夢視

□06 入部
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テニスコートに行くと先日と同じ様にフェンスの周りを女子生徒が囲んで黄色い声援を浴びせていた。

まあ、よくやるもんだね。

練習の邪魔だとは思わないのか。




私は人だかりの後ろから同じクラスの柳に視線を送る。

多分柳なら気付く。

そしてこの目の前の壁を退かしてくれ。

数秒ほどガン見していると気付いてくれたのかくるりと此方を振り向く。




細い眉を歪め、どうしたという風に表情を変える。

私はフェンス前のファンの山を指さし、通れないことをアピールした。

柳が近くにいた真田に何か言いこちらへ向かって来た。

コートの入り口付近にいた生徒はざっと横に避けて道を作る。

何その連帯感、恐ろしい。




(モーゼかよ…)




柳が私の所へ歩いてくると自然と周りの視線もこちらへ向く。

口々に「あれ誰?」、「あの子転校生だよ」、などと言っている。




「マネージャーの件、引き受けてくれるのか」

『話が早いね。引き受けるよ、よろしく』

「詳しいことは向こうで話そう」




後ろをついていく途中、ひそひそと言うのが聞こえた。

何であんな子が、みたいなこと言ってるんだろうけど、言いたい奴は言っていればいい。

コートに入るとまたもや多くの視線が向けられる。

その中には今まで話したレギュラーもいた。




「弦一郎、少しいいか」

「どうした?」

「昨日言ったマネージャーのことだが、引き受けてくれるそうだ」




真田の視線が私の方を向く。

いつ見ても中学生らしからぬ顔だな。




『よろしく。安心してよ、私はちゃんと仕事もするしミーハーな女じゃないから』

「どういう意味だ?」




真田は顔つきを変えず問うてきた。




『昼に眼鏡の彼から聞いたんだ。前のマネージャーは仕事もしないし色目を使う奴だったって』




丁度こちらを見ていた柳生を指す。

本人は逆光眼鏡のブリッヂを上げていた。

柳生は私が来たことに「おや」とでも言うような顔をしている。




「そうか。蓮二が推薦するのだから問題ないとは思うが、俺達立海大は全国三連覇を狙っている。マネージャーにもそのことを良く分かってもらいたい」




黒い帽子を被る真田の表情は真剣だ。

幸村のいない部を任されているからというのもあるだろうが、生真面目な性格故でもあるだろう。

私は口元を緩く上げて答える。




『勿論、手は抜かないよ。私も元はプレーヤーだったからね』

「ああ、よろしく頼むぞ」




部活が終わる頃に全員に紹介したいと言われたので、コートの端で練習の様子を見ることにした。

去年、一昨年と全国優勝をしてるだけのことはある。

一人一人のレベルが物凄く高い。

でもレギュラーは他の部員とは比べものにならない程強い。

サーブから始まり、レシーブ、前衛ならボレー、後衛ならコートのカバー力。

ストロークやスマッシュなど見ていてほとんど無駄がない。

言うべきはレギュラーそれぞれが個人のプレースタイルを持っている点。




約二時間、彼等の練習が終わるまで私は見入っていた。
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