蜂蜜果蜜

□蜜三滴
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「なァ」

『…………』

「えー加減無視すんのやめろや」

『…………』

「桜チャーン?」

『…チッ…何ですか?パッツン隊長』

「俺そないな名前ちゃうけど」

あからさまに嫌な顔をしている私に的確にツッコんでくるパッツン。

『大丈夫、とても似合っていますよ』

「そーゆー問題ちゃうねん」

『そーゆー問題やねん。あ、もう…口調うつっちゃったじゃないですか…』

「別にええやんか。似合うとるで」

『嬉しくない』

お気付きでしょうか。私は普段上司に対しては敬語なんです。まぁ一部を除いては。でも大体敬語です。どんな嫌な奴でも副流煙をぶちまけていてもゴリラでも、敬語です。その私がこの短時間に吐いたタメ口と暴言の数々。

皆さんに伝わるでしょうか?

私はこの男が、

「誉めてんのに素直じゃないやっちゃなァー」

心の底から、ホントマジ底辺から、大嫌いです。

こんな奴と四六時中一緒に仕事?私にストレスの溜めすぎで死ねと?胃にでも穴を開けろと?

しかも何でこの人パッツンなの?しかも金髪って。オシャレか。オシャレのつもりなのか。それとも何か?お前は平安時代のお貴族様か何かか?わらわは〜…とか何とか言っちゃうかんじか?え?コラ。それにその口はなんだよ。気持ち悪いくらい歯並びいいなオイ。何処の歯科医にお世話になってるんですぁ〜?つーか顔平べったいし。あ、だから平子なのか?平たい子だから平子なのか?てか全体的に平べったいよね。ひょろい。風吹いたらどっか飛んでいきそう。

ドンッ

『わぷっ!!』

「…何しとんのや?ついたで」

…己が急に止まったせいだろうが…

私は急停止した平子隊長の背中に顔面を思いっきりぶつけた。プラス、その時触れた髪がめっちゃサラサラしててムカついた。

まぁ…半分は私が心の中で平子隊長を貶してたせいでもあるが。

『……バチ当たったかな…』

「ん?何か言うたか?」

『いや、別に何も…』

とりあえず…この人への悪口はおいといて。夜お風呂に入る時にでも思いっきり愚痴ろう。

「そんなら入るで」

『え、嫌です』

「オイコラ、そこは普通“はい”やろが。どこまで俺の言うこと聞きたないねん」

『どこまでもです』

「はぁ…桜チャンはいつになったら懐いてくれんのかのォ」

『そんな予定は一切無いので安心してください』

「そらァあかんでぇー。これから五番隊で働いてもらうんやから隊長の俺にある程度懐いてもらわんと『嫌だっ!!!!!!』どこまで嫌やねん!!!!」

だから心の底から嫌なんだよ!!!!こんなに態度に示してんのに何故伝わらない!?バカなの!?お前見た目以上にバカなの!?

「つーかこの距離感何や!!二メートルは離れとるぞ!!」

『ホントはもっと離れたい!!!!』

「やめろや!!流石に傷つくぞ!!」

『やった!!』

「満面の笑みで何てこと言うてんねん!!!!」

『何ならもっと笑ってやりましょーか?』

「それからの真顔やめろや!!」

『ちょっ…だから近づかないでくださいってば』

「少しも触れたらあかんのか!?」

『あかんのです』

「即答かいな」

私の方へ近づこうとする平子隊長を必死に拒否る私。すると執務室の襖が開いた。そして一人の男が出てきた。

「何を騒いでいるんですか?」

「惣右介」

眼鏡をかけたイケメンさんだった。

「隊長、随分遅かった……その人は?」

「調度ええところに来たな。説明するから中に入りィ」

『では私はこれで』

ガシッ

「桜チャンもや」

くるっと回り平子隊長たちに背を向けたが呆気なく平子隊長に掴まった。

だから…触んなって。














「まァそーゆー事情やからよろしゅー頼むわ」

一通りの説明を終えた平子隊長。惣右介と呼ばれた男は、驚いた顔をしつつも途中途中頷きながら最後には納得したような顔だった。

副官章つけてるってことは副隊長さんかな?これまた平子隊長と合わなそうなタイプだな。

「そうでしたか…わかりました。それで彼女の五番隊での位は…」

「そやなァ〜」

『平隊員で』

「総隊長サン曰くそこそこやるみたいやしなァ〜」

『平隊員で』

「デスクワークも得意言うてたしなァ〜」

『平隊員で』

「ホンマどうしたもんかなァ〜『平隊員で』

「…隊長…彼女の意見もくんであげませんと…」

『平隊員で』

「それに、実力があればいつでも上にあがってこれま『平隊員で』…隊長」

「どんだけ平隊員がええねん。まぁ…ええか。下手に目立つのも賢い選択やなさそうやしなァ」

『ありがとうございます』

ふぅ…なんとか平隊員におさまった。こんなとこまで来てんな高い地位なんかいるかっての、面倒くさい。そこまで働きたくないわ。

「嬉しそうな顔しくさって…。しばらくは惣右介に仕事教えてもらいィ。そういや紹介まだやったな」

そう言うと、思い出したように眼鏡さんが立ち上がった。続いて私も立ち上がった。

「五番隊副隊長、藍染惣右介。よろしく」

『月ノ瀬桜です。これからお世話になります』

そう言い軽く頭を下げて握手をした。

ん…?何か今変な感じが…

「何や、俺ン時と全然態度ちゃうやんけ」

『はい?別に同じですけど』

「無自覚かいな…」

「ところで気になっていたんですけど…月ノ瀬君はいくつなんだい?」

いくつって…どんだけ子ども扱いされてんだ私は。

『17ですけど…』

「若っ」

「随分若いんだね。じゃあ剣を持ってまだ間もないのかな?」

『二年間たつかたたないくらいだと思いますけど……そこら辺ツッコまないでください…ホントややこしいんで…』

つーかサザエさん方式なんで…

「そ、そうみたいだね…。…隊長、そろそろ仕事に戻りませんと…」

「めんどくさ。もうちょいゆっくりお喋りしようやないの。なァ桜チャン?」

そう言って立ちっぱなしの私に向けて、自分が座っているソファーの隣をポンポンと叩いた。

『……あれどう思います?人として』

「いい加減真面目に仕事してほしいね」

「オーイ。二人して俺をいじめる気かァー」

『藍染さん、私は何をすればいいですか?あ、副隊長ってつけた方がいいんですかね』

「僕はどちらでも構わないよ。でも副隊長が無い方が気軽に呼べるかな?君さえよければ惣右介でもいいよ」

「ちょっと待てや。なーに名前で呼ばそうとしとんのや惣右介」

『いや、流石に上司を下の名前で呼ぶわけにはいかないので藍染さんで』

「やーいフラれてやんのォ〜」

そう言い舌をべーっと出した。その時、私と藍染さんは同時にこう思った。

((……餓鬼か))
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