花嫁Knight

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王宮の生活は思ったよりも快適だった。

朝はメイドが起こしに来てくれるし、服の用意や朝食の支度、分からないことは聞けば教えてくれる。

身の回りのことは一通り行ってくれていた。

行動の制限をされることもなく、入ってはいけない場所も事前に伝えられている。




ただ、それらに監視の目が無ければ。

謁見の際に紹介されたアイゼルは、第一師団副団長は抜け目のない男で何処へ行くにもついて来た。

宮内の図書室へ行くときも、開放されている庭園へ行くときも変わらず。

会話もして雑談にも付き合ってくれるがこうも離れないと、段々と気が滅入ってくる。




仕方ないが彼も仕事だ。

師団の仕事もあるだろうに監視のみ。

私も疲れるが彼も疲れるだろう。

それを見せないのは流石といったところか。




数日が経ち、少しこの生活に慣れ、徐に図書室へ行こうと椅子から立ち上がる。

すると当然、読んでいた本から視線を上げて問われた。




「何方へ?」

『図書室です』




答えれば自然に後を追いかけてきた。

広い宮内の二階にある図書室へはいつも行っている為、不審がる様子は無い。

歩いていると珍しく、彼の方から問いが投げかけられる。




「貴方は、気丈ですね」

『そうですか?』

「ええ。初見から貴方がとても賢い方だとは分かっていました。しかしこうも毎日目があると、精神を病む方も多い。十代とは思えない程心が強い」




数日の内に彼は後ろではなく、隣を歩くようになっていた。

私がそうするよう頼んだからなのだが、こうしていると彼の表情がよく見える。

今は緊張もなく穏やかだ。




「その年の頃であれば、自分の意思とは関係なく、いえ関係もあるかもしれませんが、精神が揺れるもの。何故そう落ち着き払っていられるのか不思議なものです」

『落ち着いて、ですか。……そうですねぇ、一人じゃないから、でしょうか』

「…この宮内では一人でしょう」

『一人ではないですよ。私を主と呼んでくれる彼等が一緒にいます』




これは事実だった。

呼び出さないと目には見えない彼等も、普段から私を取り巻き側にいてくれる。

その力が近くにあることを感じていたのだ。




「どうも、あの方々とは強い繋がりがあるようだ」

『アイゼルさんだってそうですよ』

「私、ですか…」




彼のことは早い内から名前で呼ぶようになっていた。

そう呼んでくれと言われたのもあるし、なら私の事も名前で呼んで欲しいと頼んだ。

最初は譲らなかった彼も今ではイスズと呼んでくれる。




『彼等はこの世にある全ての物を形作っています。その恩恵を受けている人間は、いつも彼等と共にあることになりませんか?』

「彼等と共に……。何となく、貴方があの方々の主である理由が分かりました」

『あ、それ教えてください。未だに分からないんですよ』

「寧ろどうして理解出来ていないのか不思議なのですが。いや、本人程気が付かないものですかね」

『何ですか、教えてくれないんですか』

「というか貴方自身で気付いた方がいいかと」




微笑む彼は教える気がないらしい。




不貞腐れる私を笑う彼と一緒に図書室までの道を歩いた。




一際重厚な扉を開けて中へ入り、目当ての棚へ真っ直ぐに進む。

その棚は魔法関連の本が多く並べられているところで、私が探したい物があるかは不明だ。




今日探しているのは、精霊からの声や信号を物に映す方法。

何故そんなものを探しているかというと、この間の謁見の時にイフリートが言っていたのがきっかけだ。

最近イフリートばかり呼び出していて他の三人が拗ねているとぼやいていた。

呼び出した時にしか彼等とは言葉を交わせない為、向こうから何か伝えたい時に不便だと思ったのだ。




特にウンディーネの場合、お喋り好きだから呼び出した時はマシンガントークをぶちかます。

それに小一時間は付き合わなければ彼女の気は収まらない。

毎度それをされては、必要な時に呼び出しても意味がない。

ならば普段から話だけでも出来ればと思ったのだ。




「何を探しているのです?」

『物を通して精霊の声を聞けたらと思って、その本を』

「………はい?」




彼らしくない返答に此方が振り向いてしまった。

呆けたような顔をして何を言っているのかと言いたげである。




『だから、いちいち彼等を呼ばなくても声が聞けたら便利でしょう?その術式とか載ってる本があればいいんだけど』

「……いえ、イスズさん、此処にそのような本はありませんよ」

『ええ?』




今度は私が驚く番だった。

この広さの図書室ならそういった術式が載っている本もあるかと思ったのに。

何てことだ。

一から自分で考えなければならないとは。




「そのようなことを考えていたのですか」

『まあ、はい』

「今まで誰も考えたことはなかったのですが、何故ですか?」




至極不思議そうに聞くので理由を言えば、またもや先程と同じく微笑んだ。

今日はよく笑う日だ。




「此処でその術式の本を見たことはありませんが、協力は出来ます」

『本当ですか!じゃあ早く』

「図書室にも紙とペンは置いてあります。そこのテーブルでどうでしょう」




テーブルがある方を指差して其方へ行く。

本を探すことは出来なかったが、副師団長の知恵を借りられるとなれば術式も作れそうだ。

嬉しくなってつい頬が緩む。




しかし、そこには先客がいた。




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