黒猫。

□黒猫が二匹
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シャッター音が路地裏に響いた。

その瞬間男は私よりもはるかに早く反応した。私も遅れてシャッター音がなった方を見てみると…

臨「やあ」

素敵な笑顔で携帯をこっちに向けているイケメンさんがいた。

臨「こんな時間にこんな所で何をしているのかな?」

イケメンさんが携帯をわざとらしく見せながらそう言うと、ナンパ変態男は“チッ…”と舌打ちをして何処かへ消えてしまった。

ハッ、二度と近づくな変態野郎。

私は少し乱れた制服を直してイケメンさんの方を向いて、ペコッと頭を下げた。

『あの、ありがとうございました』

臨「別に俺は何もしてないよ」

『いや、かなり迷惑してたんで助かりました』

臨「追いかけられてたもんねぇ」

…ん?追いかけられてたもんね?この人……

『いつから見てたんですか?』

臨「君とぶつかってから、かな?」

『あぁ……さっきの。すみませんでした。あんまり人多いとこなれてなかったので』

臨「もしかして池袋初めて?」

『まぁ…はい』

臨「確かにここら辺では見ない制服だね。どこから来たの?しかもこんな夜中に一人で」

なんか…質問多くない?つーか妙にこの人の笑顔に恐怖を覚えるんだけど。もしかしてさっきのナンパ男よりヤバイやつ?

もーこれ以上面倒事は御免だ。助けてもらっといてなんだけど、逃げよう。

『あの…えーっと……まぁ色々あってですね。じゃ、…ありがとうございました、では…』

臨「そっか。気を付けてかえるんだよ」

お、…案外簡単に引いてくれた。ラッキー。

ガシッ

臨「なーんて、簡単に納得するとでも思った?」

『…………………』

前言撤回。簡単に引いてくれなかったよコンチクショー。

私はできるだけ真顔保って口を開いた。

『別にあなたには関係ないですよ?』

臨「危ないところを助けてもらった人に対してそれはないんじゃないかな?」

『それはそれ、これはこれです』

イケメンさんは私がそう言うと楽しそうに笑って“そういうの嫌いじゃないよ”と言った。

残念。私はあなたのことが段々嫌いになってきましたよ。

臨「こんな夜遅くに女の子が一人で出歩いてるなんて、家出でもしたのかな?」

『だから関係ないですって』

臨「あ、やっぱり家出?」

『だから違うっつーの』

臨「へぇ…家出じゃないんだ」

……しまった。口が滑った。

そう思っているとイケメンさんは嬉しそうにニヤニヤ笑った。

なんだこの笑顔は。捻り潰したくなるなオイ。

臨「家出じゃないのならどーしたのかな?」

そう言いながら、イケメンさんは私の手を掴みながら少ししゃがんで私の目線に合わせてきた。真っ直ぐ私の目を見るイケメンさんに、私は目をそらした。

『………ほっといてください』

臨「あのね、世の中には嘘が必要なときもあるけど、こういう時は素直に大人を頼った方がいいよ。例えば俺とか、ね?」

『…何で私にかまうんですか?もしかしてあなたはロリコンなんですか?』

臨「残念ながら俺はロリコンでもないよ。ついでに言うとフェミニストでもないし、さっきの男みたいなナンパ男でもない」

『じゃあちょっと変わった変人さんですね』

臨「顔に似合わず結構心にグサグサ刺さる言葉を言ってくるね」

『それは良かったですねー。なので私の手を離してください』

臨「なのでの意味が分からないなぁ」

『…………』

手強い。酔っぱらったときのお父さんより手強い、そして面倒。これは理由を言うまで離してくれそうにない……
でも知らない人に話したくない。つーかこの人絶対危ない人だ。

逃げなければ。早くこの人から離れなくては。そう、私の本能が言っている。

私は身の危険を感じて少し手が強ばった。そして目の前にいる彼を見ることができず地面を見つめた。すると頭の上から静かな声が聞こえてきた。

臨「こっち見て」

『嫌です』

臨「スカートめくるよ?」

『タイツなので問題ないです』

臨「じゃあさっきの奴みたいにセクハラしちゃうよ?」

『なっ!!』

私は目を見開いて顔をあげてしまった。

臨「やっとこっち向いたね」

目が合うと、やっぱり彼は嬉しそうにニヤニヤ笑っていた。

この人、やっぱり嫌いだ。

臨「どうしてこんな時間にこんな所にいたのかな?」

『………………』

臨「言いたくない?まぁそりゃそうだよね、今さっき知り合ったばっか奴にそんなこと言う義理はない。君の判断は正しい。たけど…」

そう言うと彼はじっと私の顔をのぞきこんだ。

臨「そんな泣きそうな顔してたら、流石の俺もほっとくなんてできないな」

その言葉で私の警戒心が一気にとけた。

困惑、恐怖、不安、寂しさ。色々なものが重なって、いくら気の強い私でも限界だった。

私は固く閉じた口を開けた。

『家に帰れません……てゆーかどうやって帰ればいいのか………気づいたらここに…いて………もぉ自分でも訳が分からないんです……しかも変な奴に絡まれるし…』

涙はこぼさなかったけど、多分目には涙が大量にたまっているだろう。私は下を向きながら捕まれていないもう片方の手でごしごしと目を擦った。

すると彼はそのもう片方の手もつかんで、こう言った。

臨「なら俺の家においでよ」

・・・・・・・・・・・・。

は?ちょっ…はっ?え?

『何でそうなる…?』

臨「じゃあ逆に聞くけど、君は今晩泊まる場所はある?」

『…公え「もちろん野宿以外でね」ないですけど…』

臨「正直だね。じゃあ決まり、行くよ」

ちょっー…強制ですか?私に選択肢の余地はないんですか?

臨「勿論選択肢はないよ」

『あなたはエスパーですか』

そんなことを言いながら彼は私の手を引いて大通りに向かう。

はい、強制ですね。もう好きにしてください。

臨「俺はエスパーじゃなくて情報屋だよ」

『情報屋…?なんか中二っぽいですね』

臨「中二じゃないよ。俺は折原臨也、君は?」

『…山田花子で「本名」月ノ瀬桜ですー…』

臨「桜ね。俺のことは臨也でいいよ」

『じゃあ折原さんで』

臨「人の話聞いてた?」

『もちろんです』

臨「………」

『嘘ですよ。じゃー臨也さんで』

臨「呼び捨てでいいのに」

『そこまで馴れ馴れしくしたくありません』

私がそう言うと臨也さんは“酷いなぁ”なんて言いながら笑った。

半分強制、半分その場の流れで、自称情報屋の折原臨也という人間についてきてしまったが……大丈夫なのか私?

まぁ今さら考えてもね。第一めんどくさい。まぁどうにかなるでしょ。

ホント…この性格は楽だわ。

そう思いながら臨也さんについていった。












(俺前から黒猫が欲しかったんだよね)
(それ、もしかして私ですか?)
(君以外に誰がいるの?)
(……そんな当たり前でしょ?みたいな顔されても困ります)
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