イケ戦 短編
□初陣
1ページ/3ページ
本編は「女の正体」「稲荷神」「化けの皮」とは別物になっております。
*****
舞さんと共にこの時代に来てしまってから数日、突然軍議に呼び出された。
はて、と首を傾げていると信長様から「戦に出る」とお言葉が。
全く以て聞いておりませんが。
しかも政宗の隊ですってやだー私死ぬんじゃないの。
何考えてんですかね信長様。
アホ面晒してる内に早々と軍議は終わり、支度を整えておけと言われた。
支度と言われて我に返る。
その頃には広間には私と政宗以外誰も居らず皆いなくなってしまっていた。
いつまで経っても立ち上がらない私に痺れを切らしたのか、目の前で手を差し出している。
「置いてくぞ、五十鈴」
「ちょ、待って待って」
手を引っ込めようとしたので鷲掴み、反動で立ち上がる。
勢いの良さにたたらを踏んだ政宗だが鍛え上げた体幹のお陰で持ち直していた。
大股で歩き出す背中の後ろをついて行き、声を掛ける。
「ねー政宗ー」
「何だ?」
「私もさ何か、こう、一応武器とか持った方がいいのかな」
「そうだな。念の為に持っておけばいいんじゃねえか。確か武器庫にまだあった筈だ」
「甲冑は流石に私が着たら笑いものになるだろうし、鎖帷子?」
「動きが鈍るぞ」
くるりと此方を振り返り呆れた顔を見せた。
だって甲冑着れないならどう防げばいいのよ。
中に何か仕込むしかないでしょうが。
歩くペースは落とさずにそのまま話しながら進んでいるが、何処へ向かっているのだろう。
「でもさ、中に何かないと一巻の終わりだよ私」
「心配いらねえよ、俺が守るからな」
「わー男前」
「惚れたか?」
「ないわー」
時折ふざけるのは緊張を解そうとしてくれているのか。
いや違うな、政宗に限って。
私や政宗の室も通り過ぎ、流石に何処へ行くのか気になったので問うてみることにした。
「何処行くの」
「武器庫」
「え、一緒に選ぶの」
「じゃあお前、良し悪し分かるのか?」
「お願いします」
選んでくれると言うなら素直に頼んでおいた方が賢い。
私は刀や武器の良い悪いはさっぱりだし。
丁度通りがかった下働きの人に履物を二つ用意して貰って、火薬庫とはまた別の所にある蔵へ行く。
戦で使う武器を殆ど丸ごとしまってあるので、此処の蔵は本当に大きい。
このサイズが二つ三つと並んでいるのだから、どれだけの兵力武力なのか。
勝手知ったる何とやらで、政宗は閂を外し重い扉を一人で開けた。
中は暗いが小窓から日が差し込んでいて、足場を見失う程ではない。
政宗は迷いもせず真っ直ぐに蔵を突っ切り手招きした。
「ほら、ここら辺にある。弓やら銃やらは使ったことないならこれが一番手っ取り早い」
「おお、いっぱいだね」
簡易的に箱に敷き詰められたり、立てて入れられていたり、実に数百本。
壁一面が刀で埋め尽くされていた。
まあ蔵の中に、他のものと並べて置かれているのだから銘も号もないのだろうけど。
私がうろうろと視線を彷徨わせていると、政宗は一本一本鞘から抜き状態を見ていた。
そして良さげなものを見つけたらしく頷いて、胸の前に突き出した。
「これ?」
「ああ。刃毀れも殆どないし、他のよりも軽い。持ちやすい筈だ」
そう言って受け取れと言わんばかりの目をするのに、更に続ける。
「五十鈴」
「何?」
「お前、いいのか」
何がとは言わなかった。
言わなくても、そこそこ気心が知れている彼の言葉は予想がついた。
突き出されたそれを両手で受け取り、じっと見返した。
真剣な目が少し気遣わし気に揺れている、気がする。
気がするだけ。
「……覚悟は、前もってするもんじゃないと、私は思ってる」
「………」
「いざこれを抜いて突き付けた時、振れなきゃ私はその程度の人間。死んだらそれまでの人間だよ」
「今回の戦でお前が死ぬなんてことはない、とは言い切れないからな」
「そうそう。何があるか分かんないからね」
カチリ、と鯉口を切って刀身を半分まで抜く。
差し込んだ日差しに当たって一瞬眩く光る。
それをまたゆっくりと目に焼き付けるように、そっと収め納めた。
意味のある行動ではない。
けれどちらりと政宗を見ると一人で納得したのか深く頷いた。
「自分の腕斬り落とすようなヘマしたら笑うぞ」
「しませんー」
いつもの快活な笑みに戻ったかと思うと、髪が崩れるまで撫でられた。
直すの大変なんだから止めて欲しい。
そう言いたかったが今回は黙っておくことにした。
.