突発文置き場

□十神の災難 (非)日常編
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ここは希望ヶ峰学園の2階、廊下。


藤咲千尋は考え事をしながら、上の空で歩いていた。

そして、曲がり角に差し掛かったところ……


ドンッ!

カシャッ!!

「……いてて……あ、十神クン……!」



前をちゃんと見ていなかったので、向こうから曲がってきた人物……超高校級の御曹司、十神白夜に正面衝突してしまった。


もちろん、双方スピードを緩めるなどしていなかったため、小柄な藤咲は後ろにぶっ飛び、十神も尻餅をついてしまった。



そして、尻餅をついた衝動で、十神の眼鏡が何処かにぶっ飛んでしまった。


「……っ……貴様、何処に目をつけて歩いている!?」


少々顔に血を上らせて藤咲に怒鳴る十神。



「……ごめんなさい……」


藤咲は怒鳴られて、目に涙をためながら消えそうなか細い声で謝る。



「おい……俺の眼鏡をどこにやった?」



眼鏡がぶっ飛んだ事に気付き、慌てて探し始める。



すると、いきなり藤咲が焦ったような、悲鳴に近い声をあげた。



「……!十神クン!?大丈夫!?……と、十神クン…」



そう言って話し掛けているのは十神にではなく、床に膝をついて、床にで。



「……おい、貴様さっきから誰に話しかけている?ぶつかった相手はここに……」



流石の十神でも訝しく思ったのか、怒りを頭の隅に追いやり、藤咲に声を掛ける。



「と……十神クン……返事……返事してよぉ……ぐすっ…」



などとぬかしているので、一体床に話し掛けて何をしているのかと思って覗き込んでみると、



「それは俺の眼鏡だ!!俺はこっちだぞ、この愚民め……」



……そこにあったのは探していた筈の、十神の眼鏡で。



怒りが再燃し、またも怒鳴ると、近くにいたのだろう、騒ぎを聞き付けた苗木と腐川がこちらに走り寄ってきた。



「……あれ?どうしたの、藤咲さ……!!?」



十神には目もくれず、藤咲に近寄り、声にならない叫び声をあげた。



「と……十神クンが……十神クンが死んじゃった……!ぐすっ……十神クン……!」



藤咲が泣きだした事に驚いていたが、さらに変なことをぬかしているので十神はまたも怒鳴ったが…



「んなっ…!!貴様ら、俺はここにいる!!死んでなどいない!!」「キャアァァァァ白夜様がァァァ!!!」



腐川の悲鳴で掻き消されてしまった。

十神の声は3人に届いていないようだ。



そこに見計らったように、忌々しい電子音が校内に響き渡り、モニターに可愛らしい熊が映ったかと思うと、能天気な、聞いていて不快になるような声音で滔々と語りだした。

ピンポンパンポーン…


ガチャン

『死体が発見されました!一定時間の捜査時間の後、学級裁判を開きます』



数分後、モノクマのアナウンスを聞き付けた他の生徒が、続々と集まりだした。


「十神クン!!!」



「十神っち!?」


「ややっ!十神白夜殿が……うわあああああああっ!!」



「十神!?……こんなに冷たくなっちゃって……目を開けてよ!!返事して!!」



そんな皆の絶望感溢れる表情で、あたかも十神が死んだように呟くので呆れて

「……おい貴様ら……それは俺の眼鏡……」



と、苗木の肩を叩いて気の抜けた声で話し掛けたが、


「……君、誰?」



と警戒した表情で睨まれてしまい、更には

「……苗木君……気を付けて。」



常識人だと思っていた霧切までもがとんでもないことを言い出すので、十神は何も言えなくなってしまった。



「あっ……!もしかして、この人が、霧切さんの言ってた……16人目の高校生……!?」



更に苗木が物騒な事を口にし、周囲に戦慄が走る。



「……まさか……!!」



そんな雰囲気に耐え兼ね、朝日奈から眼鏡を奪い取ると、かけて怒鳴った。



「貴様らいい加減にしろ!!俺が十神白夜だ!!」



そこで初めて気づいたかのように、呆けた声をあげる苗木。



「……あ……十神君……」


「十神!!生きてたの!!?」



未だに目に涙を浮かべながら、信じられない、と言うように叫ぶ朝日奈。



「い……いや……あれは……と、十神っちの……十神っちの幽霊だべ!!」



顔を青くしながら十神を指差し、非現実的なことを口走る葉隠。



そんな要領を得ない級友達を見ていると怒りが更に増し、

「いい加減にしろ!!俺が殺されるわけないだろう!!」



青筋を浮かべ、怒鳴り散らす。



「いやいや……そうやって言っている人程ね……早死にするって相場は決まってるんだよ!!うぷぷぷ……死亡フラグってやつぅ?」



音もなく現れ、愛らしい手で口許を押さえながら意地悪く笑うモノクマがいた。



「貴様、何しに来た……」


自分達にコロシアイ学園生活を強いる張本人だ、出てきて嬉しい訳がない。
十神は何とも嫌そうにモノクマを見やった。



「何って?オマエラをバカにしに来たに決まってんじゃーん!!」



天を見上げ、腹を抱えてぶひゃひゃひゃひゃひゃと邪悪に笑う。



「……は?」



そんなモノクマに、苗木が素っ頓狂なこえをあげる。


「一度死んだと思ってた人間が生きてるなんて……絶望だよね……?今頃、この中の十神クンを殺そうとした犯人は、とっても絶望しているだろうね……うぷぷぷぷぷ……」



ハァハァと顔を赤らめ、不気味に笑うモノクマ。



「……どういうこと?……」



その言葉に、霧切が無表情に淡々と聞く。



「さっきね、ボクが【死体発見アナウンス】流したでしょ?その時は確かに殺されてたんだよね……テンション下がるわー……」



「事故かもしれないじゃない。……目立った外傷も無かったし。」



それを聞いて、フーッと息を荒げ、手に隠していた爪を立てると



「霧切さんらしくないねぇ……甘いよ!!甘甘だよ!!韓流ドラマ並みに甘いよ!!いい?事故だってねぇ、立派な殺人なんだよ!」


と怒りだした。



「……それは、自分の不注意が……【自分が自分を殺す】……そうおっしゃりたいのですか?」



顔の前で手を組み、冷静に分析を始めるセレス。



「そうそう!!なんだよ、オマエラゆとり世代のクセになかなかやるじゃん!!実際ねぇ、人が死んだときに殺人じゃないのは病死か老衰位だね…うぷぷ……」



「……それがどうした」



久しぶりに口を開いた十神だったが、やはりまだ機嫌が悪い。



「ん?何かご不満でも?死に損ないのクセに!アーッハッハッハッ!!」



再度、天を見上げ、腹を抱えて大笑いするモノクマ。


「……」



それを無視し、


スッ……



カシャン!



眼鏡に手を掛けると、忌々しそうに眼鏡から手を離した。

もちろん、重力に引っ張られるままに床に衝突する。

そして、それを見た十神以外の人間は、



「十神君!」「十神!?」「あら…」「十神クン!?」



口々に驚いたように十神の名を呼び、モノクマは





「あれれ?今度こそ本当に死んじゃった?じゃあ今度こそ本当の死体発見アナウンス流してくるよ…うぷぷぷぷぷぷぷぷ…」



と口に手を当て、笑いながら背中を向けた。



その様子を黙って見ていた十神は、おもむろに眼鏡を拾い、顔にかけた。



スッ……



「「「え!?」」」



その様子を見て十神は顔に青筋を立てると、



「十神の…名に懸けて、だ……」



唸るように声を絞りだし、全員を睨み付けた。



「と、十神君……?」



宥めようと苗木が声を掛けるが意味を成さない。



「貴様らを、全員……この俺の手で殺す!」



ビシッと指を下ろした。



「十神クン!聞き捨てなりませんな……校則、破る気なの……?」



ギラギラと目を光らせ、モノクマは十神を見る。



「可愛そうな、絶望的に残念なお……江ノ島さんのこと忘れちゃったの?」



「安心しろ……まず貴様を殺してからだ、モノクマ」


高圧的にモノクマを見下ろし、吐き捨てるように呟く。



「あれあれ?それも校則違反だよ?」



「お前じゃない……モノクマを操っている【黒幕】を、だ。」








*終*

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