蜂蜜果蜜

□蜜二十一滴
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あれから平子隊長と藍染さんは三十分たらずで戻ってきた。

『どんな人でしたか?』

「何や、えらいユルそうなんが入ってきよったで。二番隊から移動してきたみたいやけど」

『隠密機動からですか。今頃ひよ里、ぶつくさ文句言ってんでしょうね』

「そーやろーな」

そう言いながら面倒くさそうな顔をする平子隊長。

ひよ里はなぁ……素直で裏表ないからこそ気難しいからな。曳舟隊長がいなくなってからピリピリしてたし…ズバズバ物言うからな…今頃不満の大爆発だろーね。頑張れや、新十二番隊隊長さん。

私は顔も分からない人を心の中で応援しながら、まとめた書類を手に持った。

『書類届けてきます』

「ちょい待て。もしかして十二番隊に届ける書類あるんとちゃうか?」

『そうですけど…何ですか?』

私がそう言うと隊長はソファーから身を乗り出した。

「あかん」

『は?』

「行ったらあかん。惣右介かわりに行ってこい」

『…何故に?』

「何故にやない。あかんもんはあかん。あんな得体の知れん奴ンとこに一人で行かせられへん」

『得体の知れんって…隊長じゃないですか、隊長。何心配してんですか気持ち悪い』

「気持ち悪い!?……それヒドないか?」

『あなたの言っていることに比べればまともですよ』

「そうだね」

「惣右介コラァ…」

途中で会話に入ってきた藍染さんに向かって隊長はイラっとした顔を見せる。

「えーからはよ行ってこい。桜チャンは俺とお留守番や」

『…なんか理不尽じゃないですか?』

「でも一度言うときかないから…僕が行ってくるよ。月ノ瀬君は他の書類整理を頼むよ」

そう言うと藍染さんは私から書類をとった。そして執務室を出ていった。私はポツンと一人で突っ立ったまま固まっていた。

一体…何なんだ。

そう思いながら私は自分の席に戻った。

『ちょっと隊長さんの顔見たかったのに…』

「珍しィな。桜チャンがそないに人に興味持つの」

『いや…どんな奴がひよ里をうまく言いくるめるのか、少し気になっただけです』

「まあ…そらァ俺も興味あるわ」

『それに隊長全員の顔ぐらい覚えておかないと何かと不便じゃないですか。ほら社会的に』

「真面目やなァ。……そんなに顔見たいんか?」

隊長は足を組んだまま顔だけをこっちに向けた。私は走らせていた筆を止めた。

『まぁ…見たいです』

「なら連れてったるわ」

『…はい?』

「仕事終わったら行こう思ってたんや。行くやろ?」

…さっきはダメっつったのに?マジなんなの…

『…何か話があるから行く予定じゃなかったんですか?私がいてもいいんですか?』

「別にええで。ちょこ〜っと様子見に行くだけやし」

『なら…行きます』

「ほんならさっさとお仕事片付けなあかんな〜頑張りや〜」

『いや、あんたもやれよ』
















結局私しか仕事してねーじゃねーかよ。

私はあれから残業しなくていいようにマッハで仕事を終わらせた。その横で平子隊長はソファーで寝てた。

殺意が芽生えた。

ま、途中で藍染さんに怒られてたけど。ざまァ。

「今悪口言うたやろ」

『引っ込め妖怪サトリ』

今私たちは例の十二番隊長さんに会いに歩いている。

「たまーに口悪ゥなるな。あかんで、乱暴な言葉つこォーたら」

『男所帯で暮らしてる時点でそれは無理な話ですね』

まあ…真選組に入る前から口はかなり悪かったけど。すげーヤンキーみたいな感じの時があったけど。今はマシになった方だ。

そんなことを思いながら歩いていると、縁側に足を出して座っている人影が見えた。

あれが…十二番隊長…?

「……ふぅ…」

え、いきなりため息?

平子隊長もため息が聞こえていたらしく、その人影に近寄っていった。

「案の定ナンギしてるみたいやなァ」

「平子隊長」

「シンジでええわ。同じ隊長やろ」

やはりこのため息男が十二番隊長だったらしい。

「おや、そちらの女性は?」

「こいつはうちンのとこの三席や。挨拶しィ桜チャン」

『月ノ瀬桜です…どうも』

「ああ!貴女が。話は山本総隊長から聞いてますよ。すごいですね異世界なんて。今度詳しく話聞かせてください」

『はあ……』

だからさ…山じい。こーゆーことは先に私に話を通すもんでしょーが。わざとか?嫌がらせか?嫌がらせ。あんのクソジジィが…

「ボクは浦原喜助っス。好きなように呼んでください桜サン」

「お前は何サラッと名前で呼んでんねん」

「よろしかったら喜助でもいいですよ〜」

「待てやコラ」

『じゃあ浦原さんで。そこまでフレンドリーって感じは嫌なんで』

「…何か胸に刺さったっス…」

「あんまズカズカ踏み込むと串刺しにされんで」

しねーよそんなこと。つーかお前は私の気持ち関係なくいつも土足でズカズカ上がり込んできてんだろーが。

そう思っていると平子隊長は浦原さんの方に背を向け、少し高い位置にある縁側の手すりの方に寄っ掛かった。

「どや、ひよ里は。めんどいやろ」

「いやあ…」

その返事はめんどくさいのね…

「あいつ曳舟隊長ンこと自分の母ちゃんみたァに慕っとったからなァ。そこに馴染むんは大変やと思うわ」

「そうなんスよねえ…ボクは仲良くしたいんスけど…なかなか前の隊長サンと同じようにはいかなくて…」

そう言って浦原さんは少し困ったような顔をした。だが、隊長はその言葉を聞いた瞬間ゆっくりと寄っ掛かっていた体を起こした。

「…本気で言うてるか?それ」

隊長の真面目な声…久々に聞くな…

「知った風な口利くんは嫌いやけどな。先に隊長やってるモンの意見の一つとして聞いてや」

そう言いながら隊長は歩き出した。

「上に立つ者は下の者の気持ちは汲んでも顔色は窺ったらあかん。好きなようにやったらええ。それで誰もついて来えへんかったら器やなかったっちゅうだけの話や。それに、あんた元々他人の顔色窺うん上手いようには見えへんけどなあ」

そう言って隊長はニヤっと笑った。そしてそのまま足を進める。

「ま、ええわ。あんま気にせんといてや。あんたちょっとオレと似た匂いするもんでお節介やいてもうたわ。ほなな。行くで桜チャン」

『あ…はい』

私は隊長の後ろ姿を見ながら返事をした。

気持ちは汲んでも顔色は窺ったら駄目…か。……そんなこと考えて隊長やってたのか…あの人…

「面白い人っスね…」

『…変な人の方が合ってると思いますけどね』

「いいんスか?そんなこと言って…」

『事実ですからいーんじゃないですか?実際私も得体の知れない変な奴ですし』

私はそう言いながら浦原さんを見た。

「…ボクでよければ転送装置造るの手伝いますよ?」

『マジですか…じゃあお願いします。…それから…ひよ里のことも』

「…頑張るっス」

『はい、頑張ってください』

私はそう言って平子隊長のあとを追うように駆け足でこの場をあとにした。

つーか…平子隊長歩くのはや。もうあんな遠くにいんだけど。置いてく気か。

私はそう思いながら走った。すると隊長の隣に誰かがいた。

あれは…

「遅いでー桜チャン。しっかりしてんのは返事だけかァー?」

『隊長が歩くの早いんですよ。ていうか藍染さんいつの間に…?』

「ちょっとさっきね」

「覗き見みしてたから捕まえたんや」

『覗き見?そんな趣味あったんですか。意外です』

「ちょっ…違うよ?隊長も変なこと吹き込まないで下さい…」

「嘘言ってへんで俺」

いつも嘘つくくせに。ま、人の趣味はそれぞれだからとやかく言うつもりないけど。

私たちはそのまま夜の道を三人で歩いた。すると平子隊長が静かに口を開いた。

「どうやった?見た感想は」

『なんか…ユルそうでしたね。それに黒そうでしたし…でもいい人そうでした』

「いい人ォ?何でそないなこと分かんねん」

『勘』

「これまたテキトーな」

「でも隊長。女性の勘は当たるって言いますよ」

藍染さんは私に“ね?”と言いながら聞いてくる。そして隊長は私にこう質問してきた。

「桜チャン勘はええ方か?」

『野生の勘なら自信ありますけど』

「期待できそうにないな」

「…ですね」
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