神鳴り様が落ちてきた

□二
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聞けば矢張り彼等は海賊で、今居る此処は偉大なる航路という海の後半らしい。

そして後半の海にもまた新世界という名で呼ばれているとか。

新世界には前半の海を越えた猛者が集まる。

つまりは更に霊力の強い人間がいるということ。




より虚が姿を現す機会も増えるだろう。

海の上を駆けて片っ端から斬ることも容易いが疲れもする。

体を休める場所はあるに越したことはない。




この船に居れば取り敢えず休むことは出来る、虚も寄ってくるから倒せる。

一石二鳥ではないか。




『白ひげよ』

「あァ?」

『私をこの船に乗せてくれないか』

「テメッ…」




私の図々しい発言をマルコは止めようとするが、白ひげが抑える。




「何故だ?」

『休む場所が欲しい。それと恐らくまた、虚は来る』

「………」




互いに視線を逸らさぬまま十数秒。

白ひげが一度目を閉じ、開けた。




「いいだろう。お前ェは恩人だ、好きなだけ居りゃあいい」

『恩に着る』

「親父!ホントに乗せる気かよい!?」




声を荒げたマルコは信じられないとばかりに矢継ぎ早に続けた。




「まだ信用できると分かったワケじゃねえのに乗せるなんて、俺は反対だよい!」

「マルコ」

「おや…」

「得体が知れねえのは確かだが、コイツのお陰で息子達が助かった。信用できるかどうかは自分で判断しろォ」




少なくとも悪ィ奴じゃねェのは目ェみりゃ分かる。

そう白ひげは言った。

マルコはまだ納得できないと視線を鋭くするが、白ひげの決定は絶対なのかそれ以上は言わなかった。




『安心しろ。何もアレをお前達に向けたりはしない』




甲板で見せた白雷のことを言外に指す。




さて、此処で世話になるなら義骸に入らねばならないな。

見える奴と見えない奴がいるのでは困る。

此方へ来る前に浦原から買った義骸を膨らませる。

アレだ、携帯用の義骸。




窮屈だから義骸に入るのは余り好かんのだがこればかりは仕方がない。

目の前で入って見せると二人に物珍し気な視線を向けられた。




『ああ、これは義骸といってな。通常は疲労した際に此れに入って霊圧の回復を待つのだが、今回は別だ。私の姿が見える奴は問題ないにしても霊感の無い奴には誰がいるかも分からんだろうからな』

「面白ェもん持ってるな」

『だろう?しかし洋服は動きづらいな』




元から義骸が来ている服を摘まんでいると、白ひげは不思議そうな顔をした。




『普段は着物なんだ。洋服は本当に偶にしか着ない』

「なら何で洋服着てやがんだ」

『開発者の趣味じゃないか?』




彼奴め、態々服を買わなければならんではないか。

面倒な…。




すると微妙な顔のままのマルコが口を開いた。




「キモノならイゾウが持ってるよい。借りればいいだろい」

『誰だ』

「十六番隊の隊長だよい」

『この船にも隊があるのか』




外から見てもかなり大きかったこの船にはおよそ千六百人の船員が乗っているとか。

船長の白ひげのことを親父と呼び、船員は皆息子なのだそうだ。

ナースもいるが、彼女らを白ひげは娘の様に可愛がっているらしい。




隊長は一から十六まで、強さの序列はないが取り纏め役をマルコが担っていると。

総隊長のようなものか。

いや、船長である白ひげがいるからマルコはどちらかというと雀部の立場だな。




『お前、苦労してそうだな』

「放っとけよい」




軽口の応酬をしていると白ひげが特徴的な笑い声を上げた。




「仲良くやれそうじゃねェか!」

「親父!」

「グララララ!!」




揶揄うなと言っても無駄だと分かっているのか、蟀谷を押さえてため息を吐いていた。

矢張り苦労しているな。




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