ワンパンマン
□誰も見てはならぬ
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*注意*
かなりファンタジー
魔法とか魔力とか適当に読み流してください。
魔法というのは本当に恐ろしいものだ。
訓練しなければ使えないものの、訓練してしまえば誰にでも使えてしまう。
そしてステータスの標準がある程度できれば、魔力の差や、家系から生まれる差別もできあがるものだ。
この国には、私が絶対理解できないことが二つある。
一つは、自分の結婚相手が『魔法の鏡』によって決まってしまうということ。
18になった少女は、国で一番大きな教会に行き、司教様から鏡を渡される。
そこにうつった者と少女は結婚しなければならない。
時折、何も写らなかったり、真っ黒に塗りつぶされていることがある。
何も写らない場合は、『まだ生まれていない』又は『まだ結婚する時期ではない』。黒い場合は『相手はもう死んでいる』。
魔物などがいるこの時代、後者は珍しくなかった。
しかしこの鏡は案外ロマンチストらしく、運命の相手以外との結婚は一切認めなかった。
ようするに、自分の意思と関係なく老人や赤ん坊と結婚する人もいるということだ。解せぬ。
本当に、理解できない。
私の今目の前に、まさにその鏡がある。
「あのー、司教様。私、まだ結婚したくないのですが」
「そんなこと許すと思うか!鏡のいうことをきいていれば幸せになれるんだ!」
って…妻になるべき人が流行り病で5歳のときに死んでた人に言われてもねえ…。
「シオリ、はやくみなさい」
「そうだ。後が詰まってるんだからな」
…なんで自分のだんな様見るのにそんなチケット販売みたいな扱いうけなきゃいけないんだろう。
口角が引きつるのを感じるが、おとなしく頭をたれた。
「…司教様。お願いします」
「うむ」
うむじゃねえよ。
若干きれぎみになりながら、私は、私はようやく覗き込んだ。
せめて真っ黒じゃなきゃいいなあ、と思いながら覗き込むと
「あ」
「うわあああああああああああッ!!!」
ガシャアンッ!と鏡が砕け散った。
え、これいいのかな。後ろ詰まってるんだよね。
そう思いながら司教を見ても、彼はブルブルと震えるばかりだ。
「し、司教様!?どうなさったのですか!?」
「っあ、あの男だ」
「え?」
「災厄の子だ…!災いが!!少女へと襲い掛かるだろう…ッ!!」
一瞬の間をおいて、教会は阿鼻叫喚に陥った。
お母さんが倒れる。父親が泣き叫ぶ。
司教が震える。子供が怖がる。
その中で。
(…おなか空いた)
私はぼんやり砕けた鏡を見ていた。
***
この国の理解できないこと二つめ。
それがボロスという『災厄の子』に対する皆の反応だった。
彼はまず出生からして『忌むべきもの』だった。
母親は名高い家系のお嬢様。
そして父親は、魔物の頂点にたつ、ドラゴン。
しょうがなかった。それが『鏡』の下した結論だったのだから。
それなのに、彼女の家は彼女と縁をきり、子供が生まれても誰も祝わず、彼女が死んでも悲しまなかった。
更に生まれた子供が一つ目、ピンクの髪、紫の肌だと知るや、世間は彼を蔑んだ。
「娼婦の子」「不自然」「死ね」「消えてしまえ」
どれだけその言葉が彼に刺さったかは知らない。
彼はその一つ目の碧玉をきちんと前に向け、胸をはって生きていた――少なくとも彼の父親であるドラゴンが死ぬまでは。
と、いうのも。私が最後に彼を見かけたのが彼の父親が死ぬ前の、彼が13、私が11のときだ。
彼は唐突にどこかに消えてしまったから。
数年後、理由を知った。
彼は『災厄の子』として、国のはずれに強制連行させられたのだった。
そう。ちょうどその時期、厄病がおおいに流行った。赤字大セールだった。
私は幸いにしてかからなかったものの、同世代の子供たちがバタバタ死んでいった。
世間はその原因を――彼の一つ目のせいにした。
「その目で見つめられた者は死んでしまう」
と。
***
「し、司教様!なんとかならないものでしょうか…!」
「こ、こればかりは…誰にも変えられないのだ」
「そんなっ…」
数十分後になんとか落ち着いた教会で私の母が取りすがった。
「別にいいよ…」
思わず声をかけると、ぐわぁっと目を見開いた母が叫んだ。
「何が、何がいいものですか…!災厄の子と付き合って、何が幸せになるというの!?」
「いいじゃない。彼の近くにいれば泥棒だって近づかないよ」
「その前に死んでしまう…!」
「ま、まあまあ、お母さん落ち着いてくだされ。今彼をつれてきます」
その言葉に再び教会がざわめいた。
「さ、災厄が…災厄がくる…!」
「今日はもういいわ。帰りましょう!」
「お母さん、怖いよう」
「で、では関係のない人は外に――」
司教の見習いが声を張り上げる。
ふと、私は教壇の前に、魔方陣が見えた気が――。
「――呼んだか」
次の瞬間、そこには長いローブを着た長身の男がたっていた。残念なことに後姿である。
…2mぐらいだろうか。後ろから見ても威圧感が半端ない。
なるほど。
彼が、ボロス。
災厄の子。
「ひ、ひいい…ッ」
面白いことに、この場にいた私以外の全員が腰をぬかした。
見事なまでにシンクロである。
「…腰をぬかしているだけでは分からないだろう。一体何の用だ」
カツン、と一歩踏み出した。
後ずさる人々。
「か、かがみにっ…!」
なんとか司教が声を張り上げる。
「鏡に、お前の姿が、うつったのだ…」
「…鏡?」
「お前は、そ、そこのシオリという女性と…結婚を」
彼が…ボロスが振り返った。
じゃらりっ…
私は思わず眉をひそめた。
彼の目には皮でできた細長い帯のようなものが巻きついている。
更にその上から鎖が巻かれたいたのだ。
何かの拍子に、それがとれないように。
酷い束縛だ。
「…俺は結婚なんてせんぞ」
「か、鏡のお告げだ!」
「俺のような災厄の子を生んだ鏡に、どこまで信頼をよせるんだ」
「し、仕方ないことだ…仕方のないことなんだ…!」
怒気を滲ませる声色に、もはや土下座をしてる司教。
私は思わず声をかけた。
「司教さん…怯えないほうがいいよ」
「だがっ…」
「…ボロスさん、その反応を楽しんでるだけだから」
「「…は?」」
声をあげたのは司教と、ボロス、いやボロスさん。
「楽しん、で…?」
「…ばれたか」
「なっ…!」
羞恥心やら怒りやらで顔を赤くさせる司教様を放って、私はボロスさんに近づいた。
「っシオリ…!」
母が私を引きとめようとするが、かまわず近づいた。
その束縛の上からでも視界は有効なのか、彼の視線を痛いほど感じた。
「ボロスさん。さっき結婚しないって言ったよね」
「ああ」
「奇遇だね。私もまだよく知らない人と結婚したくないの。だからさ」
手を差し出した。
「とりあえず、友達になろっか」
教会の全ての音がとまった。
ボロスさんも微動だにしない。
たっぷり十秒後。
「っく…くくくくくっ…くははははっ!」
ボロスさんが、笑ってる。
そのことに心中で驚きながら、私は彼を見つめた。
「…いいだろう。シオリ。俺と、『友達』になろうではないか」
こうして、私は一風変わった友人を手に入れたのだった。
「まあ…友人で止まる気はないがな」
「?ボロスさん何か言った?」
「風だろう」
それはまた、別の話だ。