黒猫。
□黒猫が二匹
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『ゼェハァゼェハァッ…』
何でそんなに息を切らせてるかって?
どっかのナンパ男から全力で逃げてたからだよ。
『あんのナンパ男っ…しつこいんだよ…つーか高校生をナンパするとか…ロリコン?ロリコンなのか?』
まぁ…そんなことどうでもいいや。
私は路地裏の壁にもたれかかってその場に足を抱えてしゃがんだ。
もー…今日はホントどうなってんだ。寝坊するわ電車乗り間違えるわ見知らぬ土地に来るわナンパされるわ……悪夢かっての。
あぁー…帰りたい。暖かい布団で寝たい。てゆーかご飯が食べたい。いい加減お腹減った。お腹減りすぎてお腹痛くなってきた。どーすんだよこのお腹の高鳴り。路地裏に響き渡ってるよ。
いつもならこーゆー時、千春が何か恵んでくれるんだけどな………お母さんの作ったお弁当もないし…
『…あー…帰りたい』
そう言って顔を膝に埋めた。
もー今日はここで夜を明かそうかな。お腹すきずて歩きたくないし、また変なのに絡まれたくないし、つーか動くの面倒だし。面倒なことは明日考えればいいし。
あぁ…こーゆー時この性格は楽だな。焦らなきゃいけないのに何故か冷静、てゆーかマイペース。うん、どうにかなる。だから今日は寝ちゃおう。
私は心のなかで一人決心をしてまぶたを閉じようとした。その時、微かに腕と足の間から入っていた光が閉ざされた。何かと思い顔をあげてみれば…
「可愛子ちゃんまたまたみぃ〜っけ」
………ウザいやつまたまたみぃ〜っけ。……って、言ってる場合じゃない。
私はとことん嫌そうな顔をしてナンパ男を睨み付けた。
『しつこいですよー。早くどっか行ってくださーい』
「ねぇねぇ暇なら俺と遊ぼうよ?」
『言葉のキャッチボールって知ってます?』
「奢ってあげるからさ、いいでしょ?はい決まり〜」
『何一つとして決まってないですよ』
この男、私の言葉に耳を傾けようともしない。聞く素振りさえない。人な話は聞けよ。
はぁ…もー…面倒な奴に絡まれたな。どうやって逃げよ。ぶん殴る?警察呼ぶ?目潰し?それとも股の間に蹴りでも決めてやろうか?
一人頭の中で逃げる手段をグルグルグルグル考えていると、グイッと腕を引っ張られた。
『ちょっ…』
「こんな時間に一人でいるってことは家出かなんかなんだろ?なら俺と遊ぼうよ。大丈夫楽しいとこ連れてってあげるから」
『ノーサンキューですから。だから離してください』
「それともここで…遊ぶ?」
『はっ?』
そう言うと男はジリジリと私に近づいてきた。
ちょっちょっちょーっ……さすがにこれはマズイ状況?いくら私でも焦るよ?
『ちょっ…気持ち悪いから近づくな。つーか触るな変態』
「大丈夫大丈夫」
いや、何が大丈夫なんだよ。こっちは何も大丈夫じゃねーんだよ。
男は離れるどころかますます接近してきていやらしい手つきで触ってきた。その瞬間ぞわぞわぞわ〜っと鳥肌がたった。
『触んなっつってんだろ。離れろ、キモい、死ね』
「あ、興奮した?」
『殺すぞ』
誰がお前相手に興奮するかっての。
そう思っている間にも男の行為はエスカレートしていく。私は力の限り男を押し返すが、やはり女の力では男には勝てない。
マジで股の間蹴ってやろうか、と思ったとき…
――パシャッ
シャッター音が路地裏に響いた。