黒猫。

□黒猫が五匹
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現在桜ちゃんはカラオケボックスにいます。だがカラオケにいるからと言って歌いに来たのではない……そうだ。臨也さん曰く。

ここに来るまでに臨也さんに言われたこと。

@私は自殺志望者の役、ハンドルネームは黒猫
A臨也さんと私は他人のふり、そして奈倉さんと呼ぶこと
Bその場の流れにのること

この三つをくどく言われた。

オイオイオイオイオイ…つい最近知り合ったばっかの小娘にどんな危ないことやらそーとしてんだボケェ。何が“自殺志望者の役やって?”ハイふざけんなー、お前このあとくる奴等と死ね。

臨「隣からくる殺気は何なのかな?」

『さぁ?自分の心に聞いてみたらどうですか?清い心がまだあるのなら、ですけど』

臨「何言ってるの。俺は清い心の持ち主だよ?」

『………臨也さん?』

臨「なに?」

私は臨也さんの目をまっすぐ見つめてニコっと笑った。

『大嫌いです♡』

臨「っ!!……何だろう…とびっきりの笑顔で、しかも♡つきだったのに…凄い可愛いのにっ!……心がボロボロになった…」

『嬉しい!!』

臨「ごめん俺が悪かった…俺が悪かったから。もうこんなこと頼まないから」

『分かってもらえればいいんですよ』

仕返し成功。やるなら早めにやり返さないとね。これ私のモットー。

臨也さんへの仕返しも終わって満足していると扉が開いた。一番前はアイスティーを4つ運んできた店員さん。その後ろに女の人が二人。

どうやら来たみたいだ。

「ごゆっくりどうぞー」

そう言うと店員さんは出ていった。そして残った二人は私の隣に静かに腰を下ろした。そして臨也さんがみんなにアイスティーをくばった。

臨「とりあえず、死ぬ前にしたいことってあるかな?」

彼女たちは同時に首を横にふった。私もとりあえず首を横にふっておいた。

臨「そう…じゃカンパイでもしとこうか。僕達3人の初めての出逢いと、この世界との永遠の別離に。カンパイ」

カチンッ

私達は片手にグラスを持ってカンパイした。そして臨也さんは飲み物に口をつけずにグラスをテーブルにおいた。

臨「ジュリエットさんもブラックベルさん黒猫さんも本当に僕なんかで良かったのかな?心中するならもっといい相手いるんじゃない?」

………今“僕” っつった?言ったよね。あの臨也さんが僕って言ったよね。ヤバ、これ笑っていいかな。いいですかね。つーか多分今私の顔笑いこらえてるスゴイ顔になってると思う。堪えろ、堪えるんだ私。ここで笑ったら怪しまれる。てゆーか変な人になっちゃう。

私は少しうつむいて心の中で笑いと格闘することにした。

「いないから死ぬんです」

黒髪の女の人が答えた。それに続いて茶髪の女の人が頷いた。

臨「そりゃ正論だ。黒猫さんは?」

えーっと…その場の流れに乗ること…だっけか。

『二人と…同じですね』

臨「まぁそうだろうね。だからあの掲示板を使い、このオフ会がある」

…スンマセン、あの掲示板って何スか?そんな危険な掲示板をみてんのかあんたらは。

「ダメなんですよね。こうしてる間にも彼があの女と会ってると思うと…」

なんか語りだしたぞー。

「別れてから3か月もたつのに。アハハ…死んじゃえば全部忘れられるかなぁって」

「私には何も無いんです。美大を出たって働くとこなんて一つも無い。毎回毎回面接の度にお前は存在価値が無いって言われてるようで…」

色恋沙汰と仕事関係ですか…どっちも私には理解できない。

臨「で、黒猫さんは?」

『は?』

あ、…二人の話聞くのに夢中で忘れてた。つーかこの人…絶対楽しんでるよ。

私はちらっと横目で臨也さんをみた。臨也さんは私を見てニコニコ…いや、ニヤニヤしている。

この野郎……

『私はある男の仕事の手伝いをしてハメられまして…そいつは私の弱味を握ってるんでこれから私を利用するつもりみたいで。そんな奴に利用されるくらいならもう死んじゃおうかなぁっと』

臨「…へぇ」

『…顔がひきつってますけど…何か思い当たる節でも?』

臨「いや…特に無いかな」

臨也さんはすぐにいつものポーカーフェイスに戻して私の方へ顔を寄せて小声でこう言った。

臨「ボソ)そう来るとは思わなかったよ」

『ボソ)さっきのあれだけじゃ仕返しが足りないと思ったんで』

そう言うと無言で私から顔を離した。そして黒髪の女の人が口を開いた。

「で、死に方なんですけど。練炭とか流行りましたよね」

「私はみんなで飛んじゃえばいいのかなぁって「それで」

二人はこれからの死に方について話していると臨也さんが口を挟んだ。

臨「三人とも死んだ後はどうするのかな?」

「えっ、それって天国ってこと?奈倉さんはあの世とかって信じてるんですか?」

臨「三人はどう?信じてない?」

「わ…私は信じてます!あの世って言うか幽霊になって彷徨うみたいな」

「私は信じてません。死んだ先は何も無いの。でも汚れたこの世界よりはずっとマシ」

私も二人に続いて“私は”と言おうとした。でもその前に臨也さんの声によって防がれた。

臨「あー大外れ」

臨也さんはそう言うと座っていたソファーに一気に寄りかかった。

「奈倉さん…今なんて?」

「奈倉さん…どうしたんですか?」

臨「駄目だよ。これから自殺する人があの世なんて気にしちゃ」

うわぁ…なんだか分からないけど、臨也さんが本性表し始めたぞ。とりあえず口挟むと面倒なことになりそうだから黙っとこ。

臨「死後の世界を信じることができるのはね、生きている人達に与えられた権利なんだよ。それか死を考えて考えて考えぬいた結論なら俺は何も言わないよ」

あ、一人称が俺に戻った。これもう終わりでいいのかな。

「な…奈倉さん…?」

臨「でも貴女達は違うよね。自分で死を選んでおきながら死後の世界に甘えるなんて許されないことだよ。だと思わない?黒猫ちゃん」

臨也さんが私の名前を呼んだ瞬間二人は睨むように私をみた。

『ここで私に話をふらないでください』

臨「いいじゃん。答えてよ…君は…あの世ってあると思う?」

あの世って言われてもなぁ…考えたことなかったしそんなの分かんないわ。でもまぁ…

『…あったらラッキーですね』

臨「そう、それ。俺はそんな感じの言葉を期待していたんだよ。あったらラッキー、その程度のものだ」

『…あなたと同じ思考回路をしているとは……泣きたくなりますね』

臨「その君の発言に俺は泣きたくなるよ」

『どうぞ心置きなく泣いてください。ただ、いい年した男が泣くなんて気持ち悪いだけですよ』

臨「君に気持ち悪いって思われるならそれもいいかもしれないね」

『出たよ、変人』

「あ…あの…」

私と臨也さんがいつもの調子で話していると茶髪の女の人が口を開いた。

「奈倉さんと黒猫さんは…死ぬつもりあるんですか?」

臨「無いけど」

…即答は流石に酷いよ臨也さん。

臨「桜ももういいよ。こんなことに付き合わせて悪かったね」

ここでネタバラしとか……これ火に油だよ。

ガタガタッ!!

すると二人は勢いよく立ち上がった。

「酷い!!私達のこと騙してたの!?」

「ちょっと…アンタ達それ洒落んなんないよ!」

アンタ達って…私も含まれてるのね。こんな面倒事に巻き込みやがってコンチクショー。もう私は知らない。

臨「あーやっぱりこうなるかー」

「やっぱりって…」

臨「ここで冷静でいられる人間は最初から“同行者”なんて求めていないだろうしね。いるとしたら冷やかしかもしくは…俺と同じ種類の人間。それか桜みたいに無理矢理付き合わされた人間」

『わーちゃんと無理矢理付き合わせたって分かってたんですねー凄い凄い』

臨「…怒らないでよ」

『怒ってるのは私じゃなくてそっちですよ』

私は今にも怒り爆発しそうな二人を指差した。

臨「そのようだね。あー…時間かかりそうだから桜は先に帰ってて。帰り方わかる?」

『分からないですけどまぁなんとかなりますよ』

臨「言うと思った。じゃあ夜にね」

臨也さんは急かすように言うと、私の手のひらに千円札を持たせて背中を押した。

「ちょっ…逃げるつもり!?」

臨「はーい。君たちの相手は俺」

…今度あの人達に会う機会があったら私、殺されそう。もしもそうなったら臨也さん縦にして全力で逃げてやる。

『それじゃー御愁傷様です』

私はそう言いながらドアを閉めた。それから出口を目指して歩いていると、私が出てきた部屋から女の人の怒号が微かに聞こえた。それをきいた私はため息をついた。

何でネット上で知り合った奴なんかの言葉を信じるのかな。あの女の人たちは自業自得だな。騙した臨也さんも臨也さんだけど。まぁどっちもどっちかなぁ。あ、でも…

『やっぱムカつくからビンタの一つでもされて帰ってこないかな』

私はそう言いながらフードを被り、駅のあるであろう方向へ向かって足を進めた。
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