神鳴り様が落ちてきた

□四
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宴から数日後、白鯨を模したモビーディック号は穏やかな航海を続けていた。

穏やかな、と言ってもその間に時々虚は出現しその度に私は倒している。

最初に思った通りこの船はやたらと虚に狙われやすいらしい。

その原因が何なのかは未だはっきりとしないが、一応技局と重國には報告しておいた。




マユリからはサンプルが取れたらすぐに送れと言われ、重國からは続けて真相を突き止めよ、と。

重國は分かるが、あの小僧は私を便利屋か何かと勘違いしているのではなかろうか。

サンプルは送る。

が、集まってからでないと無理だと言えば「私は忙しいんだヨ。手早く確実なサンプルを送り給え」などと宣った。




『帰ったら縛り上げてやろうか』




朝食の時間、ぽつりと呟いたのをマルコに聞かれた。




「おっかねェ。誰を縛り上げるってんだい」

『安心しろ。お前ではない』




宴の後、マルコは一部屋用意してくれたようで、一人部屋を与えられた。

ナースの部屋はいっぱいだからと、元は空き部屋だったらしい。

机とベッドだけの小ぢんまりした部屋だったが寝るには十分だ。

服を入れるクローゼットもついていたし寧ろ有難い。





そのクローゼットにも貰った服や着物を入れるといっぱいになった。

ナースのイザベラがくれたのは紙袋一つ分だったが、その後他のナースからもあれこれ貰っていたのだ。

中には下着も入っており着るには着れてもサイズが微妙に合わない。

こればかりは仕方ないと、次の島に寄った際、一緒に買いに行くことにしている。




着物に関してはイゾウからもう着ないからと大量に貰った。

しかもセンスが良い。

派手過ぎもせず普段着られるようなものが多く、好みの色も伝えれば見繕ってくれた。




「そういや五十鈴」




隣で朝食を食べ終え新聞を読んでいたマルコに呼ばれた。




『何だ』

「明後日、島に着くからよい、必要なモンがあればリストアップしておけ」

『必要な物…』




服以外に必要な物は…履物と日用品だな。

ナースと一緒に行ったときに買おう。




『分かった』

「手が足りなきゃ俺も付いて行くよい」

『手伝いという名の監視だろう』

「分かってんなら態々口にすんな。一応信用はするがお前ェはまだ洗い浚い吐いちゃいねェだろい」

『……これ以上何を言えと?』

「全部だよい。虚ってヤツのこともテメェ等死神のことも」




新聞から視線は上げず声を潜めてそう言う。

粗方は話した積もりだが、マルコが信用できないというのはどの部分なのだろうか。

此方のことは恐らく知られても問題はない。

というより、知られても尸魂界へ彼等が行くのは死んでからだし生きたまま行くことは出来ない。

生きている内に知って何をしようというのか疑問だ。




『虚についてなら大体は白ひげに言ったが』

「は?いつだよい?」

『宴の時』

「…あん時か」




呟いて顔を歪めるマルコ。

私と白ひげが二人で飲んでいた時、マルコは他の隊長達と居た。

話の内容は聞こえていなかったのだろう。




『まあ、此方のことは知られたとしても人間にどうこう出来る訳でも無し。お前がまだ信用出来ないというなら話すぞ』

「……なら今夜だよい」




了承するとため息を吐いて立ち上がり、食堂を出て行った。

すると入れ替わるようにサッチとイゾウがやって来て、私を挟んで座る。

その顔は面白いものを見つけたように緩んでいる。




『顔がニヤついているぞ』

「仕方ねェだろー。あんな敵対心剥き出しのマルコなんて久し振りに見たぜ」

「奴さん、いつもは澄ましてやがるからなァ」




けたけた笑う二人を余所に残っていた朝食の最後の一口を食べ終える。

此処の料理人は腕が良い。

向こうの食事も美味しいが偶には洋食も悪くないな。

雀部が居れば喜んでいそうだ。

手を合わせ『御馳走様』と言うとサッチから「お粗末さん」と笑顔で返ってくる。




「んじゃこれは片してやるよ」

『悪いなサッチ。序にお茶も頼む』

「俺も」

「ハイハイ、ちょっと待ってろってんだよ」




ひらりと手を振ってトレーを持つサッチを見送っていると、横でイゾウが口を開いた。




「聞いた話じゃお前さん、死神なんだって?」

『ああ』

「そのくせ着るものは着物だしこっちの字は読めねェって、大分変わってるな」

『私からすれば此方の方が大分変わってると思うが。白ひげとかブレンハイムとか、何だあいつ等は。巨人か』

「いいや、巨人はもっとデケェよ」




その言葉に少し目を丸くする。

アレよりも更に大きいというのか、一体この世界の巨大さは如何程のものだ全く。

私が表情を変えるとイゾウは何故か笑う。




『どうした』

「いつも仏頂面ばかりだからよ。そんなツラも出来んじゃねェか」

『…そんなに笑っていなかったか?』




思わず自分の頬に手を添えてしまう。

表情筋が硬い方ではないと思うのだが此方へ来てそれなりに警戒していたのかもしれない。

他愛のない話を続けていると、お茶を持ったサッチが戻ってきた。




「イゾウ、何で笑ってんだ?」

「別に大したことじゃねェさ。イイ女は笑ってた方がいいって話だ」

『おい、そんな話はしてないだろう』

「照れてんのかい」

『一度眼科に行って来い』




睨み付けるがどこ吹く風とばかりに聞きもしない。

首を傾げるサッチは不服そうに唇を尖らせた。




「イゾウにばっかり構ってねーでオレっちにも〜」

『「サッチ気持ち悪い/気色悪ィ」』

「あんだと!?オレ様のどこがだよ!?」




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