シンジャ小説


□休日の先生
1ページ/2ページ


電車に乗り込んだと同時に出発を知らせる音楽が鳴り終わり、扉がすぐ側で閉じた。

車掌さんのアナウンスを聞きながらマフラーを取る。

走り始めた電車はガタガタと揺れ、それの動きに合わせて体が揺れる。

わざと空いている時間を狙ったのだから、当たり前と言えばそうなのだが席はすかすかだ。

今日は一駅先の大きめの本屋で予約していた本を取りに行く。

太陽は沈み始め、オレンジ色の光が車内を照らす。

それが眩しくて目を伏せたとき、ふと紫紺の綺麗な色が視界に入った。

先生だ…

そう心の中で呟く。

今日は日曜で、学校もお休みで、会えるなんて思ってもいなかった。

先生は席に座ってぐっすりと眠っている。

同じ車両に知り合いがいないことを確かめてから、先生の隣に座った。

もし先生が起きていたら隣どころか近くに座ることも躊躇っただろう。

先生と話せないことは残念だが、そう考えると先生が寝ていて幸運だったかもしれない。

一応起こさないようにと気を付けながら座ったが、先生が起きる気配は一切ない。

先生の格好はラフな服装だから、どこか買い物にでも行くのだろうか。

そう考えつつ、現在の時刻を確認したくなり鞄から携帯を取り出そうとする。


そのときに事件は起きた。

いや、事件というと大袈裟かもしれないがあのときの私にとっては大事件だった。

電車がガタッと大きく揺れたかと思うと、先生がこちら側に倒れてきたのだ。

しかも倒れてきた場所は太股辺り。

世間でいう膝枕を先生にしている状況になったのだ。

嬉しいやら、恥ずかしいやら、緊張するわで普段はあまりかかない汗もかいてしまう。

先生が目を覚まさないことを願いながら、そっと先生の髪に触れる。

先生の髪は相変わらずサラサラで触り心地が良い。

しばらく先生の髪や頭を撫でていると、もぞもぞと先生が動き始めてぎょっとする。

が、起きた訳ではなく少し動いただけのようだった。

そのことに安堵していると、間もなく駅に到着することを告げるアナウンスが聞こえた。

もう少しこのままでいたいという気持ちもあるが、
もし学校の関係者に見られたら大変なことになるという自覚はあるので、予定通りの駅に下りるつもりだ。

だがその前に先生を起こさなくてはいけない。

膝枕をしている状況で先生を起こしたりなんてした日には
私は恥ずかしさで1週間は先生と会話は愚か、目を合わせることも出来なくなるだろう。

そんな状況には絶対になりたくない。

ので、先生の位置を元に戻し、何もなかったかのように先生を起こしてから私は電車を下りてしまえば良いのだ。

これなら何も問題がない。

そう思いさっさと先生を元の位置に戻す為に先生の肩を持ち、動かそうとする。

しかしピクリとさえも動かない。

自分の力が弱くなってしまったのかもしれないと思い、今度は思いきり力を込めて動かし、先生の肩を私の肩ぐらいにまで上へ持ち上げた。

そのとき。


金色の瞳と目が合って、先生はニコッと笑った。


私は瞬時にあぁ、これで1週間は先生とまともに顔を合わせられないなと思ったのでした。


****
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ