神鳴り様が落ちてきた

□一
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『立てるかい』




振り向いて腰を抜かしているそいつに手を差し出すが、一向に取ろうとしない。

見上げたまま呆けている。




見つめ合う事十数秒。

私の方が切れた。




『返事くらいしろこの野郎』

「でっ!?」




差し出していた手で頭を引っ叩く。

それで張り詰めていた空気も壊れたようで、周りがぎゃんぎゃんと騒ぎ始めた。

やれ誰だコイツは、やれどっから来やがった、喧しいことこの上ない。

お前等は子犬か。




ため息を吐くと奥の扉が少々荒く開いて、そこから面白い形の金髪の男が出てきた。

長身だが眠そうな目をしている。

寝不足なのか、騒いで済まなかったな。




「…何があったんだよい」




よい。

特徴的すぎる語尾が頭の中でリフレイン。

声が黒崎一護にそっくりだ。




「そ、それが…」

『コイツが虚に襲われそうになっていたから助けてやったというのに礼も言わんのでな』




引っ叩いてやった、と言えばそいつは訝し気な顔をする。




「ホロウってのぁ何だよい」

『うんうん。真面に話を聞こうとする奴は嫌いじゃないよ』

「バカにしてんのかい。一応テメェは侵入者だろうが。俺達を知らねえわけじゃあるめぇ」

『いいや、知らんな』




するとこの場にいる全員がありえないと口々に呟く。

何だ、有名なのか。




『生憎と此方に来たばかりでね。何も知らん、が……嗚呼、お前等は随分と虚を引き寄せやすいらしい』




金髪の男が「何を」と言う前に空へ白雷を再び打った。

つられて全員が上を見上げると粉々になった虚の体が崩れるところであった。

先程腰を抜かしていた二人と金髪の男は目を丸くしている。

見えるらしい。




『アレさ』

「な、んなんだよい、ありゃあ…」




見えなかった奴等はまた不思議そうに首を捻っているが、見えないならそのままの方が良い。

生きている内に見ても余り虫のいいもんじゃない。




『お前等に危害を加える気は更々ないよ。此処で話すかい?』

「待て。引き寄せやすいとか言ってたが、どういう意味だいそりゃ」

『お前等の様な霊力の高い人間は、虚、つまりあいつ等の恰好の獲物。彼奴等は霊子を食う』

「レイシ?」

『あらゆる物質や、生物の魂魄と呼ばれる霊体を構成するもののことだ』

「見えてない奴は」

『見える奴等ほど美味くはないが食えるって程度だろう』

「つまりどっちでも食われるってことじゃねぇかい」




苦々し気に言う。

そして近くに居た奴に親父に報告してこい、と告げる。

親父とはこの男のか。




命令が出来るってことはある程度地位のある立場なのだろう。

この金髪の男は話を聞いてくれそうだが、果たして親父とやらは聞いてくれるか。

聞いてくれる奴だと助かるがそうでなければ……まぁ、此奴等をずっと助けなきゃならん義理も無し、先へ進めば良い。




「おい、さっさと行くよい」

『無防備に私を船内へ入れてもいいのか』

「何かしても逆にテメェが袋の鼠になるだけだよい」




睨む男に肩を竦め、足早に歩き始めた背を追いかけた。

外とは違い薄暗く感じる船内のあちらこちらからは賑やかな声が聞こえる。

これだけ大きな船だ。

恐らく乗っている人数もそれなりに多いのだろう。




幾度か角を曲がりやがて一際大きな扉がある部屋に着いた。

此処が、この男が親父と呼んでいた奴の部屋か。




「親父、俺だよい」

「マルコか。入れ」




マルコ、此れがこの男の名か。

響きからするに横文字だな。




扉が随分大きいと思っていたが、比例して部屋の主も普通の人間の体格のそれよりも更に大きかった。

内心、思わず呆気に取られてしまった。

こんなに大きな人間は見たことが無い。

それこそ人間ではないが、十刃だったヤミーとそう変わらないのでは。

ああでも、帰刃した奴の方が大きいが。




その巨大な体躯の前に立ち、視線を合わせる。

先に報告に向かわされた男は戻るようだ。

じぃ、と視線を合わせているとマルコと呼ばれた男が口を開いた。




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