跡部様のお姉様

□Game 2
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静かになった小娘達を背中に暫く練習を眺めていると、どうやらひと段落したらしく景吾が集合をかけた。

一声ですぐに集まるその統率力は我が弟ながら流石。

全員を並ばせると私を呼んだ。




幾つもの視線が不審げに寄せられる。

景吾の横に立ち口を開いた。




『初めまして。こいつの姉、跡部柚月だよ。榊先生から君達のコーチを任されたから宜しく』




そう言えば場がざわついた。

そりゃそうだ、コーチなんてさっき決まったばかりだもの。

私も想定外だよ。

すると前に並んでいたレギュラージャージの赤髪が言った。




「跡部、お前姉ちゃんなんていたのかよ!?」

「言ってなかったか?」

「言ってねーし!なあ、侑士」




隣に立っていた背の高い子は侑士というらしい。

その子も同じように頷いていた。




「せやなぁ。そもそも一人っ子や思とったし」

「でも結構似てんな」

「顔立ちとか殆どそのままですもんね」




長い黒髪の子は多分三年。

その隣の子は二年生だろうか。




『年は割と離れてるよ。景吾今年で15だっけ』

「ああ」

『私は今年で21。今は20』

「道理で。そんなら見かけたこと無くても無理ないな」




六つも離れていると同じ校舎へ通うなんてことはまずない。

私は中等部を卒業してイギリスに行ったから知らなくても当然だ。




「あ、てかさ、俺等のコーチやるってマジ?」

「岳人。年上やねんから敬語」

『いいよいいよ、私もあんまり敬語使われるの慣れてないし。そのままで。コーチの話は本当だよ』




突然監督からの紹介も無くコーチをつけられるといっても納得出来る訳もないようで。

矢張り微妙な表情をする子が大半だった。

仕方がないかと思っていれば、レギュラーの一列後ろから一人の声が聞こえた。




「俺等のコーチをやるなら、その人強いんですよね」




視線が彼に集まる。

体格からして三年ではないのかもしれない。

成長途中であるのが窺える。




「日吉…」

「どうなんですか」




口調も目も好戦的な彼は私を睨む。




「自分で確かめてみな」

『あれ、練習は?』

「今日はもう終わりだ。時間も遅いしな」




腕時計を見ると既に夕方の6時半を過ぎていた。

幾ら春になって日が長くなってきたとはいえ、夏に比べれば暗くなるのは早い。

あとそれ程時間も経たずに日も沈む。




『んじゃ、他の子達は解散ね』

「コイツの実力が見たい奴だけ残ればいい」

『姉さんって呼べよオイ』

「いつものことだろうが」




景吾が部活終了を告げるが帰る部員は居らず、急遽決まった私と日吉という子の試合を見るようだ。

それならと、景吾は数人にライトアップをするよう指示を出す。

群がっている小娘達にまでは会話が聞こえていなかったのか不思議そうにしている。




それを横目で見つつ、バッグを持ってベンチへ歩く。

キャンキャン吠えられては敵わないので遠くのベンチに座る。

私のその行動を見て他の部員達もコートを開けるように端へ寄り、真ん中を使えるようにしていた。

バッグからラケットを出して靴紐を結び直す。

体が温まっていないので上着はまだ着ていた方がいいだろう。




軽く腕や足の筋肉を伸ばして髪の毛を纏めた。

そろそろ邪魔になってきたから切りたいな。




「本気出すのは止めておけ」

『なーに?あの子が心配?』

「アイツはこれからまだまだ伸びる。ここで体を壊しちゃ元も子もねぇ」

『随分と可愛がってんのね。安心しなさい。あの子だって私の実力が分かればごちゃごちゃ言わないでしょうよ』




樺地からジャージを受け取り隣に座った景吾は後輩が心配の様だ。

レギュラーのすぐ後ろに居たという事は、あの子も相当強いのだろう。

それがまだ伸びるというのであればこちらとしても一度実力を見ておきたい。




癖になっている首を鳴らす動作をしてラケットを持った。

あの子はもうコートに立っている。




『そんじゃ、行って来るわ』




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