真撰組物語

□“海へ行く”
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沖「…ん…あれ…ザキ?」

山「あ、起きましたか沖田隊長」

沖田は目を擦りながらゆっくりと起き上がる。そして周りを見渡しながら

沖「…桜は?」

山「桜ちゃんなら俺達のお昼ごはん買いにいきましたよ。そー言えば…買いにいってから随分時間たつな…」

沖「へぇー…」

山「あ、そのバスタオル カバンの中に戻しといてって言ってましたよ」

沖「タオルー?あー…桜が無理矢理かけた…」

そう言って自分のお腹にかかったバスタオルをとる沖田。その時暑苦しい男こと 一番隊隊士 神山がやった来た。

神「沖田隊長ォ!!ここにいましたか!」

沖「いちゃわりィかよ」

神「いえ!!ぜんっぜんオッケーッス!!問題ないッス!ノープログレムッス!!」

沖「いちいちうぜェな野郎だな」

山「まぁまぁ沖田隊長。神山はどうしたの?急いでたみたいだけど」

山崎がそう聞くと神山は思い出したように顔色をかえた。

神「それがですね!!さっき桜服隊長をみかけたんス!」

山「え?見かけただけ?」

沖「そんな事で一々報告しに来てんじゃねーよ」

神「違いますよ!見かけたは見かけたんスけど、なんだかおかしかったんスよ!!」

山「おかしい?」

沖「桜がおかしいのは元からじゃねーかィ」

神「それはそうですね…って!そのおかしいじゃなくて!!」

神山はノリツッコミをしながら焦った顔をする。

神「屋台のところで見かけたんですが、買った焼きそばを店の者に押し返してどこかに行っちゃったんスよ!何かを見つけたような顔をして!!」

山「え?!受け取らないでどっか行っちゃったの?」

神「はい!おかしいッスよね!!」

沖「桜の事だから小銭でも見つけて拾いに行ったんじゃねーの」

山「あ、ありえる……って!沖田隊長どこにいくんですか?」

沖田はバスタオルを桜のカバンの上へおき立ち上がった。

沖「昼飯買ってくる」

そして刀を3本持って歩き出した。

山「何で刀もってくの?!つーかそれ桜ちゃんの?!」

山崎はツッコむがそれを無視して遠ざかっていく沖田。その背中を山崎と神山は困惑した顔で見つめていた。

―――その頃 桜―――

勢いでついて来ちゃったけど…どうしよ。これただの痴話喧嘩だったら 私ただのストーカーじゃん。
あれからこっそり二人のあとをついてきた私。女の人はビクビクとしながら“離して!!”の一点張り。逆に男はずっと黙っている。

『ワケわかんない…』

私は二人の視角なる岩陰に隠れている。

『…ただの恋人同士の喧嘩かな?……』

恋人同士に見えなくもないしな…。
男の格好は黒い海パンをはいていて特に柄は入ってない。髪も黒くて緑色の眼鏡をかけている。女の人は白いビキニ姿で短い髪を後ろでポニーテールにしている。
大人しそうなカンジのカップルには見えるんだよね……もう戻ろうかな。
そう思ってその場を立ち去ろうとしたとき鈍い音が響いた。

ドゴッ

『?!』

急いで岩陰から二人の方をのぞくと、地面に倒れ 赤くなった頬を手でおさえている女の人の姿があった。

「痛いっ…」

「僕の言うことを聞かないから悪いんだよ」

女だけを狙った暴行事件。
私の頭の中にこの言葉が浮かび上がった。
…コイツか。

「何するのよっ!…あ、あなた誰?!」

「言う必要はないでしょ?」

バキッ

そしてもう一発 殴る。背中を殴られた女の人のそこは青くなっていた。
…最低だな あの男。これ以上は見過ごせない。

「いっ……やめっ…やめてっ…」

「そう。その顔が見たかったんだよ。……もっとその顔を僕に…見せてよ!!」

「やぁっ!!」

男が女の人に再び殴りかかろうとした。だが、男の手は女の人に届かなかった。それは…

『はい、ストーップ』

私は女の人の前に立って男の拳を右手で受け止めていた。

『そろそろ止めようか?』

「はっ?…誰かな君は」

『通りすがりの…女の子!』

ブンッ!!

「っ!!」

私は男の拳を離すのと同時に足で男を蹴ろうとした。
…はずした。
私は男と距離をとって女の人に背を向けながらしゃがんだ。

『大丈夫ですか?』

「は…はい…」

返事は返ってきたが声が震えている。じゃっかん体も震えている。私はできるだけ落ち着いた声で話しかけた。

『私があの男の相手をするので貴女は逃げてください』

「でっ…でも あなたは…」

『私なら平気です。…顔と背中…痛そうですけど立てますか?』

「…なんとか……」

『なら 私が合図したら逃げてください。屋台が並んである所から真っ直ぐ行くと他の人達よりも大幅に場所を占領している人達がいます。そこに地味な人がいるはずなので“助けて”と言ってください。保護してもらえるはずです』

「わ……わかりました」

『地味な人がいなかったら栗色の髪をした童顔に、そいつもいなければV字前髪野郎かグルグル眼鏡に助けを求めてください。“月ノ瀬桜に言われて来ました”って言えば絶対大丈夫ですから。それからこうなった経路を彼等に話してください。人相は悪いけど危険な人達じゃないので、いいですね?』

私がチラッと後ろを振り向いて女の人の方を見ると彼女は静かに頷いた。だが 顔色は優れず微かにまだ震えていた。

『…大丈夫です。あなたは絶対助かります。信じてください』

「……はい」

「お話はもう終わった?」

男は不適な笑みを浮かべながら私たちを見ていた。

『終わりましたよ。待たせてすいませんね』

「いーや?別に僕は構わないよ。どーせ君達二人とも逃す気ないから」

そう言って男は海パンのポケットからナイフを取り出した。

「ひっ…」

『大丈夫…』

私は女の人を落ち着かせながらゆっくりと彼女を立たせた。そして小声で

『いいですか?合図をしたら全速力で逃げてください』

「…は…はい」

私は女の人が頷くのを確認して男に向き直った。

「もしかして僕から逃げる気?」

『そのまさか…だよっ!!』

私は足で砂を掬い上げて男に向かってぶっかけた。

「なっ!」

『逃げて!!』

「はっ、はい!!」

私の掛け声と共に女の人は勢いよく走り出した。
…これなら彼女は大丈夫そうだ。
彼女の姿が見えなくなったころ、男は目を擦りながらナイフを構えた。

「やってくれたね。まぁいいさ一人くらい。君は逃がさないよ」

『私も逃げる気なんてないですよ』

向こうはナイフ…こっちは丸腰…いくら私でもやられるのは時間の問題だ。スキをついて上手く反撃出来ればいいんだけど、生憎下は動きにくい砂浜。それに私は素足であっちはビーチサンダル。さっきの女の人が山崎さん達の所に辿り着けば真選組が駆けつけてくれるだろうけど…あの状態じゃうまく状況説明できないだろうな。だとすると…みんながここに来るまでの時間稼ぎが最善だな。
私は戦闘態勢のまま男に話しかけた。

『あなたが女性だけを狙った暴行事件の犯人?』

「そうだけど?」

男はヘラヘラ笑いながら答える。

『何でこんな事するんですか?』

「ストレス発散…かな」

…ストレス発散?

「僕さぁ就職試験全部落ちて最近イライラしてたんだよ。だから人を殴ってストレス発散してた訳」

『女の人を狙ったのは男の自分に対してあまり反抗しないからですか?』

「そうだよ。それに…女の子のあの恐怖に満ちた顔。あの顔を見るのが僕の快感なんだ」

この男はどんな快感を得ているんだ。ある意味総悟より趣味悪い。

『…だからって関係ない奴殴るのはおかしいんじゃないですか?』

「何言ってるの?相手の心と身体を傷つけた瞬間が一番気持ちいいんじゃないか」

『悪趣味ですね』

「それは誉め言葉として受け取っておくよ」

誉め言葉って…どんな誉め言葉だよ。そんなの嬉しくもなんともねーよ。
私が男の言葉に呆れていると岩陰からガサッと音がした。

「誰だ!」

男はナイフを向けながら威嚇した。だがそこから現れたのは…

コロコロコロ…

「なんだ…空きカンかよ」

空きカン?…一瞬人の気配がしたんだけど……?
私が空きカンを見ながらハテナマークを浮かべていると男が私にナイフを向き直した。

「さて、そろそろお喋りは終わりでいいかな」

『まだ私はお話していたかったんですけどね』

みんなが来る気配は…ない。これ以上時間を稼ぐのは無理だ。…ナイフ相手に大丈夫かな…。まぁやるしかないんだけど。たまーに神楽ちゃんから体術教えてもらってるし。
私は拳に力を入れた。

「そんなに力まないでも大丈夫だよ。痛みなんて快感に変わってくるから」

『私はマゾじゃないんでイラつきしか芽生えてこないと思いますよ』

「じゃあそのイラつきが快感変わるよ」

『快感に変わる前に殺意が芽生えますね』

この男はどんだけ快感にこだわってんだ。何のこだわりがある。そんなプライド ドブにでも捨てろや。

「…そんな強気でいられるのも……今のうちだよ!!」

最後に発した言葉と同時に走ってきた。
…大丈夫。隙を狙ってナイフを持っている手に蹴りを入れてナイフを落とせばこっちのもんだ…。
そう思っていたとき上から何かがふってきた。それは私の頭に直撃した。

ガシャッガツッ

『いっ!!…』

ん?…これ!

沖「忘れもん」

上を見上げると…岩の上に総悟が刀を持って立っていた。

『総悟!!』

「よそ見している暇あるのか!!」

男は私のすぐ目の前まで来ていた。
でも…

『刀があればこっちのもん』

私は砂浜に落ちた私の刀二本を素早く拾い上げ両手でそれぞれの刀を鞘から抜いた。そして男のナイフ目掛けて刀を振り上げた。

キンッ――ボト…

「なっ!!」

男は落ちたナイフを拾おうとする。が、私が左手に持っている刀を男の首に突きつけた。

『無駄』

「…くそ!!」

それでも逃げようとする男。

『あなたが私の片手の刀をどうにかしても私にはもう一本刀がある。逃げ場は無いですよ?それに後ろには…』

沖「大人しくしやがれィ」

『あなたよりドSな奴がいるから』

「あっ…ああっ…」

ようやく男は観念したのかその場に座り込んでしまった。

『ゲームオーバー…ですね』

それから数分後 土方さんと山崎さんが隊士を連れて駆けつけてくれた。
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