真撰組物語

□寝る子は育つ
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【寝る子は育つ】

※真選組versionあーんどぅ土方メイン


チクタクチクタクチクタクチクタク

『…………………』

パチ

『眠れねーよ』

布団に潜り込み早二時間。私は一睡も出来ずにいた。

バサッ

『全然眠れねーよ。毛程も眠くねーよ』

四日ぶりの長い睡眠の時間なのに全く眠くねーよ。眠いはずなのに眠れない。眠りたいのに眠れない。眠って眠さを取り除きたいのに眠ることができない私は実際眠れていない。

眠くて眠りたいのに眠ることができない私はどうすればいいのか。

そして私は考えた末、立ち上がりある場所へ向かった。そこは私の隣の隣の部屋。

トントントン

・・・・・・

ドンドンドン

・・・・・・・

ドンドンドンドン

・・・・・・・・・・・・。

ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン

スパーンッ!!!!

「うるせェェェェェ!!」

『どんどんどんどんどん』

「口で言うな口で!!つーかこんな夜遅くになんだ!?嫌がらせか!!」

目をかっぴらきながら殴り倒す勢いで土方さんはツッコミを入れてきた。

『土方さん』

「……何だ?」

『眠れません』

「………そうか。夜更かしも程々にしねーと明日の仕事に差し支えるからな。おやすみ」

そう言って土方さんは襖を閉めた。要するに流された。

私は静かに拳を頭の上へもってきた。そして勢いよく、

ガンッガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンッッッガンッッッドゴドゴドゴッガンッガンガンガンガン!!!!!!

叩き付けた。

すると今度は静かに襖が開いた。そこには目の下に隈ができた土方さんの姿があった。

『……………』

「………何だよ」

『眠れません「それさっき聞いた」眠れま「これ三度目」眠れ「しつけーぞ」くたばれ土方「お前がくたばれ月ノ瀬」死ね「お前何がしてーの?」

『切実に眠りにつきたいです』

「瞬きもしねーで眼球真っ赤にしてる奴の台詞じゃねェよ」

土方さんはそう言いながら大きくため息をついた。そしてそそくさと布団の中へ戻った。

「眠れないなら眠くなるまで寝なきゃいいだろ。俺もお前と同じで久々にゆっくり眠れるんだよ。頼むから静かにしてくれ」

『チッ…わかりましたよーっだ』

「舌打ちは聞こえなかったことにしてやるからさっさと自分の部屋に戻れ」

土方さんはさっさと寝たいのか私を部屋から追い出そうとする。

…そっちがその気なら私にも考えがある。

私はその場に正座をして両の手を合わせた。そして限界まで息を吸い込んだ。

『我建超世願 必至無上道 斯願不満足 誓不成正覚 我於無量劫 不為大施主 普済諸貧苦 誓不成正覚 我至成仏道 名声超十方「やめろぉぉおぉおおおぉおぉおおぉおおおおお!!!!」

ガバッ!!

「オイコラッ…いい加減にしやがれ!!俺何かした?俺桜ちゃんに何かした?いや、してないよね、うん。つーか何かやられてるのは俺の方だよね。間違いなく何かやられたよね」

『眠れません』

「夜中の二時に謎のお経噛まずに唱えてる奴が眠れるわけねェだろーが」

『全然全くまんじりとも眠れませんよー南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥「知らねーよ!!嫌がらせ以外の何者でもねーよ!!」

土方さんは真夜中だと言うのに近所迷惑も考えず“出てけエエエエエ”と言いながら廊下を指差した。

だがこんなことで引き下がる私ではない。

『私が今眠れなきゃ明日の仕事量が倍になるのは土方さんですよ』

そう言うと土方さんは何か諦めたような顔をした。そしてものすっごく嫌そうな顔をしながら口を開いた。

「……どうしてほしいんだよ」

WINNER月ノ瀬桜。

私は目を全開にしたまま顔だけをにょきっと上に向かせた。

『寝かせろよ私を』

「は?」

『お前の持てる力全てで私を眠らせてみろよ』

「勝手に寝ろよ!!それが人にもの頼む態度か!!しかも何どさくさに紛れてタメ口きいてんだよ!!」

『とりあえず布団敷いてください』

「どんだけ自由なんだよお前ぇ!!」

『仕事二倍』

「っクソ………少し待ってろ」

土方さんはそう言いながら押し入れに手を伸ばした。

『四十秒で敷きな』

「朝の五時にラッパで起こしてやろうかコラ」

『なら土方さんはそのまま屋根の上から落ちて鳩のエサにでもなってください。なんなら親方よびましょうか?』

「お前こそ空から地面へ堕ちろ。つーか親方呼べんのかよ」

『超能力でこぉー…ね』

「……早く寝た方がいいな」

そう言って土方さんは布団一式を取り出してドサッとおいた。そして手際よく布団を敷いた。

「おら出来たぞ。さっさと入って寝ろ」

『どうも。でも冷たい布団嫌なんで掛け布団の上に寝転がってしばらく温めててください』

「何なのお前!?」

何なのお前って…ただ睡眠を求めて屯所を徘徊している人間ですけど。

「…もうめんどくせーからそっちの俺の布団で寝りゃいーだろ。俺はこっちので寝るからよ」

『何が悲しくてさっきまであんたが寝ていた布団に寝なくちゃならないんですか、気持ち悪い。泣きますよ』

「泣きてーのはこっちだよクソガキ」

土方さんは私の襟首をつかんで、さっきまで土方さんが寝ていた布団の上にぶん投げた。

ドサッ

「文句言ってねーで大人しく寝ろ」

『…タバコくさ「そのまま簀巻きにして総悟の部屋に捨てっぞ」それは私に死ねと?』

「分かってんなら黙って寝ろ。いいな」

『しゃーねーなぁ』

「何様?」

そう聞いてきた土方さんの問いに私は“大魔王様”と答えた。そしてその瞬間隣から足が飛び出してきて私の横腹にクリティカルヒットした。

くそ…土方くたばれ。あ、だけど…

『なんか寝られる気がする。コレだったらイケる気がする』

「そんまま永眠しちまえ」

『あんたもな』

・・・・・・・・・。

チクタクチクタクチクタクチクタク

・・・・・・・・・・・・・。

パチ

『眠れねーよ』

「結局何がしてーんだよ!!」

『やっぱり全然だめだ。全然眠くならない。枕からタバコの臭いがして全然眠れなくなってきました。つーか枕下になんかマヨネーズあるし』

「オメーが代われっていったんだろーが!!つーかそのマヨは予備だ!!あっ…何勝手に捨てようとしてんだテメッ!!」

『やっぱそっちの布団の方が寝やすそうですね。代われよ』

「キリねーっつーの!!」

土方さんは真夜中だというのにお構いなしに大声をあげる。だが、もう相手にしてくれないようで土方さんはこっちを向かない。

そこで私は少し嫌がらせをしようと思う。

『…なんか全然眠れないからどうやったら眠れるか色々ずっと考えてました。そしたら段々今迄どうやって寝ていたのかわからなくなってきました。寝方を忘れてしまいました。どうやったら眠れますか。どうやったら眠りの中に入っていけますか』

「とりあえず黙れ。そして目をつぶってじっとしてろ。それかその場でくたばれ」

さぁ、私の記憶が残っていることを願おうじゃないか。

『だって土方さんよくよく考えてみてくださいよ。寝るって一体何ですか。結局私達まぶたを閉じているだけで眼球は中でゴロゴロしているんですよ。真っ暗だけど結局それは瞼の裏側見ているだけで眠っている訳じゃないんですよ。こっから眼球どうすれば眠れますか。まっすぐ瞼の裏見てればいいんですか。それとも上の方見てればいいんですか。どうすれば眼球は休んだ状態になりますか。どうすれば―』

「やめろよォォォ!!こっちまで眠れなくなってきただろーが!!」

嫌がらせ大成功。お前も眠れぬ苦しさを味わうが良い。

「どーしてくれんだよ!!意識してたら俺もワケわかんなくなってきただろーが!!上の方だっけ下の方だっけ?眼球の置き場がわかんねェーよ!!」

さぁ更に追い打ちをかけてやろうではないか。

『あと寝る時って息口でするんでしたっけ鼻でするんでしたっけ、口から吸って鼻から出すんだっけ鼻から吸って口からでしたっけ「やめろっ」

『手って組んだ方がいいんでしたっけ横に置いてればいいんだっけ、枕の位置ってどの辺でしたっけ、仰向けでしたっけうつ伏せでしたっけ、人ってどこから生まれてどこに向かっていくんでしたっけ、宇宙のむこう側ってどんなになってるんでしたっけ』

ガバァ!!

「やァーめェーろォォォォォ!!」

はい、追い打ちしゅーりょー。

土方さんは布団からガバッと起き上がった。

「眠れねェェェ!!もう全然眠れる気がしねェ!!眠るのってこんな難しかったかァ!?俺達今までこんな高度な事毎日やってたかァ!?」

『さぁね』

「さぁね…じゃねーだろ!!あんなややこしい事考えて眠れるワケねーだろが!!どんだけ不器用なんだよ!高倉健でももう少しうまい事やるぞオイ!!」

『どんどん頭が冴えていきます。どうしたらいいですか。このままじゃ私一生眠れませんよ。ヤベ』

「勘弁してくれよ…」
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