絡繰仕掛の継接ぎ喋々

□時の音色と紫の狂気
2ページ/4ページ

壱が約束の時間を破る事はない。
それは彼の努力の賜物で、信頼。


そして今回もまた確り守られた。


『――――……時連っ!』


連絡、と云う形で。
優秀な人工知能による無線で直接脳内に響く聲は、何時になく切羽詰っていた。


「…っ、壱?」
『今すぐ"時計塔屋敷"に向かって!!時連の方が近いんだ、お願い!!』


全力疾走しているのか、ややぶれ気味の聲に急かされる。


「………、行けよ。酒は預かっておいてやる」


何か察しのか、いやに硬い声音が告げる。
据わった眸の男の隣であまり飲んでいない彼にも頷かれ、礼もそこそこに店を飛び出す。


「……何があった、」


"時計塔屋敷"。
確か彼処は、手違いで制作された壱の"同型"が管理していた筈。


『…解らない。ただ、凄く熱いんだ。尋常じゃない』


「熱い」。
それは管理人の意識だろうか。


VOCALOIDは同じ人形同士、今の我等の様に人工知能を介して連絡を取り合える。
それに加え、同型同士ならば感覚や感情の共有も可能になる。


あの店に居た帯人とzeitoは壱と同型の亜種。故に三原則が欠けた者同士、時間を共にする事で精神の安定を計れるのだ。


壱が感じた熱さも、それと同じ原理で届いたものだろう。何処の誰か迄特定出来るのは、同型同種同士故か。


数分足らずで件の建物がある小規模の森に。踏みいれば漂う、


「(……火事?)」


燃え盛る、臭い。


『―――…時連、』
「今、件の森に着いた。……壱」
『助けて!!お願い!!』


縋る聲が、最悪の想定を押し返す。
泪に濡れた聲が、脚を速める。


泣き顔は、見たくない。


疾駆。


そして、
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ