一直線ッ

□第2話
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【最強の味方】


第二体育館入り口前。

『あ、スガさん』

「お、月ノ瀬」

朝の5時55分、スガさんを発見。

私はスガさんに名前を呼ばれるとトコトコと歩いてった。そして目の前まで来るとスガさんはニヤっと笑った。

「ボールの音するな」

『ですねー。寒いのに朝っぱらからよくやること…』

「眼鏡曇ってるぞ?」

そう言うスガさんの息は白い。四月といっても朝はまだまだ寒い。マフラーと手袋は必須アイテムだ。マフラーに顔を埋めてる私の眼鏡はおかげで曇っている。

「月ノ瀬も一年コンビ気になった?」

『いや…こんな朝早くから様子見に来るほど気になってませんでしたよ…』

「?じゃあ何で…」

『まぁ……察してください』

私がそう言うとスガさんの頭の上にクエスチョンマークが出た。私は寝ぼけた目を擦りながら外靴を脱いで体操靴を取り出した。

その様子を見たスガさんはさっきの私の言葉を不思議そうに思いながらも、切り替えて体育館の入り口を開けた。

「おー!やっぱ早朝練かあ」

『うわっ…半袖…』

私はスガさんに続いて体育館の中をのぞいた。すると私達の登場に驚いてビクっと振り向いた三人。

「おース」

「!?スガさん!?なんで…!」

誰にもバレてないとたかをくくっていたのか、龍はかなり驚いていた。スガさんと私は体操靴を履くと三人のもとへ向かった。

「だってお前昨日明らかにヘンだったじゃん。いつも遅刻ギリギリのくせに鍵の管理申し出ちゃったりしてさァ」

「えっ…!?あっ…!くっ……!」

「大丈夫大丈夫、大地には言わない!なーんか秘密特訓みたいでワクワクすんねー」

そう言ったスガさんは、言葉の通りワクワクしていた。だが私は違った。

『りゅーうーくーんっ』

「お!桜!!お前来んのおせェよ!」

………へぇ。

私はゆっくりとカバンを床へ置くと、近くに転がっていたバレーボールを手に取った。そして思いっきり腕をあげた。

バンッ

「うおっ!あっぶねェ!!」

『朝の四時半に電話かけてきてオマケにバカデカイ声で伝言残してったくせに……来るの遅かっただァ?』

「あのっ……それは!それはっ…だなァ…その………すっ!…スンマセ『冗談はその頭だけにしろ!!』

ドゴッ!!

「でっ!!」

私のボールが龍のオデコに直撃すると龍は綺麗に後ろに倒れた。そしてボールは弧を描いて私の元へ戻ってきた。

「なっ…ナイスサーブ…」

『あざーっス』

私は勝利のVサインをスガさんに見せた。すると日向が龍の元へ駆け寄った。

「たっ……田中さんが死んだぁぁあぁああ」

「死んでねーよっ!!」

「ぎゃっ生き返ったァァァァ」

「だから死んでねーっての!!!」

『チッ…生きてたか…』

「桜!?」

私は皮肉を込めて舌打ちをした。するとスガさんが後ろから私の頭をガシッとつかんだ。

「コラ!そんな可愛い顔して舌打ちすんなって。田中も、朝の四時半に電話なんかすんなよー。迷惑だろ?」

「すっ…スンマセンした…」

『次やったらあそこに還してあげるよ。土に』

「ヒッ…!!」

「だから怖ェーよ月ノ瀬!!ホラ!一年もビックリしてんだろ!?」

そう言うスガさんの目の先には、ビクビクながら私を見ている一年コンビがいた。日向の方はビクビクを通り越してガタブルいっている。

『………………』

どうやら私は後輩をビビらせてしまったらしい。さて…どうするか……

私を見たまま固まっている二人にどう声をかけるか悩んだ。すると日向の方が私を指差して口を大きく開いた。

「び!びびびび美少女だぁぁあぁあ!!」

『……………』

なんだ、イキナリこいつは。

日向は目をかっぴらいてキラキラさせながら大声をあげる。そして今度は私が固まった。

ボケーっと口を開けて私を見ている日向。するとその横にいた影山が慌てたように日向の頭を殴り、後ろを向いて小声で何かを話していた。

そして話終わったかと思うと…

バッ

「「すみませんでしたっ!!」」

『……おぉ…何だ何だ』

一年コンビは同時に頭を下げた。もう腰が90度だ。

「おれっ…せ、先輩って…知らなかったから……たっ…タメグ…タメ口!きいちゃって……ご!ごめんなさい!!」

「あと…昨日の練習後……その、ビビらせたみたいで……すみません、した…」

「ホントごめんなさいごめんなさい!!ごめんなさい美少女さんっ!!だっ…だから主将にだけはっ…」

切羽詰まってるのかただ単にビビってるのか、よく分からない感じだ。私はそんな二人に向かってこう言った。

『美少女さんじゃなくて月ノ瀬桜。二年マネージャー』

「……へ?」

『別にタメ口でもいいし、昨日のことは龍に八つ当たりしたからもういいよ』

「えぇ!?いいの!?これいいのかな影山!?」

「………あざっス」

「えぇーっ!?」

素直にお礼を言う影山と、ひとしきり驚いたあとに噛み噛みでお礼を言う日向。すると横からうるさいのがやって来た。

「あれ八つ当たりだったのか!?」

『気付いてなかったのか。怒った?』

「いや!むしろウェルカム!!!」

『気持ち悪い』

「グハァッ…」

龍は壁にてをついてTシャツの胸の辺りをつかんだ。

「たっ…田中さんより強い!!!」

「いつものことだからほっといていいよ……それよりもホレ!お前らも自己紹介!!」

明らかに落ち込む龍をスルーするとスガさんは日向と影山の背中を叩いた。

「はっハイッ!!1年1組日向翔陽!…あっ!!です!!」

「1年3組影山飛雄…ポジションセッターっス…」

『はい、よろしく』

私は二人に向かって両手を差し出した。つまり握手だ。二人は一瞬驚いた顔をしたがおずおずと手を出した。

だが、

ベシバシッ!!

「「いっ…てぇ!!」」

「オメェら出会って次の日に桜と握手とかナメてんのかコルァァァ!?百年はえーんだよ!!!」

さっきまでしょげていた龍がいつの間にか復活していて二人の手を叩き落としていた。そんな龍を見てスガさんと私は、

「鬱陶しいぞー田中」

『黙れハゲ』

「うっ…!!」

「時間なくなるから練習すんぞー。月ノ瀬ボール出し頼むな」

『はーい』













ただいまの時間、約7時15分前。

「ラッシャアアアイ!!!」

ドガッ

「おーし絶好調〜っ」

相変わらずの馬鹿力でスパイクをきめる龍。そんな様子をよそ見をしていた日向はボールが頭に当たった。

ボコッ

「〜〜っ」

「日向よそ見すんな!」

見事なよそ見……

日向は何かソワソワしていてスガさんとのパス練に集中できていなかった。そんな日向は我慢の限界だと言わんばかりに影山に駆け寄った。

「おれもスパイク打ちたい!おれにもトス上げてくれよ!」

「………………」

「お前トス大好きなんだろ!!?じゃあおれにも上げてくれよ!一本だけ!試しに一本!なっ?」

「……………………嫌だ」

……えぇー。

影山は日向の必死のアピールを無惨に切り捨てた。

「なんだよ!?ケチか!!」

「そーだそーだ」

「レシーブあってのトスと攻撃だ。それがグズグズのくせに偉そうに言うな。土曜の3対3でもトスは極力田中さんに集める。攻撃は田中さんに任せてお前は足を引っぱらない努力をしろよ」

影山は頑として日向にはトスは上げない。そう堂々と言った。それを聞いた日向は悔しそうに下を向いて両手を力強く握った。

「…………お…おれが満足にレシーブできる様になったらお前はおれにもトス、上げんのか」

「……“勝ち”に必要な奴になら誰にだってトスは上げる。試合中止むを得ずお前に上げることもあるかもな。でも今のお前が、“勝ち”に必要だとは思わない」

「――――!」

「…それにレシーブはそんな簡単に上達するモンじゃねーよ」

そう言うと影山は悔しそうにする日向を上から見た。そんな様子を見て龍は持っていたバレーボールをメリメリと鳴らした。

「感じ悪っっ」

「チョイチョイっとあげてやりゃあいいのに」

なんか拘りでもあんのかね……

『そろそろ時間だから片付けましょうか』
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