黒子のバスケ
□私は、今日もkissをする。
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誰も知りはしないだろう。
あのいつも仏頂面を引っさげたこの男が、本当はこんなにも可愛いということを。
告白は中学2年の春。
向こうからだった。
それから2回目の春、私と彼、緑間真太郎は秀徳高校へと入学。
お互い中学と同様、部活三昧の日々を送ってはや1ヶ月。
GWという、一般生徒にとっては至福の、我ら部活生にとっては地獄の日々がラスト1日となった日曜日。
私はやってもやっても終わらない宿題の山を前に、私を足の間に挟み、背後から多い被さるかのように抱きついたまま離れない、自分の彼氏を睨んだ。
「ねー、真太郎」
「なんなのだよ」
「そろそろ離してくれない?」
後ろから抱きついている彼は、バスケだけではなく、学業面でも大変優秀で真面目な優等生。
彼は出来の悪い私とは違ってもう既に課題なんぞ片付けていらっしゃるそうだ。
あー、なんともおぞましい。
その下睫毛引っこ抜いてやろうかな。
女子でもないくせにその長さはいらんだろ、おまえ。
っていうか邪魔だから離れろっ!
そう思いながら彼の腕の中から脱出を試みるも、あえなく失敗。
女子の平均身長程しかない私に、190を超えるこの男を振りぼどけという方が無茶な話である。
案の定、お腹に回されたたくましい腕は私の体を以前にも増して締め付ける。
無言の意思表示だ。嫌だ、という。
ひとつ大きくため息をついて、肩に乗る綺麗な顔を見やる。
「あのねー、真太郎、私が」
『宿題やってないと怒られるの』
そう続けるつもりだった言葉は外に出ることは無かった。
気がついたらあのムカつく下睫毛が私の目のすぐ前にいたのだ。
キスされた、という感覚はいつも遅れてやってくる。
思わず赤く染まった私の頬に、満足気に笑みを深めた彼は、私の耳元に口を寄せて「なんだ?」と囁く。
仕方がないのかもしれない。
私に愛されているという絶対の自信をもって私の鼓膜を震わすこの声の主が、たまらなく愛おしいのだから。
「ライティングの課題やってないと、監督に怒られるんだけどな」
この愛しい彼氏様がそんなことで離してくれるとは全く思っていないのだけれど、彼に愛されているという確証がもっと欲しくて控えめにそう言うと、「俺と課題、どっちが大切なのだよ」と、少し拗ねたような声音で言う彼に今日初めて私から抱きついた。
明日見せてよね、そう言いながら彼の頬にキスをする。
高尾くんも、帝光のみんなでさえ知らない、彼の秘密。
赤司くんあたりなら薄々感づいていたのかもしれないが、流石にここまでとは予想していないだろう。
照れ屋でヘタレな私の愛しい彼氏様は、本当はスキンシップが大好きな甘えん坊なのだ。
そして今日も、愛しい彼にキスをする。