黒猫。

□黒猫が二匹
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――臨也side――


この日、俺は珍しく人とぶつかった。人混みのなかを歩き慣れている俺が人とぶつかるのなんて滅多にないことだ。

まぁぶつかったとしても、この池袋でまず謝る人はいない。それが当たり前だから。

だからこの日も何も言わずに横を通りすぎるんだろうなぁっと思っていると、

『ごめんなさい』

驚いた。

この街に住んでいて謝りの言葉を言うなんて、珍しいこともあるんだね。

しかもよく見るとぶつかった相手は真っ黒のセーラー服を着て漆黒の髪をした高校生くらいの少女だった。

それに、可愛かった。

俺は人間が好きだ、愛している。皆平等にね。あ、シズちゃんは例外だけど。

まぁ、そんな俺が一瞬だけ見た少女を素直に可愛いと思ってしまった。

今日は珍しいことだらけだ。

そんなことを思っているうちに少女はするりと俺の横を通りすぎていった。

あぁ…声くらいかければ良かったなぁ、失敗した。面白そうな人間に出会えたのに。多分、もう二度と会うことはないだろうね。この人工の多い池袋では。

だけどその考えは違った。

さっきすれ違ったはずの少女が、また俺の横を通りすぎていった。今度は走って。

すると今度は男が俺の横を走って通りすぎていった。

「待てよぉ〜」と、言いながら。

…これは面白くなってきた。

そう思った俺は少女が走って行った方を早歩きで向かった。

暫く歩くと路地裏にあの少女がいた。さっきの男に迫られながら。

少女は無表情に青筋を浮かべながら両手で男の胸板を押し返していた。そして少女はあの綺麗な顔で、

『離れろ、キモい、死ね』

と、冷めきった目でそう言った。そして終いには、

『殺すぞ』

とまで言った。

いやぁ…やっぱり見た目で人を判断するのはよくないね。でもそろそろ見てるのも飽きてきちゃったな。

俺は静かにポケットから携帯を取り出して、カメラモードに切り替えた。

そしてシャッターボタンを押し出た。
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