一直線ッ
□第1話
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【単細胞生物】
第二体育館へ続く道。
ほぼ毎日通る道、私はいつも通りに歩いていた。そう、いつも通りに。何も特別なことはなかった。
なのに…
バンッ!!
『……………』
目の前で扉を閉められた。
……何事。
あと体育館の入り口まで数メートルといったところで扉を閉められた。そして閉められる直前に私の眼鏡のレンズ越しに見えたのは、激怒顔の主将の姿。
そしてその原因を作ったであろうジャージ姿の男の子が二人、私の前にいる。
「う…うわぁぁ!?どっ、なっ…“仲間の自覚”って何!?どうやんの!?」
「知るかっ」
「〜っ、いっ入れて下さいっ。バレーやらして下さいっ。おれ影山ともちゃんとな…仲良くっ…なかよくしますからぁあぁあぁ」
……よく分かんないけど…ここで一番敵にまわしてはいけない人を怒らせたのかな…
一体何を仕出かしたかは分からないが、オレンジ頭の男の子は必死に扉にへばりついている。
と、思っていたが。黒髪のデカイ男の子の方がオレンジ頭の子のことをドンッと突き飛ばした。
「おい、ちょっとどけ!!」
「あたっ…何すんだよっ、今おれが話して「主将!!すみませんでした!!部活に参「おれが先にはなし「うるせぇっ」
「コイツともちゃんと協力します!部活に参加させて下さい!!」
台詞被りすぎてて何言ってるか分かんな。
二人は私の存在に全く気づくことなく、扉に向かって大声をあげ続ける。でも…
……ちょっと邪魔だな。
私は少し大きめの声を出した。
『あのー』
「「っ!!」」
『そこ通して』
「「…………」」
『…………………』
……え、無視?
私が声をかけた途端、二人同時にこっちを見た。だが私の問い掛けには無言。
…かと思いきや、二人は突進してくるかの如く私へ近づいてきた。
「お前ここに用事あんのかっ!?」
『は?』
「おっお願い!!一緒に入らせて!!開けてくれるだけでいいからっ!ね!?ねっ!?」
『え、ちょっ…』
私は追い込まれるように体育館の入り口に背をついた。
な…何だコイツら…
私の肩をガシッと掴み血相を変えながら訴えてくる二人。私がそれに対し何もできずにいると、後ろの扉が開いた。
そして振り向いてみると…
『うわ……』
「本音は?」
扉を閉めた張本人、大地さんがいた。突然の大地さんの登場+あの無表情の顔にビビった黒髪のデカイ子はビクッとした。
そして大地さんの沈黙攻撃に耐えられなくなったその子は悔しそうに口を開いた。
「〜っ……試合で…今のコイツと協力するくらいならレシーブもトスもスパイクも全部俺一人でやれればいいのにって思っています」
…何だその発想。自己中か。
「何言ってんのオマエェ!?」
「はっはっはっ!!何で本当に言っちゃうんだよ本音を!良いと思うよそういうの!」
「――…」
大地さんの言葉にまた悔しそうにする彼。そんな彼を見ながら楽しそうな表情で言葉を繋げる大地さん。
「でもさ。ボールを落としてはダメ、一人が続けて二度触るのもダメ…っていうバレーボールで、どうやって一人で戦うの?」
そう言うと大地さんはにこっと笑った。そして思い出したように私の両肩に手を置いた。
「それから、ウチの大事なマネージャーたらし込まないように」
「えっ…マネージャー…?…エェ!?」
「マネ……っ先輩!?」
大地さんのマネージャー発言に驚く二人。そんな二人を見て見ぬふりして私を体育館の中へ入れた。そして、
ピシャーン!
再び扉を閉めた。
何があったのか、何が起こったのかチンプンカンプンな状態な私。とりあえず外靴を脱いだ。そして説明を求めるように大地さんを見た。
『おはようございます』
「あぁおはよう月ノ瀬。悪かったな部活来て早々」
そう言うと大地さんは苦笑いをした。すると、私が来た事に気付いた龍とスガさんがこちらへ寄ってきた。
「おース月ノ瀬。随分来るの遅かったなー」
『おはようございますスガさん。なんか体育館入ろうとしたら…目の前で扉が閉まりました』
「あー……大地のせいだな」
「それは悪かったって…すまん月ノ瀬」
『いや、別にそれはいーんですけど…』
私が知りたいのはあの二人。
私が知りたいのは言葉をつまらせていると、龍が扉の向こうを指差しながら笑いだした。
「桜!アイツら見たか?」
アイツら…?あぁ…
『人の通行を邪魔して何か喚いてた謎の生物二匹?』
「謎の生物って…」
「しかも単位人じゃねェ!!」
龍はゲラゲラと楽しそうに笑う。そしてスガさんは苦い顔をしながら軽く笑った。そして大地さんも苦笑いをしながら口を開いた。
「北川第一のセッターとすんごいバネ持った奴、去年田中から話聞いただろ?それがあの二人だ」
『あぁ…一試合目のですか?』
去年、大地さんとスガさんと龍の三人は中学生のバレーの大会を見に行っていた。その大会から帰ってきた龍から聞いた話だが、北川第一と初っぱなから当たった子達は大差で負けたそうだ。だが、その大差で負けた子達の中にいた小さな男の子がスゴイのだと、王様の話と同時に聞いていた。
まぁ…その二人が烏野に来たのはスゴイのだろうけど…
『一体何やらかしたんですか?』
初日から大地さん怒らせて体育館から追い出されるとか……一体どんな酷いことをしたらそうなるんだ。
そう思っていると、大地さんとスガさんは顔がピタッと固まった。それを見かねてか、龍が小声で教えてくれた。
「それがよォ…」
『…………………え、』
いい終えると龍は思い出し笑いをし、プククッ…と肩を震わせた。そして私はというと、ニヤついていた。
『教頭のヅラを吹っ飛ばした……何それ最高じゃん。私も見たかった』
「こォヅラが舞い上がってふさ〜っと大地さんの頭に着地してよ!!」
『スゴ。うん、あの二人気に入った』
「月ノ瀬口角あがってる!!田中もその話忘れろって!!」
スガさんが慌てて私達を止めるが、龍は笑いっぱなし。
そんな面白い場面を見逃したとは…あーあ見たかったな。教頭のヅラ空へ事件。