蜂蜜果蜜
□蜜二滴
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―――平子side―――
一体何やねん。極秘の話て。
今さっき執務室で茶ァー飲んどったら惣右介が入ってきよって、“総隊長が呼んでいます。何でも極秘の話らしく急いで来るようにとのことです”とか何とか言いよって数分前に出てきたところや。
「それにしても何やねん。総隊長サンが俺に対して極秘の話て。つーか何で俺やねん」
俺何もやらかしてへんぞ。なんや…悪いことしてへんのに変に緊張するわ。
そーこー思いを巡らせてるうちに平子は一番隊舎の門の前に着いた。そして息を大きく吸った。
「もしもォ〜し!!五番隊隊長の平子真子ですけどォ〜!!誰か開けてんか〜」
しっかしいつ見てもゴッツイなァ〜。尚更緊張してまうわ。せやから俺ここ来たないねん。
暫くすると門が開いた。その先には総隊長が立っていた。
「よく来た、平子真子」
…総隊長サン直々にお出迎えて…ほんま何事や?俺何も悪いことしてへんで。
「お話って何ですかー?」
「それは中に入ってから話そう。中へ入れ」
平子は総隊長の言う通りおとなしく門をくぐり隊首室へ入って部屋の真ん中で止まった。そして総隊長は静かに口を開いた。
「極秘の話と言うのはじゃな、五番隊である娘を世話してほしいのだ」
「娘ェ?何やそれただの移隊やんけ。それとも…何か訳ありっちゅーことですか?」
「鋭いの…その通りじゃ。その娘は儂の友人から三ヶ月前から預かっとる娘でな。おぬし辺りは気づいておったのではないか?妙な霊圧の気配がすると」
「気付いとったでェ。微弱やけど何やみょーな感じの霊圧やったからなァ」
「やはりか。その娘の名は月ノ瀬桜。桜はここにくるまで儂の友人の元で戦闘部隊の副隊長をしておってな。剣の腕前はそれなり、頭も悪くない、書類整理なども人並み以上じゃ。女だからと言って足手まといになることはない。どうじゃ?頼めぬか?」
「総隊長サンがそないまで言うなら余程すごいんやろな。でも何で俺なんや?他に人手不足の隊はぎょうさんおるやん。そもそもそんな大事な娘やったら自分の手元においときゃええやないですか」
「…三ヶ月間ずっと一番隊舎に缶詰めだったんじゃ。それも限られてる狭い部屋のみ。ずっとここで閉じ込めておくわけにもいかんじゃろ。それにおぬしを選んだ理由はその人柄の良さと広い心の持ち主だから選んだのだ」
「おーおー随分持ち上げるやん」
「冗談ではないぞ。…桜は単純そうに見えて気むずかしい娘。そう簡単に心を許すやつではない。それらをふまえた上でおぬしが一番の適任だと判断したのじゃよ」
総隊長がそう言うと平子は過ごし考えるように黙った。
「…まぁ総隊長サンがそこまでゆーんなら別にええですけど。拒否権なさそうやしなァ」
「そうか、引き受けてくれるか。無理をいってすまない」
「んでその噂の娘は何処におんねん?近くにおるんやろ?」
「おるぞ。今呼ぼう」
そう言うと山本は一つの扉に向かって少し声を張り上げた。
「桜おるか?話があるのだが出てこれるか?」
『誰かさんが押し付けた書類が終わらないから無理』
すると扉の向こうから、台詞のわりには可愛らしい声が聞こえてきた。
ほぉ〜、かわええ声やんか。
平子は早く出てこないか少しウズウズしながら扉を見つめた。
「いいから早よう出てこんか。じゃないと今日のおやつは抜きにするぞ」
山本がそう言うと扉の向こうでガサゴソガサゴソと音がしてゆっくりと扉が開いた。
その瞬間平子は目を見開いた。
『あと少しで終わりなのに…何?』
その理由は三つ。
一つ目は思った以上に可愛かったから。
二つ目は――それと同時にあまりにも幼い少女だったから。
平子は山本の話を聞いて想像をしていたのだ。戦闘に特化している、頭は悪くない、書類整理は人並み以上=背の高いスラッとした冷たい表情の少女、と。でも違った。
「紹介したい男がおってな。ほれ」
『は?紹介したい男?……って、あれ誰?』
何や……かわええやんけ。
そう心の中で思ってる平子をよそにして山本は桜をつれてくる。そして目の前までつれてきて山本が紹介する。
「こやつは五番隊隊長の平子真子。挨拶せい」
『…月ノ瀬桜です』
「始めましてー総隊長サンの紹介の通り五番隊隊長の平子真子や。宜しゅうな」
『はぁ…よろしくです』
かわええ顔してる割に冷たいなァ。すごいギャップやな。
「今日から桜は五番隊で世話になることになる」
『…そーゆー話は先に私に話すもんじゃないの?常識としてさ』
「非常識な小娘に言われとうないわ。よいか?平子隊長が心良くおぬしの面倒を見てくれると言うておるんじゃ。ありがたく思うのだぞ」
『………あのさ』
今まで平子の真っ正面に立っていた桜は隣に立っている山本の方へ体を向けた。
『それ全部話した上での話?違うでしょ。私、隠し事は好きじゃないんだけど』
「…おぬしは変なところで正直じゃな。良かろう、平子真子こちらへ来い」
―――ヒロインside―――
「異世界なァー」
目の前に座る金髪ロン毛は興味無さそうにそう呟く。
つーか…変な口。あれどうなってんの?めっちゃ変。
「ん…?ジーっと見つめてどうしたや?あかんでー?いくら俺がかっこ良くても惚れたらあかんでー」
『冗談よしてくださいよ。そんな有り得ないこと』
「あり得なくないやろ。さては照れ隠しやな?」
『…………』
ウッザ。激しくウッッッッッッザ!!!!何こいつ。何なのこいつ。すげーウザいんだけど。桂よりウザイ。何このキャラは?今までにまわりにいなかったタイプのウザキャラだよコレ。そんな奴の下で働く?はい、ムリー。つーか拒否ー。登校拒否しちゃうぞコノヤロー。
「何や…その冷たい目は。そんな心底嫌そうな顔すんなや」
『…山じい、話戻したら?』
「これ、もっと愛想良くせん『無理』…この小娘は…」
山じいは私のとなりで、はぁっと大きくため息を着いた。
「そういう訳じゃ。帰るにも帰れん状況でな。暫くこちらで預かることになったのだ」
「そんで総隊長サン直々に修業をねェ〜。よく生きとったな桜チャン」
『スパルタにはなれてるんで』
瞳孔野郎とドS野郎のせいでね。
「まぁ異世界やらなんやらの話はおいといて、総隊長サンが言うんやったらそれが正しいんやろ。ええで、引き受けたるわ」
「おお、そうか。それは助かる」
「そんでいつから預かればええんですか?俺はいつからでもええですよ」
「では今日から頼めるか?できるだけ早めの方がいいじゃろ」
「ええですよー」
「それでは桜は前に渡した死覇装に着替えてくるのじゃ。あまり待たせるでないぞ?」
ったく…本当に人使いが荒いんだからこのじーさんは。
『すぐ戻ります』
私はそう言い奥の部屋へ引っ込んだ。
『っだぁー…なんかまた疲れそうだな。…そうだ死覇装…死覇装…』
あったあった。でもこれ動きにくいから嫌いなんだよね。それともうちの隊服が動きやすいだけか。
そんなどうでもいいことをグルグルと考えなから死覇装に着替えた。
久々の着物でやっぱりなれない。ま、しょうがないか。
私は隊服をたたんでから部屋を出た。するとさっきの金髪ロン毛と山じいが場所を移動して立って話していた。
「おお、早かったな」
「様になっとるやんけ」
『それはどーも』
テキトーに答えながら私は二人の目の前まで移動する。すると山じいが懐から何かを出した。
「これを肌に離さずつけておるのじゃ」
『…チョーカー…?』
それは銀の細工が施され真ん中に紅い石が飾られたチョーカーだった。要するに首輪だ、首輪。
「これはおぬしの霊圧を押さえるための道具じゃ。と言ってもただの霊圧を押さえるものではない。おぬしの霊圧は儂らの霊圧とは少しばかり異なる。その違和感を取り除くための道具じゃ。だから霊圧の大きさは変わらん」
ほー…随分と便利な道具があるもんで。
そう思いながら渡されたチョーカーを首にはめた。
何か居心地悪いな…まぁ総悟に首輪つけられるよりマシか。
「よいか。片時もそれを離すなよ」
『そんなに強く言われなくっても分かってるよ』
「準備できたか?ほんなら行くで」
私が首にチョーカーをはめたのを確認すると金髪ロン毛は…なんか癖になりそうだからこの呼び方はやめよ。平子隊長は背を向けた。
「平子真子、くれぐれもよろしく頼むぞ」
「わーっとります〜」
そして平子隊長は私を見てニヤッと笑った。
「桜チャンはオレの初恋の人なんやから」
・・・・・・・は?
「なぁ〜桜チャーン?」
…こんの男は……
私は最強に冷たい目をして平子隊長を見た。
『寝言は寝て言え自意識過剰』
「あっれェ!?思った以上に反応が冷たい!!」
『それじゃあお世話になりましたー』
「分かったで!!それ照れ隠しやろ?何や〜可愛いとこあるや『暇なとき遊び来るからー』被っとる!!」
「ちょっ…待てや!!俺を置いてくな!!」
『隣来ないでくださいよ。パッツンがうつる』
「うつらへんちゅーの!!桜チャンは俺の髪型なんやと思っとるんや!?」
『…?パッツンでしょう?』
「真顔で返された!!あかん…傷付いたわ…俺もう立ちなおれへん…」
クルッ
『それは嬉しいですね』
「ちょい待てや。何で今だけ振り向いたん?そんでえらい笑っとったな」
『嬉しいと思ったら普通笑うじゃないですか』
「そーゆーこと言っとんのとちゃうねん。何で嬉しいと思ったんか聞いとんのや。なァー桜チャン?何で早歩きしとんのやァー?なァ!!桜チャーン!?あかん…思った以上にしんどいわ…」
『そこで永眠しててもいいですよ。それでは失礼しましたー』
「待てや!!お前外出たことないんやから場所分からへんやろが!!アホか!!失礼しましたーっ!!」
…と、こんな具合に訳のわからない言い合いをしながら一番隊舎をあとにした。
山じいのため息は…聞こえなかったことにしよう。それにしても…
「大人の言うこと聞かなあかんでー?迷子になったら探すの俺なんやぞ」
この男とうまくやっていける気がしない。
『ガキ扱いすんのやめてもらえます?腹立つ』
「ガキ扱いて…こんなちっこいのガキやのーて何なんや?」
そう言いながらペチペチと私の頭を叩く平子隊ちょ…いや金髪ロン毛野郎。
「黙っときゃかわええのにもったいないのー」
『黙ってください。でないと頭刈りますよ』
「おー怖い怖い」
『……チッ…』
「舌打ち聞こえてんでー」
……前言撤回。
この男と例えうまくやれたとしても、絶対、したくない。