the Wonderful Days
□Act.5
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夜、イゾウは再び昨夜の酒場に来ていた。
少々余計なものまでついて来ているが気にするまい、と内心で何度も呟きながら。
ドアを開け店内を見渡すと、昨日と変わらずカウンターにその姿を見つける。
見知った顔に気が付きイスズは表情を明るくした。
ついて来たマルコとサッチは互いに顔を見合わせニタリと悪い笑みを浮かべる。
エースだけはお構いなしにカウンター席へ走り寄り忙しなくメニューから注文を始めた。
「悪ィな、余計なモンまで連れて来ちまった」
『いいえー、儲かるから大歓迎ですよ』
「特にエースはな」
などと軽口を叩いて二人は笑う。
イゾウはイスズの正面に、他三人は昨日と同じ席へ並んで座った。
それぞれ酒とつまみを一つずつ注文し待っている間、物資調達の進み具合や島の治安の話を軽くしていた。
「にしても、あのイゾウがなァ」
「まァ、気持ちは分からねェでもねェよい」
料理を待ちつつ二人は悪どい笑みを見せながら意味深に言う。
イゾウは口を滑らせるのを懸念してか眉を顰める。
「おい、まだ言うんじゃねェぞ」
『何が?』
グラスを持つ手を止めてイスズは首を傾げた。
「いや、コッチの話だよい」
『そう?』
四人分のグラスに氷を入れて酒を注いでいく。
イゾウには清酒、マルコはテキーラ、サッチとエースはビールを頼んでいた。
カウンターにそれらを出して、次は注文の料理へかかる。
エースは昨夜と変わらず大盛りの料理を注文したが、その他作るのは酒のつまみだ。
手早く包丁を動かしフライパンを振っている時、四人の耳に店の奥から気に掛かる話が聞こえた。
「ねぇ、聞いた?また別の海賊が来たんだってさ」
「そういや聞いたかもな。今朝だろ、そいつらが来たの」
「うん。あたしの家の近くに酒場があるじゃん。そこんとこのおじさん、あるだけの酒ぜーんぶ取られちゃったんだって」
「マジかよ!おっさんは大丈夫だったのか?」
「ヒドイ怪我じゃなかったらしいけど、病院に運ばれたって…。もしかしたらそいつら、ココに来たり…」
「来たとしてもイスズちゃんがいるんだ。心配ねぇだろ」
「そりゃそうだけどさぁ…」
その話に四人の顔が真剣なものになる。
イゾウ達が寄港したのは昨日の夕方、一日経ってどうやら同じルートを航行していた何処かの海賊がこの島に立ち寄っているらしい。
そして既に島民へ危害を加えている。
イゾウは懐から煙管を取り出し、横に座るマルコに問うた。
「その情報、お前さんに上がって来てたのかい」
「あァ、別の海賊団が来たらしいって報告だけだったがな」
「ふぅん。どうする?放っておくか」
一度グラスの中身を煽り、少しばかり逡巡するように顎へ手を遣るマルコ。
見ればサッチとエースの目は放って置けないと言っている。
それはマルコも同じだった。
この島にはジェイドが居る。
昔は船長である白ひげの敵であったが今は気の置けない友人。
その友人が住む島を荒らされたとあっては黙っている訳にもいくまい。
直ぐにマルコの判断は下る。
「明日、そいつらを見つけ次第潰すかねい」
「了解」
「そうくると思ったぜ!」
「親父の友達がいるのに好き勝手させてられっかよ!」
意気込む四人を止めたのは今まで手を止めなかったイスズだった。
『その必要はないよ』
其方を向くと、意味深に片方の口の端を上げていた。
訝しむマルコが問う。
「どういう事だい」
『今にあいつ等の方から来る』
返事と共に店のドアへ視線を遣る。
まるでもう直ぐやって来るともでも言うように。
「イスズ、お前さんまさか…」
イゾウのその言葉は最後まで続けられなかった。
背を向けていた店のドアが大きな音を立てて吹っ飛んだからだ。
飛ばされたドアはカウンターの近くまで飛ばされ木片が散る。
突然のことに店内にいた客は目を剥き声を失った。
入って来たのは海賊らしい笑みを浮かべた数人の男達。
店の中を見回し、カウンターに立つイスズを視界に入れると声高に叫んだ。
「よォ姉ちゃん!オレ達ぁ客だが酒はあるかい」
『あるにはあるが、アンタ等に出す酒はねェなァ』
「何だと?」
先程までとは異なる男勝りの口調に四人は少し驚いて振り返る。
挑発的に言い返したイスズは小馬鹿にした顔で腕を組んでいた。
そして苛立った様子になる海賊に更に被せるように告げる。
『店のドアを壊す奴に出す酒はねェって言ってんのさ』
「んのアマ、オレを誰だと思ってやがる!懸賞金八千万ベリーのゴルゴダ様だぞ!!」
『知らねェよ。ねぇ、知ってる?』
打って変わって穏やかに四人へ問いかけると、揃って同じ返事をする。
「知らねェな」
「知らねェよい」
「エース知ってるか?」
「オレが知ってるワケねーだろ」
あっさりと否定され、ゴルゴダと名乗った男は怒りで顔を染め上げる。
喧嘩を売るイスズにマルコとイゾウは呆れて肩を竦め、サッチは面白そうに笑い、エースは尚も料理を口に詰め込む。
緊張感のないこの空気と小さなプライドを折られたことで、ゴルゴダの導火線が焼き切れた。
腰に差していた剣を勢いよく抜くと張り裂けんばかりに声を上げた。
「野郎共!やっちまえ!!」
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