘です』

「認めんのはやっ」

だってあんたに隠し事してもすぐにバレるし。変に探られるのイヤだし。

私は床に投げつけたケータイを拾ってボタンをポチポチと押した。どうやらまだ動くみたいだ。でもつけていたキーホルダーは木っ端微塵。再生不可能だった。

あーキーホルダーがー。これ気に入ってたのに。まぁ投げた私が悪いんですけど。

私はケータイを机の上に置いて、平子隊長の方を見た。

『そう言えばお茶でしたね。今やって来ます』

「話そらしたらアカンでー。無視してばっかであちらさん可哀想やんか。めっちゃ泣いとったし。つけるでコレ」

『え、ちょ、やめてください。ほんとマジで』

私はスイッチをつけようとする平子隊長の腕をつかんで止める。

「いーや駄目や。こーゆーことはちゃんとせなアカン。それに俺の言うことは?」

『…カスで「ちゃうやろ」

「絶対やろが絶対」

…あんたはどこぞの赤司様だ。

『そういうの、職務乱用って言うんですよ?』

「そーゆーのは隊長の言うことよー聞くようになってから言い」

そう言って隊長はテレビ画面のスイッチを入れた。

あぁ……うるさくなるぞ。
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