蜂蜜果蜜
□蜜五滴
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ザァーッ
『あー…腹立つ』
屋根の下からのぞく空は灰色で埋め尽くされていて大きな雨粒が上から下へ限りなく降り注がれている。
そんでもって私はずぶ濡れ。
書類を他の隊に届けにいこうと思った私は五番隊舎をあとにしたわけだが、一々空模様を気にするような繊細な心の持ち主でないわけで、
要するに、
雨雲盛りだくさんだったのに傘を持たずに出てきたわけです。
はい、今バカって思ったやつ死刑な。
まぁ…届けたまではいいんだけど…
六番隊、七番隊、十三番隊の順にまわって書類を渡してきたわけだが、最後の十三番隊で浮竹さんと話し込んでしまい、外に出たときには雨がものすごい勢いで降っていたわけだ。
浮竹さんと話すと駄目だな…つい長話になる。プラスおやつまで出してくれるから…それに帰り際に廊下で海燕さんと会ってまた話し込んじゃって。
『でもあの人面白いからなぁ。飽きないんだよね』
目立つこと嫌いなくせにやることなすこと面白いし。何か面倒見いいお兄ちゃんって感じ。どっかのシスコン野郎とちがって。
それから急いで帰らねばと思った私はダッシュで走ったが案の定ずぶ濡れになって、流石にこのまま帰るのは無理だと判断し雨宿りをしてるわけだ。
は?瞬歩はって…あんなやたらと疲れるもん私が使うわけないじゃん。瞬歩っつっても雨降ってりゃ濡れるだろうし。
『はぁ……』
私は塀に背中を預け胸の前で腕を組んだ。
ここは雨乞いでもしてみますか。こんな偉そうな態度でやってもきくか知らんが。そもそも雨乞いのやり方を知らない。一体どうやんだ?
なんか白い紙切れくっつけた棒とか怪しげな動きで振り回せばいいの?
『……アホっぽいからやめとこ』
私は想像した映像を即刻削除した。
そしてそのまま空を見上げるが、やはりやむ気配はない。
どーすんだよオイ。このままじゃ風邪引いちゃうよ。バカは風邪引かないって言うけど、私意外とデリケートなんだからな。環境の変化ですぐ熱とか出しちゃうんだからな。
そもそも雨降るの知ってたんなら教えてくれてもよかったじゃんか。
私が書類を届けようと外へ出たときほとんどの死神が傘やカッパを持っていた。つまり、皆は雨が降るって知ってたわけだ。藍染さんや平子隊長を含め。
隊長はともかく藍染さんまで……腹黒メガネが…
『ん…?でも藍染さん何か言ってたような…』
―――思い出し中―――
『あ、ヤバ。これ今日中に届けなきゃだ。たいちょーちょっと書類届けに行ってきまーす』
「おーう。迷子ならんよー気ィ付けぇ」
『誰が迷子になるか』
「月ノ瀬君。今日は午後から天気が崩れるらしいから―」
『あ、藍染さん。さっき頼まれた書類そこに置いときましたから。それじゃー行ってきまーす』
「あっ!月ノ瀬君!!」
―――思い出しました―――
……………はい、私が悪いですね。腹黒メガネなんて言ってごめんなさい。あなたはとても良い人でしたね。ほんとマジすんません…
どこからか藍染さんが見ているような気がして、私は顔をひきつらせながら組んできた腕を解いてその場にしゃがんだ。
うっわ…なんか半端なく怖いんだけど。普段怒らない藍染さんが怒るとか……本気で怒った土方さんより怖そう。てか絶対怖い。
まぁ私が心の中で言ったことだし分からないよね。それよりすっごい寒いんだけど。
震えはしないが雨に濡れてびしょびしょになった死覇装が肌にぴったりとくっついて、ひんやりとしたイヤーな冷たさが伝わってくる。
帰ったら着替えなきゃな。それから髪も乾かさなきゃ。前髪ぺったんこだ。
『あーもぅ…早くやめー』
つーかこれもうこのまま帰っていいんじゃない?もう濡れてるし、これ以上強くなったら困るし。でも待ってたら弱まるかもだしなぁ。
私は地面にたまっていく水溜まりをボーッと見ながら結局時間が過ぎるのを待った。
もうしゃがむのも疲れた。そろそろヤンキー座りでもしてやろうかと思ったとき、黒い何かが私の視線を阻んだ。上を見上げてみると見慣れてる顔があった。
「何してんねん」
『平子隊長』
私はしゃがんだまま話した。
『雨宿りですけど』
「そら見たら分かるわ。何で傘持ってかなかったんや。惣右介、雨降る言うてたやんけ」
『忘れてました。急いでたし』
「ったく…書類届けてる最中に降ったらどないするつもりやったねん。普段しっかりしてるくせに変なとこ抜けとるな」
『…ごめんなさいーっだ』
「最後のは余計や」
だって、説教されるの嫌だし。怒られたくないし。第一怒鳴られるの嫌いだし。
そう思っていると、平子隊長が私の目の前にしゃがんだ。それから私の頭ををぐしゃぐしゃぐしゃーっと撫でた。
グシャグシャグシャ
『ちょっ…何すんですか』
私の声も聞かず平子隊長は私の頭を少し乱暴に撫でる。そしてそれがピタッととまると隊長は笑みを見せた。
「帰んで」
『…………はーい』
私はしゃがんでいた状態から素直に立ち上がった。そんな私を見ると隊長は、何処からともなく出した一枚の羽織を私に差し出した。
『随分と準備がいいですね』
「桜チャンの隊長サンやからな」
『それ関係ありますか?』
そう言いながら私は羽織を受け取り肩に掛けた。そして隊長が持ってきた傘に一緒に入り五番隊舎へと向かった。
そこで私は疑問に思ったことを聞いてみた。
『わざわざ迎えに来てくれたんですか?』
「そーやでェ。桜チャンの帰り遅いから迎えに来てやったんや。迷子になっとると思たしな」
『何で私イコール迷子何ですか。てゆーか迎えに来たなら何で傘一本なんですか?』
普通は二本でしょ。
そう聞いてみると隊長は当たり前のようにこう答えた。
「荷物かさばるやんけ。それにこっちの方が恋人みたァに見えるしな」
『………………』
サッ
私は静かに傘から抜けた。
「ちょっ…濡れるで?」
『お構い無く』
「歩くのはやっ!何や…気に食わんかったんか?それとも照れ隠しか」
『一生やってろ自己中』
「なァこっち振り向けや!なァ!!また桜チャンのムシムシ攻撃か?あれ結構キツいんやからな」
『パッツンにダメージ2000くらいですかね』
「パッツン言うな言うてるやろ!!待てやコラ!!」
バシャバシャバシャッ
『ちょっ!追いかけてこないでくださいよ。パッツンがうつる』
「しゃーからうつらへん言うてるやんけ!!」
私は隊長に追いかけられながらマッハで五番隊舎まで帰った。二人とも執務室につく頃には息を切らして呼吸もままならなかった。
そしてその様子を見た藍染さんに少し引かれた。
そんな雨の日の出来事。