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□日溜まり
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ふと、魔が差したのだ。
一度だけ。少しの間ならばと。
その日は高校の開校記念日で。
俺が洗濯当番で。
偶然だったんだ。



あれは俺が高2になる直前。3月のことだった。
父親は所謂転勤族というやつで単身赴任。だから子供の頃から母親と二人きりで暮らしてきた。
とはいえ、父親と不仲という訳でもなくたまにアプリを通して連絡を取り合ったりはしている。

ある放課後の帰り道、スマホを取り出すと父からの連絡通知がきていた。
少し前に父親から新しい赴任先が決まりそうだという話をされたことを思い出し、恐らくその話だろうと呑気に構えながら画面をタップする。
『リツカ。父さんの赴任先決まったぞ。シンガポールだ。』
まさかの海外かと動揺しつつ、『おめでとう、大変そうだけど頑張ってね』と返信するとすぐに既読のマークがつき、更に返信がきた。
『母さん、今回は半年だけついていくって』
それ、俺、聞かされてない。即決過ぎやしないか。てか俺どーすんのさと半笑いになりそうなところに当の本人から連絡がきた。
『お母さん、半年だけお父さんに付き添ってシンガポールにいってきまーす』
『その間、リツカはお隣の部屋のガウェインくん家で一緒に暮らしてもらいます!』
『既に快諾済みです。たまに帰ってきます。よろしくね。』
事後報告にも程があるだろ。
というか、ちょっと待ってくれ。
ガウェインと一緒に暮らすって。
なに。
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