絡繰仕掛の継接ぎ喋々

□時の音色と紫の狂気
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機械人形参原則。

壱、主に忠実たれ
壱、人間を害すな
壱、自衛怠る可ず

「……へぇ」

カウンター越しの男は其れがほぼ崩壊している。

「珍し、どんな風の吹き回しだ?」
「……貴様、其の者は」
「あ?……ほら、zeitoお客様だぜ」

奴の腕の中で、微動だにしなかった躯がゆっくり此方を向く。

漆黒のボブヘアー、大きな柘榴石の瞳。幼い顔立ちに病的な白い肌。

参原則の一つが崩壊しかけた人形………zeito。

「…………」

はくはく。
音も無く動く唇。
この店の常連が所有する彼は、歌唱人形で有りながら発声に強い抵抗を持つのだ。

「………そうか」

主直伝の読唇術のお陰で会話に不自由する事はない。一先ず彼の安全を確認出来た所で本題へ。

「頼んで置いた酒は、」
「……ぁあ、アレな」

Masterのお使いか、
軽口を叩き乍差し出された瓶。

ブラッディ・ミッシェル

赤色金剛石を思わせるその葡萄酒は、史上の人物由来の地でのみ生産される逸品で有りながら一部の愛飲者間でしか出回らない事で有名だとか。

「てめぇのMasterも酔狂な奴だな。俺のMasterですら滅多に飲まねぇってのに」
「……それは侮辱か」
「残念、賞賛だ。殺人鬼の名前の酒なんて珍しくもねぇが、コイツは話が別だ。コイツを栽培する農地に殺人鬼の死体が眠ってるだの、醸造所に囚われた少年の生き血が混じってるだの、縁起でもねぇ噂に事欠かねぇよーなモンに手ェだす度胸に…な」

ニヤニヤ。
厭な笑みを浮かべる男を睨み酒を受け取ると、控えと代金を支払う。

「……あ?紙が3枚多いぞ」
「…使い序でに壱と此処で落ち合う予定だ」
「………それでも1枚多い」

察しの悪い男の為に、意味有り気に視線をずらしてやった。

「……あ、はぁん、成程な気障野郎」

嫌味を流して手提げに酒瓶を仕舞えば無線受信に反応。確認すれば壱からで、5分後には此方に着くとの事。

了解した旨を送信、視線を前に戻せば和らいだ表情のzeitoと眸が合った。
その手には赤紫の液体で満たされたカクテルグラス。

「……旨いか」
「…(こくり)」
「…そうか」

グラスから離れた唇が僅かに笑みの形を作り、自然と頬が緩む。

「……ほらよ、色男」

不躾な横槍と共に滑らされたタンブラー。

「……スクリュー・ドライバーか」

真面に仕事をする気がないのは主が不在だからか、相手が我故か。

大して気にもせず、一口呷った。
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