the Wonderful Days

□Act.7
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暫く経ってイスズが泣き止んだ頃、ジェイドとネリアが連れ立って店に出て来た。

まるで泣き止む頃合いを見計らったように。

事実そうだろう。




赤くなった目に気付かずイスズは二人を向いた。

何か言いたげに口が二、三度開いたり閉じたりするが音にはならず、しゃくり上げるばかり。

ネリアはその姿に微笑み、優しく腕を回した。




「分かってるわ。貴方が決めたことだもの。それでいいのよ」

『っ……う、』

「そういえば貴方が泣くなんて初めてよね」




ぎゅ、と背中に回していた手で宥めるように緩やかに撫でる。

その仕草にまた嗚咽が止まらなくなる。

肩にあるネリアの顔は見えないが、隣に立つジェイドのいつになく精悍な顔は良く見えた。

旅立つ子を見送る親の顔。

目尻に皺を刻み、不安を取り除く、そんな表情だった。




『ぉ、じさ…』

「お前はもう一人前だ。根を上げず俺の訓練に耐えてきたんだ、そこらの奴なんざ目じゃねェさ。なぁに俺達のことは心配するな。今まで通りだよ」

『うん、うん…』

「白ひげは信用できる奴だ。俺が保証する。そこの若造もな」




ニヤリ、と嘗て海賊だったというジェイドは悪い笑みを浮かべ、カウンターの席で苦笑するイゾウを見た。

年を重ねたジェイドからすれば半分程度しか生きていないイゾウは十分に若造なのだ。

言うことは尤も、返す言葉も無い。




「おい、イゾウ」

「何だい」

「俺の可愛い娘攫って行くんだ。死ぬ気で守れよ」

「はっ、言われるまでもねェよ」




それだけの会話で言いたいこと、娘を想う親心が痛い程に伝わる。

だからこそイゾウは同じく笑い挑発的に返した。

ネリアは男同士の会話をそっちのけでイスズに問うていた。




「いい?知らない場所で誰かについて行ったらダメよ。貴方すーぐヒューマンショップに売られそうだもの、いいわね?」

『……流石に、それは』

「あと強いからって過信しないこと。もし危なくなったら蹴り上げなさい、思いっきりよ」

『はい…』

「島に下りるときは必ず武器を身に着けておいて、暗器も一つか二つはあった方がいいわね。ねぇ、ジェイド、貴方持ってない?」

「俺が持ってると思うか」

「思ってないわ、聞いただけよ。っとに準備が悪いんだから。そういえばルークの所から短剣は貰ってきたの?こないだ預けて来たって言ってたでしょう」




次々と口から出てくるのは流石に海賊の妻らしく堅気ではない台詞ばかり。

それもこれもイスズを案じてのことなので無下に突っぱねることも出来ず、頷いて聞いていた。

しかし一通り心得を告げると、今度はバタバタと二階への階段を駆け上がって行った。




「やれやれ、忙しないな」

「くくっ、アンタと違って心配なんだろう」

「俺だって心配してるぜ。だが、コイツはただ黙って守られてるような大人しい娘じゃねェことは分かってんだろ」

「あァ」




ネリアのマシンガントークから解放され呆けているイスズは、ふと二人の視線が向けられていることに気付く。

どうしたのかと首を傾げ、目だけで不審そうにした。




「お前さんがじゃじゃ馬だって話さ」

『じゃじゃ馬で悪かったね』

「悪いとは言ってねェだろ。拗ねんなよ」

『拗ねてませーん』




未だ目は赤いが既に涙は引いて、いつも通りの様子になっている。

軽口の応酬をする二人を微笑ましいとばかりにニヤついた顔でジェイドは眺めた。




*****




店を出る前、二階から下りて来たネリアが渡したのは幾つもの暗器。

袖の中に仕舞っておける物、手首に付けたリールの様な糸を出せる物、改造すれば靴底に取り付けられる物、実に様々だった。

多種多様なそれにイスズは自分の顔が引き攣る気がしたが、何故こんなものを持っているのか聞かないことにした。

知らぬが仏、という言葉も世の中にはある。




「ルークの所から戻って来るまでには準備しておいてあげるから!」




との言葉で、イゾウとイスズは仲良く店から放り出された。

閉められたドアの前で互いに顔を見合わせ、ため息を吐く。

仕方なしに、短剣を預けていたルークの店、銃を預けていたギルーの店へ向かうのだった。




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