夢視

□05 図書室にて
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翌日の昼休み、時間があったので図書室に来ていた。

前に通っていた学校よりも立海の図書室は広い。

本棚も幾つあるのか分からない程だ。




(数えれば分かるんだろうけど)




ちらほらといる利用者は皆静かに読書をするか本を探している。

私はこの図書室や図書館独特の静けさが好きだ。

周りから自分だけが隔離されたような感覚になるからだ。

落ち着きたい時、一人になりたい時はうってつけである。




ゆったりとした足取りで目当ての本がある場所に行く。

借りたいのは外国人作者の小説だった。

元の世界でも本はたくさん読んでいたけれど、中でも一番読む回数が多かったジャンルはファンタジーだった。

現実離れした世界観や突飛な設定が読んでいて楽しい。

その影響か洋画も大抵好きだ。




背表紙を見ながら何か面白そうな本はないかと探す。

世界が違うからかやはり見たことのない本がたくさん並んでいる。




(お、あれいいかも)




見つけたのは他よりも少し厚く大きめの小説。

取ろうと手を伸ばすがあと10cmほど届かない。

つま先立ちをしても微妙に身長が足りない。




(私が小さいってか。これでも165は確実にあるぞ)




どこかに踏み台がないかきょろきょろと見渡すがなさそうだ。

適当な所に置いてくれればいいのに、とつい舌打ちをしてしまう。

すると不意に後ろから手が伸びてきた。




驚いて振り向くと柳生がいた。

彼は私が取りたかった本を事もなげに手に取り渡してくる。




「どうぞ」

『あ、ありがとう』

「それと余計なことかもしれませんが、女性が舌打ちなどするものではありませんよ」




聞いていたのか。

てか本当に眼鏡の奥が逆光で見えない。

どうなってるんだ。




「どうされました?」

『え、いや、何でもないよ』

「…そういえば貴女、先日の……」

『うん。今日転校してきたんだ』

「ああ、だからですね」




と、柳生は一人納得したように頷いた。




『何が?』

「昨日から貴女の噂が絶えないのですよ。転校生が早々とテニス部に近づいている、とね」

『ほー、でも私悪いことしてないし』

「そうですね。ですがテニス部を狙っていると勘違いする方も大勢いるでしょう。特に過激な方もいますので気を付けて下さい」

『……忠告ありがとう』




何を言われるかと思えばテニス部に近づいているだと。

確かに下見に来た時には会ったがそれだけだ。

いや、それだけじゃないな。

柳とは同じクラスだし、赤也には絆創膏あげたし、仁王とは目が合っただけだが。

今も柳生と話してるし。

そう思われるのも当然か。




女の嫉妬って怖いな。
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