文豪ストレイドッグス

□ゆるだる生きてく。
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パンッ、パンッと軽い音が手の中で弾けた。軽い音のくせに思いっきり振動するから手がじんじん熱い。いつまで経っても慣れない感覚だった。

「――命中率 B。そんなんじゃボスのお役に立てないぞ!」

「すみません!」

反射的に謝るものの、異能も何も持っていないくせに銃を持たせるほうが悪いと思う。
いや、でもしかし多分上層部も驚いたのだろう。
ただの雑用、言い換えれば鉄砲玉が――最年少で幹部になった『太宰治』の補佐になってしまうなんて。



ことの発端は一週間前。
強く、頭もいいことと引き換えに協調性を失った『太宰治』はとことん会議をさぼっていた。もしくは遅刻した。
よく同僚に「仕事しろ」と言われる私でもこれはできない。命に関わる系のサボタージュは一種の自殺である。しかも処刑方が、顔面をガッ!ってやってからのグワッ!でドギャンッ!って。どこまで意識あるのかわからないけど絶対痛い。
実はそんな命知らずの彼を探しにいくのも私の仕事だったのだが――私は『太宰治』の顔を知らなかったため、適当にブラブラ組織内をうろついてはお昼寝スペースを確保していた。楽しかった。
流石に下っ端が行ったらまずそうなところは避けたが、もし誤って踏み込んでしまっても、『太宰治捜索班の者です。こちらにいらっしゃっていますか?』と聞けば一瞬で同情顔になる。
ありがとう、顔も知らない太宰治。お陰で休憩するのに穴場なところをいくつも見つけたよ…!

話を戻そう。
ともかく彼は優秀でもあったが、同時に問題児でもあったのだ。
結果、業を煮やした上層部は彼に補佐、言い換えれば見張りをつけることを決めた。
ところが太宰治はなんと交換条件をつけてきたのである。
曰く、『見張りは鉄砲玉の一人に。くじびきで決めること』
自分が悪いというのに一切悪びれもせず、こういうことを突きつけるあたり、彼は相当食えない性格とみた。
代償は『今話題の芥川の面倒を自分が見る』ことだったらしいけども。

芥川君は、根はまじめなんだけど、薄暗い過去からくるキレっぽさと病弱な身体のせいであと一歩のところで幹部になりそこねている。一回だけ会ったことがあるけど「雑魚に用はない」なんて言われてしまった。下手したら太宰治よりも捻くれてるかもしれない。
捻くれ者を捻くれ者が面倒を見る…おお、波乱が起こりそう。

また脱線した。
結論から言おう。補佐の件は見事にこのやる気なき子がくじを引きました。
面倒だと思って最後まで残ってたら、『残り物には福がある』方式でくるとはね。現実って手厳しいね。
ちなみに私自身は一切嬉しくない。いつ死んでもおかしくないなら、今みたいなゆるゆるな幸福の中死んでしまいたい。
それなのに顔も知らない幹部にこき使われた末の死とか…。あー、いやだいやだ。


腫れてしまった手を冷やしながらぼんやり歩いていると、前方から包帯男がやってきた。

「おお、包帯くん」

「また君か」

また、なんて言いながら包帯くんは嬉しそうな(気がする)様子でこちらに来た。

彼の名前は知らない。所属も、年齢も、何一つしらないのだ。いつ見ても新しい包帯に包まれてるから包帯くんなんて呼んでる。本人もそれに甘んじてる。

出会いは一ヶ月前だったか。
私が穴場にさぼりに行ったら彼は穴場@でぼんやりお菓子を食べてた。
彼は相当驚いていて、どうしてここに、なんて聞こえた気がするけど、とりあえず彼が食べてた「ポッキーリンゴ味」が邪道すぎてなんか笑えた。

「それくれたら私、誰にも言わないよ」

呆気にとられた彼と共にもそもそお菓子を食べた。
最初はとんでもない殺気を浴びせられながら食べてたけど、それをなんどか繰り返すうちに(どういうわけか、太宰治を探してるとみつける)私達は菓子友になっていたのだ。

「ほーたい君。お菓子頂戴」

「君、ほんとすきだねぇ。そんなに甘いものが食べたくなるのかい?」

「包帯くんの弱みの味がするからおいしいんだと思うよ」

「…」

引き攣った顔になった包帯くんには目もくれず、私は彼のコートを漁り出した。

「こら」

「お菓子」

「小学生じゃないんだから」

そう言いながらも渡してくれる辺り、優しいよねえ。
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