真撰組物語
□寝る子は育つ
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「もう夜中の二時半だぞ。明日は七時起きだ」
『どーしてくれんだよ土方ァ』
「こっちの台詞だ迷惑小娘。もう四時間半しか眠れねーじゃねーかよ。これじゃあいつもと変わんねェよくそっ…」
『ならどうすればいいんですか。あ、先に寝ないでくださいよ土方さん』
「とりあえずそのゴチャゴチャもの考えるのをやめろ。無駄に頭を使うな」
そう言うと天井を向いていた土方さんは壁の方を向いた。
「そもそも睡眠なんて意識してとるもんじゃねーだろ。人間規則正しく生活してりゃ夜には自然に眠れるもんだ。俺とオメーはこの頃部屋に混もって書類仕事ばっかしてっから眠れねーんだよ。体動かしてねーから眠れねーんだよ」
『確かに最近書類仕事ばっかでしたね。刀なんてしばらく触れてねーですよ』
「そうだろ。お前がおかしいのは眠り方じゃなくてその前の生活なんだよ」
『いや、あんたもほぼ同じだろ』
「俺は何年も続けてっから慣れてんだよ。わかったらさっさと町内ぐるっと走ってこい。お前にたんねーのは適度な疲れだ」
あ、やっぱこーゆー流れになんのね。でも土方さんが言ってると何気に納得できる。
そう思った私はたばこ臭い布団から抜け出した。
『少し行ってきます。絶対先に寝たらダメですよ。寝てたらバズーカで起こしますからね』
「嫌がらせにもほどがあんだろ」
―――三十分後―――
ウトウト…
「…………」
『土方さん…土方さんってば』
「…………あ゛?」
『ハァハァ…ぜっ…全然眠れませんゼーヒューハーフューフーヒー…ゲホゴホッ!!』
「………何してんの?」
『走ってハヒー来たのはハフューいいんですけどゼヒー今度はフヒュー熱くてズハー眠れなっガハッ!!ゴホッ!!』
「誰がそんな虫の息になるまで走ってこいって言った!!眠れるワケねーだろ!んなベッタベタな身体で!!」
私は顔を真っ赤にし汗だくになって帰ってきた。呼吸をするだけでなんか変な音がなる。
つーかこんなになったの私のせいじゃないし。
『外に出たら神楽ちゃんに合って半強制で一緒にランニングさせられました。町内五十周。んで屯所に戻ってきたら総悟の部屋の前で…』
「眠れねーよ土方コノヤロー」
『……これを見てしまって一緒に稽古してきました』
「なんか増えてんだけどォォォ!?」
いつの間にか川の字になって寝転がっていた私達。私の右に土方さん、左に総悟、この状態になっていた。
「桜がムキになってやるから俺の全ての細胞が活性化しちゃったじゃねーかよ。どう責任とってくれんでィ」
『私だってお前が叩いて被ってジャンケンポンのアレ出してきたせいで全ての細胞が活性化しているのを感じているよ』
「感じてるじゃねーよ。オメーらの脳細胞は著く死滅してってんだろーが。つーかどんな稽古してんだ」
「『叩いて被ってジャンケンポン』」
「どんなエキサイティングな叩いて被ってジャンケンポンしたらそんな汗だくになったんだよ。どんだけガチでやったのお前ら?」
そりゃあガチよ。ジャンケンだろーがあっちむいてほいだろーが総悟に負けんのだけはごめんだ。まぁ最終的に殴り合いになったが。
「散々身体動かして急に眠れるワケねーだろ。一旦風呂でも入って汗流してサッパリしてこい。俺の布団もベタベタになんだろーが」
『嫌だ。私はそんなことしている暇ないです。一刻も早く眠りたいんです。さっきからそー言ってんだろカス』
「命令すんじゃねーよ土方ァ」
「人の部屋に押し掛けといてその態度はなんだお前ら!!」
土方さんがそう言った瞬間、私と総悟は布団を頭から被った。そして周りの音をシャットダウン。
……したつもりだった。
グ〜
「『………………』」
「……どんだけ忙しい奴等なんだよ。眠りたいっつったあとは腹へったか?」
「腹の音じゃねーですよ。心の中で土方さんをぶっ殺してる音でさァ」
『あ、なら私は土方さんの瞳孔を焼いている音です』
グ〜グルルグ〜
「結局俺がひでー目にあってる音じゃねーかよ。つーかどんだけ鳴ってんだよ腹」
部屋の中に鳴り響く二つの腹の音。それにたえられなくなった土方さんは起き上がった。
「うるさくて寝られやしねェ…わかった。俺が飯炊いといてやるからその間にお前ら風呂はいってこい」
「珍しィ。土方さんが優しいなんてこりゃあ嵐でもきやすかね」
『天気予報確認しとく?』
「素直にさっさと風呂入ってこいやアアアアアア!!!!」
―――更に一時間半後―――
「…………」
『…………』
「オウ上がったか。そんならさっさと飯くって寝ろ」
「…飯なんてもの見えねーんですけど、桜は見えるか?」
『いや、私も見えないね。他の物体なら見えるけど……土方さんコレ何ですか?』
私は目の前に置いてある物体を指差した。すると土方さんはタバコに火をつけながら当たり前のようにこう言った。
「あん?オメーも見たことあんだろ。土方茶漬けスペシャル」
「『ふんっ!!』」
ガッシャァァァン!!!!
「おわァァァ!!」
私と総悟は同時に土方さんの顔面に犬のエサを投げ付けた。そしてナイスヒット。
「何しやがんだっ!!せっかく俺が準備した土方茶漬けスペシャルが『ただの犬のエサだろーがよ』んだとコラァァ!!」
「土方さん、こんな状況でその冗談は流石にキツいですぜ。俺達に腹でも下して死ねって言いたいんですかィ?」
『酷いなー土方さんアハハ。殺しますよ?』
「飯準備してやったのにこの仕打ちはなんだ!!テメーら恩を仇で返しやがって!!」
『恩を売られた覚えはねーよ』
「嫌がらせされた覚えしかねーよ」
結局何も食べれなかった私達は布団の中へ戻った。そして顔面についたマヨを拭き終わった土方さんも、ぶつくさ言いながら布団の中へ戻った。
腹減りすぎて余計に眠れそうにない。何かで気を紛らわさなければ。
そう思った私は総悟の方を向いた。すると総悟も同じことを考えていたようで軽く頷いた。そしてお互い息を少し深く吸って“せーの”と言った。
「『土方の死体がいったーい』」
「嫌がらせされてんのはこっちだろォォォ!!」
ガバッ
そう言うと土方さんは布団から起き上がった。だが、ここで止まる私たちではない。
「『土方のバカのくそったれのアンチキショーのボケのアレな死体がにーたい』」
「オイィィィどんだけ息揃ってんだお前ら!!つーかアレってなに?アレなに?」
「『残念な土方の死体がさーんたい』」
「残念ってなんだァァァァ!!」
土方さんは刀を出さん勢いで大声をあげた。最早近所迷惑お構いなしだ。
「オイ!もう少し常識のあるものを数えろ!!寝る前にんなもん数えられたら気分わりーわ!!」
「俺らは最高に気分いいですぜ。あ、これ眠れる気がする。きっと寝れる」
「そのまま永遠と眠り続けろクソガキ!!」
『でもこのまま数えたら土方さんの夢見そうで嫌だ。別の数えようよ。ほら、アレでいいじゃん。この前やったやつ』
「なんだよ、この前やったやつって。お前らこんなことしょっちゅうやってるの?」
「仕方ねーなぁ。んじゃーせーのでやるぞ」
「ねぇ、何無視してるの?ねぇ?」
『オッケー。じゃあ…』
「話を聞けェェェェ!!」
“せーのっ!!”
「『クタバレ土方』」
「それただストレートに死ねっつってるだけだろうがアアアアアアアア」
ボフバフッ!!!!
『ぶっ!!』
「がっ!!」
突如、顔面に軽い痛みが走った。顔を押さえて起き上がってみると、土方さんが枕を右手に青筋を浮かべていた。
つまり、枕で殴られた。
ここで考えてみようチビッ子の諸君。
眠れないと土方さんの部屋に無理矢理押し掛けてきたのは私と総悟だ。そしてこの短時間に土方さんに数多くの迷惑をかけてきた。土方さんが枕で私たちの顔面を殴るのも分からなくはない。いや、これは普通の人の反応だろう。
だが問題がひとつ。
私たちは普通じゃない。
「何しやがんだ土方ァァァァア」
『何様のつもりだコルァァア』
バフッボフッ!!
「ぶっ!!!!」
迷惑かけたがなんだ。やられたらやり返す。これ、真選組のモットー。
「二対一か……相手になってらやァ!!二人まとめて切腹だァァァァ!!」
「やれるもんならやってみやがれ土方コノヤロー!!」
『屯所の枕がどれだけ人様の役に立つか教えてやるよ!!』
「『「上等だ!!」』」
「あ、副長、沖田隊長、桜ちゃんおはよーございま…っどうしたんですか三人とも!?ボロボロじゃないですか!つーか目の下くろっ!!」
『………げ…した……』
「え?何したって?」
「「『枕投げ…した…』」」
「……そんなになるまで何やってんのアンタら?」