the Wonderful Days

□Act.2
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「こりゃまた随分と大量だな」

『用意できそう?』

「すっからかんにはなるが、出来るぜ」




馴染みの酒屋へ行き、イスズは店主に話をつけていた。

この店も小さくはないのだが如何せん今回は量が桁違いのため、驚いていた。




「夕方にゃそっちに持って行くよ」

『うん、よろしく』




遣いを終え宿場への通りを歩いていると前方から騒ぐ声が聞こえた。

よくよく聞いてみれば、ひったくりのようだ。

イスズは直ぐに駆け出した。

それとほぼ同時に、同じように誰かが駆け出す姿を視界の端で捉える。




今はひったくりを捕まえるほうが先と判断し、犯人を捜す。

周りと逆走するように走る犯人は見つけやすく、それが男だと分かった。

群衆から飛び出したイスズが立ち塞がると男はつんのめって止まる。




「なっ何だテメェ!!そこ退きやがれ!」

『真昼間からこんな大通りでひったくりか。ガキのスリでももっと上手くやるだろうよ』

「うるせえ!退けって言ってんのが聞こえねーのか!!」




この時点で男とイスズの周囲は人だかりができ、注目を浴びる形になった。

さっさと逃げるつもりだったろうが、こうなってしまっては顔も割れ、人に紛れることも難しい。




数秒遅れて、先程駆け出した人物がやって来た。

イスズがちらりと見ると、それはくせっ毛の黒髪の青年だった。

上半身は何も身に着けておらず首に大きめの珠のネックレスをしている。

世界中に手配書が出回っているために、周りの群衆もひったくりの男も、そしてイスズもそれが誰であるか気づいた。




「あれ、遅かったか」

「ひ、火拳のエース!?何でこんなトコに…」




ひったくりの男は顔を引き攣らせる。

懸賞金5億の海賊が来ては敵わないと分かったのか、顔面蒼白になる。

しかし直に対峙しているイスズが口を開いた。




『火拳のエース、アンタは手を出さなくていいよ』

「え?いや、でも大丈夫か?」

『もしかしたらうちのお客かもだし』

「客?」




うん、と頷くとイスズは一瞬で男との間合いを詰める。




「は…」




瞬きのうちに目の前に迫っていたイスズに呆気に取られ、男は真面に声も上げられない。

そして鳩尾に重い衝撃。




懐に潜り込んだ拳が突き上げていた。




意識を飛ばし崩れ落ちた男の首根を掴み、抱えていたバッグを取る。

すると群衆の中から一人の女性が駆けてきた。




「ありがとうイスズさん!本当助かりました!」

『はい、今度は盗られないようにね』

「またお礼に伺います!」

『いやいや、いいよ。その恰好、これから出掛ける予定じゃないの?』

「あ!そうだった!」




女性の着ている洋服を指差すと、腕につけた時計を見て焦っていた。

もう一度頭を下げ、女性は群衆の先へ走って行った。
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