黒猫。

□黒猫が三匹
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『ん………んー?………あれ?』

朝起きたら見慣れない天井が目にはいった。

どこだ……ここ?

私はだるい体をゆっくりと起こしながら部屋をキョロキョロとみた。が、頭がボーッとして、いまいち状況が分からない。

『んあー………起きよ…』

とりあえず起きることにした。掛け布団を軽く畳んでから部屋を出た。

ガチャッ

ドアを開けると、全身真っ黒な服を着てパソコンと向き合っている男がいた。そこで私は昨晩のことを全て思い出した。

『……夢オチがよかったな……』

私はボソッと呟いた。すると臨也さんが不意にくるっと振り向いた。

臨「やあ、おはよう。随分ぐっすり寝てたね。もうお昼だ。やっぱり猫は夜行性だ」

『…だから猫じゃないですって』

臨「俺には十分猫に見えるよ。あと猫耳としっぽがあれば完璧だね」

『猫耳マニア?』

臨「違うよ」

『じゃー変態か変人』

臨「あはは、それは否定しないよ?」

『そこは否定してください』

あぁ……この人にノコノコついてきた昨日の自分に右ストレートをお見舞いしてあげたい。

私がそんなことを思っていると臨也さんが椅子から立ち上がってソファーに座った。

立ちっぱの私を見て臨也はあの笑顔で“座りなよ”と言ってきたので、少し離れた位置に腰を下ろした。

臨「何でそんな遠いの?こっちおいでよ」

『あなたの行動はよめないので、近くにいると危険かと』

臨「俺に言わせてもらえば君の方がよめないんだけどなぁ」

『大丈夫です。別に行動をよんでもらおうとは微塵も思ってませんから』

そう言うと臨也さんは“冷たいなー”と言ったが、“まぁそのことは今は置いといて”と言って少し真面目な顔つきになった。

臨「昨日君は、家に帰れない、帰り方がわからない、気づいたら池袋にいたって言ってたよね?」

『はい、言いましたよ?』

臨「じゃあ要するに、帰り方が分かれば取り合えず家には帰れるってことだ」

『まぁ…そうですね』

臨「だから俺が調べてきてあげるよ」

『…はい?』

調べてきてあげるって…そんな簡単に調べられるもんなのか?…あぁ……そーいえば…

『情報屋って…言ってましたっけ?』

臨「そう。昨日桜が中二っぽいって言った情報屋」

『ああ、今完璧に思い出しました』

臨「中二っぽいって単語で思い出したのかな?」

『あ、そう思ったってことは臨也さんも中二っぽいって思ってたんですか?』

臨「桜は意外と失礼だよね。だからこそ面白いんだけどね」

『褒められてるのか貶されてるのかよく分かりません』

臨「何言ってるの?褒めてるよ」

それはどーだか。

私は信じられないといった目で臨也さんをみた。それをみた臨也さんは面白そうに更に笑みを深めた。

いや、こえーよ。何?その微笑みは。

臨「話が脱線したね」

脱線したのはほとんど貴方のせいじゃ?

臨「桜の家までの帰り道を調べるには桜の情報が欲しいんだ。俺はまだ君の名前と高校生といったことしか分からない。だから君の情報を売って欲しいんだ」

『売るって……例えば?』

臨「そうだね。まずは正確な年齢と住んでいる場所、それから家族構成。通っている学校なんかも言ってくれると調べやすいな」

『あぁ…はい、分かりました』

私は言われたことを頭の中で整理しながら少し臨也の方に体を傾けた。

『年は17歳高校二年生、宮城県の結構田舎の方に住んでます。家族は私と父と母と姉です。けど、姉は2年前に自立して家を出ました。えっと…あと、通っている学校は公立の桜蕾高校です。こんなもんですけど大丈夫ですか?』

臨「十分参考になったよ」

そう言いながら臨也さんは、いつのまにか出したメモ帳とペンでスラスラスラーっとメモをとっていた。

どっから出した、そのペンとメモ帳は。

臨「ポケットから出したんだよ」

『ナチュラルに心読むのやめてください』

臨「じゃあ俺は出掛けてくるよ」

『人の話聞いてください』

臨「ご飯はキッチンにあるのレンジでチンして食べて。それと昨日お風呂入らなかったでしょ?着替え適当に置いといたから勝手にシャワー浴びて」

『もうツッコミませんよ』

臨「一応俺の持ってる服でサイズ小さいの出したけど合わないかも。あ、Yシャツでもいいよ。彼シャツってやつ?」

『溝落ちいっきまーす』

臨「待った、冗談だよ冗談。だからその拳をしまって。流石に痛いと思うから」

『冗談に聞こえる冗談をお願いします。あなたが言うと冗談に聞こえない』

臨「桜をからかうのは楽しいから、ついね」

人で遊ぶなこの変人。

私は呆れてツッコむことすら出来ずにいた。すると臨也さんが“怒ると体によくないよ?カルシウムは大事だよ”と言いながらファーコートを羽織った。

全身真っ黒。黒猫はあんたでしょ。てゆーか悪魔?悪魔でしょ、絶対。

臨「俺は人間だよ」

『もう心読まれても驚きませんよ』

だんだん慣れてきたぞ。いや…なれちゃダメじゃない?もしかして…私、この人のペースにのせられてる?うっわぁ〜…

臨「何露骨に嫌そうな顔してるの?」

『え、…顔に出てました?』

臨「現在進行性でね」

『あららー……』

臨「否定しないんだ」

『あえて言います。臨也さんに対して嫌な顔しました』

臨「そこはあえて言わなくていい」

『私は正直な生き物なんで』

臨「だろうね。俺が近づくたびに嫌な顔してるからね」

…マジか。気づいてなかったわ。私顔に出やすいのかなー。

臨「じゃあ出掛けてくるから大人しくしてるんだよ」

『そこまで心配するほど私は子供じゃないですよ』

臨「拾ってきたばっかで首輪してないから心配なんだ」

『首輪とか…私にそーゆー趣味はないんで』

臨「俺にはあるかもしれ『いってらっしゃーい』

私は危ない発言を言いかけてる変態の背中を押して出ていかせた。ドアを閉める直前に、臨也さんは“行ってくるよ”とあの笑みで言った。

いや…人の家だけど…ここの家の主人だけど……この家で一番偉い人だけど…

『そんなの問答無用。JKにどんな危ない発言をしようとしてるんだって話だ』

私はもう開いていないドアを見つめながら文句を言って軽く舌打ちをした。その後ふわぁっと欠伸をしながら、さっき臨也さんに言われたことを思い出しながら風呂場へ向かった。
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