ワンパンマン

□春先のインディゴ
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人生わからないもんだな、と大人のようなことを言ってみる。怪人のせいで家族を失い、助けてくれたヒーローを恨み。そのヒーローと…詰まる所恋人になるって、中々に数奇な人生だと思う。
はて、告白はどちらからだったろうか。俺ではないと思うが、彼女からでもないと思う。だが彼女がそれらしいことをごちゃごちゃ言っていたから、それに頷いて俺と一緒にいて欲しい的なことを言った気もしないでもない。長らく曖昧な関係を続けていたせいか、よくわからない点が多々あるが、まあ今の関係性に満足しているし幸せだとも思うから良しとしよう。


「タツマキさん、朝」
「んっ…るさい…」
「飯冷めるんだけど。希望通りフレンチトースト」
「………起きるわよ。起きれば良いんでしょ」


そんな俺たちの一日は俺が朝食を作り、タツマキさんを起こすことから始まる。寝起きのタツマキさんはまだ意識がはっきりしていないのか、悪態はつきつつも子どものよう。
タツマキさんが洗面所に行っている間に温かいコーヒーを用意する。ミルクだけで砂糖は入れない。甘いものは好きらしいがコーヒーは苦いのがいいのだそうだ。


「おはよう」
「…おはよう。本当に作ったのね」
「タツマキさんが食べたいつったんだろ。美味しい?」
「…不味くはないわ」
「良かった」


素直に褒められない性分だと理解すればわかる、最高の褒め言葉を貰い頬が緩む。料理なんて、ここに来るまでは学校の授業ぐらいでしかしたことがなかったが、自分が作ったものを美味しいと言って食べてくれることがこんなにも嬉しいなんて知らなかった。相手が好きな人であればそれは一層。きっとあのままあの家で過ごしていたら、自分が料理をすることも、母さんのレシピノートを見つける事もなかっただろう。それこそ廃人になっていた気がしてならない。


「何見てんのよ」
「可愛いなぁ、って」
「っば、馬鹿言ってないであんたも食べなさいよ!」
「味見で食ったから」


顔を真っ赤にするタツマキさんはとても可愛い。俺だって恥ずかしいんだ。可愛いとか言うのは正直キャラじゃない。だけど自分が恥ずかしい思いをして、相手も恥ずかしく思って、というのが良いバランスだと思うから結構頑張って言ってる。他人から見れば惚気以外の何物でもないだろうが。


「餓鬼のくせに…っ」
「だから頑張ってんじゃん。むしろ褒めてくれたって良いと思うけど」
「褒める要素がないわ」
「…せっかく見た目もタツマキさん好みにしてんのにな。髪、染め直そうか」


なんて言ってみると、タツマキさんは俺を鋭く睨みつけた。顔は相変わらず赤いままで、まるで怖くないのはきっと俺が彼女に心底惚れているからだ。昔はこの目が怖かったのに。人間変わるもんだ。


「冗談」
「…あんた、本当生意気になったわね」
「否定はしない」
「…だから餓鬼は嫌いなのよ!」
「俺はタツマキさんのこと好きだよ」


軽く微笑んで言うと、タツマキさんが俯き体を震わせる。…ああ、これは、やり過ぎたかも知れない。大人をからかうのはやっぱダメだな。特にタツマキさんのような人種は。


「一回死になさい!」
「ちょっ、落ち着けって!悪かった!謝るから!」


辺りの物がタツマキさんの怒りにより流れ出る念力のせいで浮き上がる。頭を下げて心の底から謝るが、本音を言ってしまえばこれからもきっとからかい続けるだろう。だって、可愛いから。好きな女の子を虐めたくなるのが、男ってもんだろ。

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