蜂蜜果蜜
□蜜四滴
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そして私は口に注がれた酒を全部飲んでしまった。飲み終わったのを確認すると平子隊長は杯を私の唇から話した。
「どーや?」
「酔ったか!?酔ったか!?」
「んな早く酔いまわるわけねーだろ」
『…別に酔ってませんよ』
私がそう答えると残念そうにする面々。
元々うちの親は酒強いし真選組で酒のにおいにはなれてたから別に辛くもなんともない。
ようするに読者の皆様が期待していた、酔ってベタ甘になるタイプでもエロくなるタイプでもキレるタイプでもないわけで、至ってフツーだ。
「つまらんな…」
あんたはいい加減諦めろスケベ。
「飲めるやんけ。ホレ、飲みィ」
『然り気無く酒を次ぐな』
「ええやんか。飲めるんやから」
『んな適当な…』
こりゃ…近藤さんや土方さんにバレたら大目玉だな。あ、でも総悟も飲んでるしいいか。
だけどなぁ…やっぱ酒臭くなるのは嫌だからやめよ。
そう思い横に置いてあった水をコップに注いで飲んだ。するとその時矢胴丸副隊長が立ち上がった。
「納得いかん。こうなったら勝負や桜」
『いきなり何を…』
「じゃんけんで負けた方が一枚一枚着てるモンを脱いでく。文句ないな」
『逆に問う。何で文句ないと言い切れる』
この人の思考回路はどうなってるんだろう?一度のぞいてみたい…いや、やっぱやめとこ…後悔しそう。
「お〜いいじゃねーか。やれやれー」
「羅武…お前だいぶ酔ってるな」
「酔ってねーよ」
「それ酔ってる奴の決まり文句だろ」
「ええやんか。桜やったれェ!!」
「アホか。桜チャンがそんなことやるか」
そう言い呆れたような目でお酒を飲む平子隊長。
もちろん私もそんな下らないことやるわけないので平子隊長の隣で同じく呆れた目で水を飲む。
「よし分かった。桜が勝ったら好きなもん奢ったる。あたしが勝ったら明日一日桜を好きに使うていい。この条件なら文句ないやろ」
「だーから…どこが文句ねーんだ『のった』おい!!」
私は飲んでいた水を机におき立ち上がった。
「出たで、私欲の塊」
『隊長は黙っててください』
この前も言ったでしょう?一に金、二に食糧って。だいたい世の中金なんだよ。そしてタダで貰えるもんは貰っとく。これ月ノ瀬家の家訓。
「ええ度胸しとるやん。ますます気に入ったわ」
『それはどうも。勝っても負けても恨みっこ無しですからね』
「分かっとるわ」
『それじゃあ…』
「『さいしょはグーッじゃんけんっ――』」
「アホか」
『だからすみませんって…』
あれから白熱した戦いがはじまり、私が負けて最後の一枚を脱ごうとしたとき平子隊長と六車隊長に止められた。それを愛川隊長とひよ里は横で爆笑して見ていた。矢胴丸副隊長は…まぁ悔しそうにしていた。
そして今は平子隊長に説教されながら五番隊舎へ帰宅中。
「リサに変な火ィつけおってからに…止めんの大変やったんやぞ。つーかお前も素直に脱ごうとすんなアホ」
『アホアホ言わないでくださいよ……心の底から反省してますから…』
「ホンマは?」
『これっぽっちも反省してません』
「オイ」
だって何でも奢ってくれるって言うから。そうしたら普通勝負受けるでしょ。まぁ…負けそうだったけども…
「あのまんまやったら店のド真ん中で裸さらしとったんやぞ。危機感持てや」
『大丈夫ですよ。さらし巻いてますから』
「そーゆー問題ちゃうねん」
『そーゆー問題です。大体あれ以上じゃんけん負けたら逃げるつもりでしたし』
「お前なァ、副隊長から逃げ切れると思うんか?」
『前に一回だけ山じいから逃げ切ったことありますよ?』
「…どんな身体能力してんねん」
『化け物見るような目で見ないでくださいよ。失礼だな』
まぁ実際化け物になりかけてるかもね。ゴリラと一緒に生活してれば。それから四六時中動向かっぴらいてる男と尋常じゃないくらいのドS野郎と住んでればね。
そんなことを思いながら空を見上げる。今日はよく晴れていて綺麗な夜空が見えた。
しばらく上を見ながら歩いていると、黙っていて平子隊長が口を開いた。
「楽しかったか?」
『…何ですか急に』
「えーから楽しかったか聞いてんねや」
『…まぁ…楽しかったですけど。何なんですか一体?』
私は少し前のめりになって隊長の顔を覗こうとした。すると隊長がいつものようにあの独特の口でニヤッと笑った。
「桜チャン、お仲間サンと離ればなれになってサミシー思いしとるんやないかな思てな。当たっとるやろ?」
『……………ハズレです』
「相変わらず素直やないなァ〜」
ぷいっと視線を反対に向けた私に平子隊長は私の頭をポンポンッと軽く叩く。
私はなんだか恥ずかしい気持ちややめてほしい気持ちや、何だから色んな感情が混ざったもどかしい気分になった。
『…だから子供扱いやめてくださいってば』
「そうやなァー桜チャンはもう立派な大人やもんなァー」
『いい加減にしないと……その前髪凸凹に切りますよ』
「恐ろしいことサラッ言うなや」
あ、やっぱパッツン大切なんだ。弱味ゲーッツ。
と、心の中でガッツポーズをしたのは内緒だ。
『って、話そらさないでください』
「別にええやんか。ありがたーく隊長様のナデナデ受け取りやー」
『断固拒否します』
「あっコラ!」
私は少し小走りで平子隊長自称、隊長様のナデナデから逃げた。
あれは何だか苦手だ……だって近藤さんみたいな、大きくて優しい手、してるんだもん…
あー…やっぱ寂しいのかな。ホームシックってやつ?まさかこの私がねー。…あんな奴等でも居ないと寂しいのか。
うーん…何か、平子隊長に気づかされたみたいでヤだな。
……忘れよ。うん、それがいい。
「考え事しながら歩くとコケるで」
『冗談よしてくださいよ。隊長じゃないんですから』
「俺がよくコケるような言い方やめろや。そんなドジ踏まんで」
『この前ひよ里と私の前で盛大にコケてたじゃないですか。キレーにローリングまでして』
「アホ。あれはひよ里に後ろから蹴られたんや」
『いやー、見事なコケっぷりでしたよ隊長』
「せやからその時々見せる笑顔やめィ。地味に腹立つで」
『え、本当ですか!?』
「だからやめろ言うたやんけ!!」
『だって嬉しいですもん』
「それからの真顔もやめろや!!!!」
こんなやり取りをしながら五番隊舎へ続く長い道を二人で帰っていきました。
「お前なァ、パッツンバカにしとったらパッツンの神様に呪われんで」
『パッツンの神様って何ですか』
もちろん甘い展開などは全くない
今は。